●S&W ビクトリーモデル

 

 ビクトリーモデルとは、S&Wが第二次大戦中に生産した“ミリポリの戦時版”の通称だ。ビクトリーの名はシリアルナンバーの頭文字がVであったことに由来する。ベースはミリポリの中でもM1905 4thチェンジと呼ばれるもので、この仕上げを簡略化することで生産効率を向上させた。ビクトリーモデルには英軍版と米軍版の2種類があり、それぞれ使用弾薬が異なる。

 

 先に生産されたのは英軍版だ。イギリスは第二次大戦が始まって早々にダンケルクで多くの兵器を失い、ピストル不足も深刻になった。そこで、S&Wにミリポリの生産を依頼し、1940年から生産が開始された。当時、英軍は.38S&Wに.200grの弾頭を付けた「.38-200弾薬」を使用していたため、英軍版ビクトリーはこれに合わせたシリンダーが取り付けられた。

 4,5,6インチのバレル長が作られ、5インチのものが最も多く生産された。米軍版より前に生産されたものはシリアルナンバーが数字のみでVの頭文字がないため、「プレ・ビクトリー」と呼ばれ、区別されることがある。

 

 

 一方で米軍版ビクトリーが登場したのは1942年のことだ。真珠湾攻撃を受け、第二次大戦に参戦することになったアメリカは、パイロットや後方要員にビクトリーモデルを支給することにした。生産は1942年から始まり、2インチと4インチのバレル長が作られた。

 1944年に甲板に落下させたことで水兵が死亡する事故が発生し、ビクトリーモデルの安全性に疑問が生じた。検証の結果、従来のハンマーブロックでは不十分と判断され、1944年12月からは現行型のリバウンドスライドと連動するハンマーブロックが搭載された。それに伴い、シリアルナンバーの頭文字もVからSVへと変更になった。第二次大戦が1945年に終結すると、英軍版、米軍版ともに生産終了となった。

 

 

●いにしえの5スクリュー

 

 ハートフォードのビクトリーモデルが再販された。10年ぶりだという。ナチュラルHWも東京店限定モデルとして発売されたが、一般販売のフィニッシュはブルーブラックとなっている。ビクトリーというと、やはりパーカライジングのイメージが強いが、実はブルーのフィニッシュも存在する。

 

 ビクトリーのフィニッシュがパーカライジングになったのは1942年4月のことで、それ以前は梨地にブルーをかけた「サンドブラストブルー」であった。さらに、プレ・ビクトリーの中でも初期のモデルはコマーシャルモデルと同様の艶のあるブルーをまとっていた。

 

 ハートフォードのビクトリーを見てみると、下地がザラザラした梨地っぽい感じになっていて、その上にブルーブラックの塗装を施してある。ということで、これはサンドブラストブルーを再現している、と解釈するのが妥当ではなかろうか。

 

 

 パッケージはお馴染みの段ボールタイプ。英語でビクトリーの説明が書かれている。

 

 

 カートリッジは4ピース構造で、発火する際は弾頭を取り外す。もちろん、弾頭を付けた状態でもシリンダーに収まるので、ダミーカートとしても使える。

 

 

 新旧ミリポリを並べてみる。タナカのモデルガンはM10-8のなかでもバレルピンが廃止された1982年以降のモデルを再現している。

 

 

 第一次大戦の助っ人、M1917と。全体的なデザインやパーツの形状がよく似ているが、ビクトリーがKフレームであるのに対し、M1917はNフレーム。やっぱりデカい。

 

 

 そういえば、ちょっと前にマルイのガバを買ったんですよ。こちらもいずれ紹介せねば…。

 

 

 さて、刻印を見ていこう。刻印はクッキリとして良い感じ。「&」が潰れているのが実に古風だ。

 

 

 バレル右側には「38 S&W SPECIAL CTG」の刻印。この刻印から米軍版ビクトリーをモデルアップしていることが分かる。

 

 

 バレル上部の刻印もバッチリ再現されている。

 

 

 サイドプレートにはS&Wのモノグラムが入る。ヒケが目立つのが残念ではあるが、ここはご愛嬌ということで。

 

 

 シリンダーはもちろん.38splサイズ。短いシリンダーと長いフォーシングコーンの対比が素晴らしい。フレームラグは金属製の別パーツで再現。これは嬉しい。

 

 

 ヨーク裏には「MOD.19-4」の刻印が。このモデルのベースは同社のM19、さらに元を辿ればCMCのM19なのだ。

 

 

 フレームやヨークの形状にM19の面影が感じられるが、あのM19をミリポリ、しかも5スクリューのビクトリーに変身されるのには大変な苦労があったに違いない。

 

 シリンダーとヨークの間には隙間が見られるが、固定はガッチリとしていてヨークやシリンダーがガタつくことはない。

 

 

 フロントサイトはクラシックな佇まいのハーフムーンタイプ。正直、ランプサイトのほうが狙いやすいが、見た目はこっちのほうが断然好きだ。

 

 

 リアサイトはフレームに溝を掘ったフィクスドタイプ。スクエアノッチで幅は狭め。

 

 

 ハンマーのコッキングポジションが浅いのがどうしても気になる。あと、スパーのお尻がわずかに高いような気がするが果たして…。

 

 

 ハンマーはナロータイプでグルーブが入る。チラリと見えるトリガーガードのスクリューがチャーミングだ。

 

 トリガープルはシングル、ダブルアクションともに重めで、ガサゴソとしたフィーリング。レットオフもいまいち分かりづらい。ハートフォードのKフレはリバウンドスプリングがかなり強いので、コイツをちょっとカットして、ついでにリバウンドスライドを磨けば多少はマシになるかも。

 

 

 ウォールナットのスムースグリップが標準で付いてくる。仕上げは軍用ピストルらしくあっさりとしたものだ。

 

 

 グリップフレーム底部にはランヤードリングを装備している。金属製でしっかりとした作りになっている。

 

 

 タナカのパックマイヤータイプのアダプターを装着すると、一気に“昭和の制服警官”っぽい雰囲気に。ミリポリにはTylerよりもパックマイヤーのアダプターのほうが似合う。

 

 

 続いてはハートフォード純正のチェッカーグリップを装着。コマーシャルっぽい感じで、ビクトリーのベースとなったM1905 4thチェンジを思わせる佇まい。

 

 

 サイドプレートを開けてメカを見る。リバウンドスライドと連動して動くハンマーブロックが搭載される前のメカニズムを再現している。

 

 

 サイドプレートにはモールドながら旧型のハンマーブロックを再現。これは凄いぞ!

 

 ちなみに旧型のハンマーブロックはそれ自体が板バネになっていて、サイドプレートから飛び出してハンマー側に飛び出すことでブロックしていた。ハンマーブロックはシリンダーハンドと連動していて、ハンドが上昇すると、ハンマーブロックがサイドプレート内に収まるというメカニズムだった。

 

 

 最も驚いたのがこれ。5本目のスクリューがちゃんと機能している!


プランジャーとスプリングでシリンダーにテンションをかけ、トリガーガードスクリューで留めるという現行型とは異なる構造になっている。タナカも5スクリューのNフレを出しているが、ここまでは再現されていなかった。さすがはハートフォード。メカニズムに対する情熱が感じられる。