「今年は涼子ちゃんもくるってさ。」

幼なじみの聡からのメールに書いてあったその言葉がキッカケで、僕は初めて同窓会に出ることを決意した。

毎年この時期になると聡から同窓会の誘いがくるが、
「別に昔の友達になんか会いたくねーよ。」
と毎回断りメールを入れ続けていた。

でも本当の理由は違う。

ー同窓会に涼子ちゃんはいないからー


涼子ちゃんとは、僕が中2の時の同級生。清楚でいつも読書をしている女の子。

そして、僕の初恋の相手。

といっても告白なんてしちゃいない。

何度か会話を交わした事があるくらいで、基本的には遠くからニヤニヤ見つめたりするくらいだった。

告白する勇気なんてなかっし、そんなシャイな自分がちょっとカッコいいと思ってた。

しかしそんなある日、

涼子ちゃんは誰にも別れを告げずに突然転校してしまった。

初恋の相手にもう会えないんだ、という絶望感は中2にはかなりこたえた。


あれから15年。

まさか聡からこんなメールがくるなんて想像もしていなかった。

「同窓会のお知らせ!
◯月◯日!毎年恒例の同窓会あるよ。

今年は涼子ちゃんもくるってさ。

育美がFacebookでみつけて声かけたらしいんだけど…」

最後まで読まずに速攻で
「いくわ!」の返事。

Facebookの仕組みなんてよくわからないがそんな事はどうでもよかった。

会ったら告白か?

ワクワクが止まらない!

いても経ってもいられず、その日は意味も無く筋トレをしまくった。


同窓会当日。

いろいろ考えた結果、

今日は告白も、昔好きだった事も涼子ちゃんには伝えない事にした。

会えるだけで満足なんだ。

そう決めたんだ。


ただ、同窓会の開始時間にはちょっとだけ遅れて行く事にした。

その方が、、なんかカッコいいからだ。

会場は地元の大きな居酒屋。

入口の前でなんとなく深呼吸をしてから引き戸に手をかける。

と、

その瞬間、背後から僕を呼ぶ声がした。

「友くん?」

振り返ると、ブランドもののバッグを手にした派手目でスレンダーな美女が立っていた。

「…え、そうですけど…。」

「ふふ、やっぱ友くんだ~。久しぶり。」

「え…えーと…」

「井澤涼子だよ。」

不意をつかれた。

まさか店に入る前に会うなんて。

そう、井澤涼子こそ、僕の初恋の相手"涼子ちゃん"なのだ。

しかし、当時の清楚な印象の涼子ちゃんの面影はそこにはなかった。

「ま、まじで涼子ちゃん?久しぶり~。あれ?なんか雰囲気変わった?」

しどろもどろに聞いた。

「そう?15年も経ってるから人は変わるよ~。でも友くんはあんまり変わってないみたいだねw」

可愛い。

危なく

「好きだ!」

って言いそうになった。

ダメだ。会えるだけで幸せなんだ。

「あ、あれ?遅刻なんだね。」

「友くんだってそうでしょw」

「そ、そっか。な、中に入ろうか。」

そう言いながら再び引き戸に手をかけた僕に、涼子ちゃんから意外な一言が返ってきたのだ。

「ねえ、2人だけで同窓会しようよ。」

「えっ?」

頭が真っ白になった。

さらに涼子ちゃんは続けた。

「遅刻しちゃったし、みんなとダラダラ喋るより友くんと喋る方がなんか楽しそうだなあって。」

涼子ちゃんってそんなに積極的な子だったのか!?

「う、うん、いいねえ。俺の車でどっか行こうか」

頭が真っ白のまま、僕は慌ててカッコ良さげな返事をした。


2人は車へ乗り込んだ。

"俺の車"といっても親父に借りたダサいセダン。

積んでるCDももれなくダサい。

唯一マシなのはビートルズのベストくらいか。


「音楽…ビートルズでもいい?」

「うん!私ビートルズ大好き!」

ありがとう親父。

サンキュー、ジョンレノン。

はじめこそ緊張したものの、担任の先生の話や体育祭の話などの昔話に花が咲き、かなり打ち解けることが出来た。

"体育祭の時に校長が転んだ"と言う話の時にステレオから丁度「Help!」が流れた時には2人で爆笑した。

30分後、車は街一番の夜景が見える高台に着いていた。

ここは「恋人達の丘」と言われ、"ここでキスをした2人は結ばれる"というジンクスのある場所だ。

「うわ~、綺麗~。」
夜景を見ながら呟く涼子ちゃん。

「ほんと、綺麗だね。」
彼女の横顔を見ながら呟く僕。

最高の時間だ。

15年前のあの時、
涼子ちゃんに告白出来たらどんな人生になっていたのだろうか…。

彼女の横顔を見つめそんな事を考えていると、

突然、涼子ちゃんが夜景を見つめたまま言ったのだ。

「友くんとキスしたい。」

「え?」

僕は耳を疑った。

「な、なに言ってんの?冗談やめてよ~。確かにここは恋人達がキスをすると…」

「私ね、昔…友くんの事好きだったんだ。」

冗談ではなかった。

憧れの涼子ちゃんと僕は両思いだったということだ。

よし、気が変わった。

僕も言おう。


ー昔好きだったー

って。

緊張で心臓がはりさけそうだ。

覚悟を決め、、

「…実は僕も昔…涼子ちゃんのこと…好きだったんだ!」

言えた。彼女もきっと喜んでくれただろう!

…そう思っていた。

しかし現実は違った。

なぜか長い沈黙が続き、

数分後やっと涼子ちゃんはその重い口を開いた。

「…ごめん。」

そう言いながら申し訳なさそうな顔でこちらを見る彼女。

「え?ああ、俺変な事言ったよねw」

「そうじゃないの!ごめん!やっぱりこういうのよくない!」

「…どうしたの?」

「本当にごめんなさい!私…嘘ついたの!

実は私…

涼子じゃないの。」

「え?」

頭が混乱した。

涼子ちゃんは涼子ちゃんじゃない?

"涼子ちゃんではないという女"は泣きながら続けた。

「友くんが昔、涼子の事好きだっていうの知ってたから…嘘ついて…こうしたら2人きりになれるかなって思って…」

さらに頭を混乱させた。一体この女は誰なのか。

「え?じゃあ誰なんだよ!」

「かずみ…いとうかずみ。」

いとうかずみ?…どこかで聞いたことがあるような…


…思い出した!

中学の時に同じクラスにいた、気が強くて男勝りで「女番長」のあだ名がついていた伊藤和美だ!

確かによく見ると和美の面影がそこにはあった。

「うわ、ホントだ!お前和美じゃねえかよ!」
「騙してごめん!」

まさかこんな事になるなんて。

突然涼子ちゃんが現れ両思いだと知って告白したら、それが涼子ちゃんじゃないなんて…。

「マジかよ!俺がどれだけ涼子ちゃんの事が好きだったかわかっててそんな嘘ついたのかよ!」

「ごめん!ホントごめんなさい!」

「まあいいけど…

…じゃあ、

…キスしよっか。」

「え?」

「すげー綺麗になってんじゃん。色っぽくなったっていうか。キスしよっか。
俺の事好きだったんでしょ?俺は別にいいよ。」

「え?いや、でも私涼子じゃないし」

「そういうのはもういいじゃん。しよ?ねえしよ?」

「いや、でも騙しちゃって…」

「じゃあ、その騙しちゃった罰って事でいいよ。キスしよ?先にしたいって言ったのそっちでしょ?早くしよ?」


男にはこう言う最低な部分があるよ、っていう話。