●中型オートの傑作

 

 19世紀末、ジョン・ブローニングはウィンチェスターと良好な関係を築き、数多くのレバーアクションライフルやショットガンを開発したが、契約金の支払いや製造権の買い取りなどに問題が生じ、両者の仲は冷えきってしまった。

 そこでブローニングはアメリカからベルギーへと渡り、1897年にFN(ファブリックナショナル)と契約を結び、FNはブローニングが開発したピストルのヨーロッパへの全ての販売権を獲得する。

 

 ブローニングは1908年頃に量産品として初めてストレートブローバックを採用したM1900を完成させ、FNの手によって1899年に発売された。M1900は70万挺(100万挺という説もある)を超える大ヒットとなったが、その改良版として1912年に発売されたのがM1910である。

 

 

 M1900ではバレル上部にリコイルスプリングを配置していたが、M1910ではバレルの周囲に巻き付けることによって小型化に成功した。また.32口径のほかに.380口径も追加され、よりハイパワーな弾薬を選択できるようになった。1923年にベルギー軍に制式採用されたのを皮切りにアメリカを除く世界各国の軍や警察に採用され、日本でも将校用ピストルとして人気を博した。

 

 1954年になるとスライドの刻印とグリップのロゴを変えた「M1955」と呼ばれるモデルがアメリカへ輸出されたが、ケネディ暗殺を受けて1968年に「GCA68」が成立すると、その規定に合わせてフレームとスライドを延長し、ターゲットサイトを載せた「M10/71」が作られた。M1910は1975年に製造終了となり、最終的に70万挺以上が製造される大ヒットモデルとなった。

 

 

●ナイロンバレル&アルミカート

 

 ブローニングM1910。それは比類なき美しさを持ったピストルである。なかでもスライド先端の造形は見事だ。平面と曲面のバランスが素晴らしい。携帯性を高めることを重視した設計になっており、そのスナッグフリーに徹したデザインは、まさにスレンダーといった感じ。

 

 かつてはMGCやコクサイなどのメーカーがM1910のモデルガンを作っていたが、いずれも廃業してしまい、いま残っているのはマルシンの1社のみ。そんなマルシンから久々にM1910が再販された。しかも、ただの再販ではなく、カートリッジが真鍮製から軽量なアルミ製に、バレルが強度の高いナイロン製に変更されたとのこと。最近のマルシンは既存モデルのリニューアルに積極的だ。近々、25オートがセンタファイアー化されて帰ってくるそうなので、そちらも気になるところ。

 

 

 さて、パッケージは共通の青いボックスではなく、M1910の断面構造図が描かれた専用のものだ。私が記憶している限り、このパッケージが使われ始めたのは前回のロットからだったはず。

 

 

 最新ロットの目玉の1つであるアルミ製の発火カートリッジ。弾頭が銅色に塗り分けされており、ダミーカートのようなリアルな雰囲気。もちろん、アルミ製ということで超軽量。

 

 

 マガジンはスチール製で装弾数は6発。

 

 

 スライド左側面には「FABRIQUE NATIONALE」の刻印が入る。

 

 

 あれ?マルシンの刻印が消えている。エジェクションポートの下あたりに「MFG MARUSHIN」の刻印があったと思うが、今回のロットでは削除されたようだ。細かいところではあるが、こういう仕様変更は結構嬉しい。雰囲気を損ねる刻印が消えたことで、スライド側面が一段と凛々しく見える。

 

 

 M1910にはスライドストップの機能が付いていないが、セフティを押し上げ、スライドのノッチと噛ませることで後退位置で固定することができる。

 

 

 マズルに目を向けると、ギザギザ加工が施されたブッシングが目を引く。

 

 

 もう1つの目玉がナイロン製の強化バレル。タナカのSIG P228やトカレフでもナイロン製バレルを採用しているが、それらに比べると艶が控えめで、表面がわずかにザラザラとしている。

 

 

 サイトはスライドトップに切られた溝の中に収められている。そのため、サイズはフロント/リアとも非常に小さい。フロントサイトは全長5mm、幅1mm程度という極小サイズ。あまりに小さく、あまりに薄い。

 

 

 フロントサイトに合わせてリアサイトも極小サイズでノッチも浅い。使い物にならないサイトの割にスライドトップの溝には反射防止のセレーションが丁寧に入れられている。この一貫性が感じられない点もまた面白い。

 

 

 エジェクションポートは小ぶりで可愛らしい。

 

 

 マルシン M1910の泣き所は“お尻”だ。スライドとフレームの分割ラインがちょっと残念なのだ。

 モデルガンは上から樹脂製のスライド、金属製のスプリングベース(ストライカー受け)、樹脂製のフレームと三分割になっているが、実銃はスライドとフレームの二分割。つまり、スプリングベースとフレームが一体になっているのだ。

 強度が必要なスプリングベースは金属で作りたいが、フレームを金属で作ることはできない。そういうモデルガン特有の制約で、このような構造になっているのだと思うが、どうしても気になってしまう…。

 

 

 トリガーは前面がめくれたような形状で、ややワイドになっている。トリガープルは重めだが、ストロークは短め。

 

 

 M1910はマガジンセフティ、マニュアルセフティ、グリップセフティと3つの安全装置を備え、当時としては先進的な設計であった。

 マニュアルセフティを押し上げると、シアがロックされ、安全状態となる。小さいうえに薄いので操作性に関してはイマイチ。第一、グリップセフティも付いているので、わざわざマニュアルセフティと併用する人は少ないとは思うが…。

 

 

 FNのロゴに目の細かいチェッカリング、そして艶のある質感。うーん、M1910といったら、このグリップですな。グリップがフレームに対して微妙に小さく作られているのがブローニングっぽい感じ。

 実測値でグリップの厚みは26mm。ちなみにミリガバは33mmだったので、M1910のグリップは圧倒的に薄い。そして、グリップのアングルは100°とやや立ち気味。これまたミリガバと比較してみると、あちらは106°なので、M1910のほうが6°ほど立っていることになる。

 「26mmの薄さ」と「100°のアングル」が織りなすグリップフィーリングは、それはもう大変に素晴らしく、気が付いたらM1910を握っていた、なんてことがあるほど。

 

 

 三段構えのセフティの一つ、グリップセフティ。テンションが強めで、かつストロークもそれなりにあるため、意識してグッと握りこむ必要がある。

 

 

 スライドストップをかけた状態でバレルを90度ほど回転させると、フレームとスライドを分離することができる。さらにブッシングを外すと、スライドからバレルとリコイルスプリングを外すことできる。これが通常分解の手順。

 バレルとフレームを溝によって結合させ、回転させることで結合を解く。非常にシンプルな仕組みだが、小型化のためによく考えられている。

 

 

 峰不二子の愛銃ということで、ルパンのP38と並べてみる。2挺を並べると、ちょっぴり危険な香りが漂う。

 

 

 十四年式拳銃と並べてみると、M1910の小ささが際立つ。大型でいまひとつ垢ぬけない感じの十四年式か、小型で洗練されたデザインのM1910かと問われたら、やっぱりM1910を選んでしまう。それが自費で買えと言われたら尚更のこと…。