●イタリア軍とベレッタ
1910年、イタリア軍はボデオM1899リボルバーに代わる新しいピストルとしてオートマチックのグリセンティM1910を採用した。グリセンティは9mmパラベラムと同じ寸法ながらも発射薬のガス圧が低い9mmグリセンティという独自の弾薬を使用した。
1914年に第一次大戦が勃発すると、部品点数の多いグリセンティの生産が追い付かなくなり、イタリア軍は深刻なピストル不足に陥った。そこで、ベレッタは部品数を抑え、ストレートブローバックを採用することで生産効率を高めたM1915を開発し、1917年にイタリア軍に制式採用された。
当時の中型ピストルの多くが内蔵ハンマー式を採用していたため、ベレッタもこれに倣っていたが、1926年に陸軍に制式採用されたM1923からは外装ハンマー式となった。M1931では使用弾薬を9mmグリセンティから.32ACPへ変更することで、軽量化と小型化を実現し、1931年に海軍に制式採用された。翌年にはグリップ形状を改良したM1932が追加で制式採用された。
M1932をベースとし、使用弾薬を.380ACPに、グリップを従来の木製からベークライト製へと変更したM1934が開発され、1934年に陸軍に制式採用された。翌年にはM1934の.32ACP版であるM1935が開発され、海軍の制式ピストルとなった。M1935はM1934との混同を防ぐため、マガジンやバレルの寸法が意図的に変更されていた。M1934とM1935は第二次大戦後も製造が続けられ、M1934は1980年、M1935は1967年に製造終了となった。
●美しき軍用ピストル
再販されるたびに買うかどうかを悩みつつも、決断できずに逃してしまう。そんなことを何年も繰り返していたのだが、原材料費の高騰などでWAも他社のように値上げするのではないかという焦りに後押しされ、ようやくWA M1934の購入に至った。
中型ピストルながら定価31,900円と決して安くないが、フィニッシュは樹脂製とは思えぬ素晴らしいもので、アウターバレルとグリップパネルは金属製という豪華仕様。重量は590gもあり、ズッシリとした感触を楽しむことができる。
渋谷店に直接買いに行ったので、店長とお話をさせていただいのだが、WAがかつて発売していたモデルガンとこのガスガンは全くの別物だそうだ。モデルガンは写真から寸法を割り出して作られたのに対し、ガスガンは無可動実銃から採寸しており、リアルサイズとなっているとのことだった。
M1934の孫にあたるM84と記念撮影。M1934の近代化版として1958年に登場したのがM70で、さらにその後継として1976年に発売されたのがM81だ。ベレッタの中型ピストルはそれぞれコンセプトがあって個性的だが、どれもデザインは抜群に素晴らしい。
私が007シリーズなかで一番好きな「ドクター・ノオ」にはM1934が登場する。登場するといっても、チラッと移るだけなのでM1935の可能性もあるが…。
ドクター・ノオは低予算のB級映画ということもあって、台詞ではPPKと言いつつもPPしか出てこなかったり、ガバメントのことをS&Wと言ったりと銃器描写についてはファジーな部分が多いが、ダンディーなショーン・コネリーの演技が光る素晴らしい映画だ。
続いてはWAのボブチャウスペシャルと。5インチのガバと並べると、M1934の小ささがよく分かる。
M1934の実銃は十四年式拳銃やモーゼルミリタリーのようにマガジンフォロアーでスライドを止めてホールドオープンさせる構造になっており、ガスガンでは再現できないため、BB弾を撃ち尽くしてもホールドオープンしない。
しかし、マニュアルセフティをオンにし、スライドを引くことでご覧のようにホールドオープンさせることができる。
スライド先端をアップで。どこを見ても美しい。
スライド右側面の刻印から1936年製をモデルアップしていることが分かる。西暦とともにファシスト暦が刻印されていることが印象的だ。
フレームのレバーはマニュアルセフティで、180度回転させることでトリガーをロックする。前述のとおり、スライドストップとしての役割も兼ねている。
右側面にはスライドとフレームにシリアルナンバーが刻印されている。ASGKの刻印が目立つのが少し残念。
フレーム後端の陸軍受領刻印もしっかりと再現。ハンマーはリングタイプであっさりとしたデザイン。
マガジンキャッチはヨーロピアンタイプ。ボタン式よりも断然こっちのほうが好きだ。大型で操作性が良く、スプリングも強すぎず、出し入れはスムースだ。
シングルカラムということでグリップがとにかく薄く、握り心地は抜群に良い。長さも短めだが、マガジンのフィンガーレストのおかけで小指まできっちり収まる。
実銃のグリップパネルはベークライトをスチールで補強したものだが、WAのガスガンは重量を稼ぐために金属製になっている。
フロントサイトは小ぶりだが、しっかりとエッジが立っている。
リアサイトは金属製の別パーツとなっている。フロントサイト同様に小ぶりだが、意外にもサイトピクチャーは悪くない。
トリガーは一見すると、ガバメントのようなスライド式に見えるが、ピポッド式になっている。トリガープルは非常に軽く、ストロークも短い。新品なのにナチュラルチェーンされたかのような滑らかさ。レットオフのタイミングも分かりやすく、ものすごく当たりそうな気配を感じる。
M1934と言ったら、この独特の通常分解手順。そうそう、これがやりたかったんだよ!ホールドオープンした状態でバレルを後方に引き出す。そうすると、スライドとリコイルスプリングが前方から抜ける。
通常分解すると、このようになる。
左のグリップパネルを外すと、トリガーバーとシアーが姿を現す。トリガーバーはディスコネクターの役割も兼ねており、ツノが後退してきたスライドに押し下げられることで、トリガーバー自体も押し下げられ、シアーとの関係が断たれる。
そのほかにもマニュアルセフティがスライドストップを兼ねる、リコイルスプリングがマニュアルセフティにテンションをかける役割を担うなどの合理的な設計で部品点数を削減している。
いつかM1934を買ったときのために、と用意していたイタリア軍の実物ホルスター。軍装品には疎いため、詳細は分からないが、キャンバス製のしっかりとした作り。
もちろん、問題なく収納可能。フラップ式のホルスターは汎用性が高く、M1934のほかにブローニングM1910やワルサーPPKなどの中型ピストルを収めることできる。
●実射
室温26度の環境で、マルイの0.20gベアリング研磨BB弾を使い、3M先のターゲットに向かって5発試射を行った。
ベストグルーピングは30mmで、そのほかのグルーピングも35~40mm程度であった。バレルの短い中型ピストルながらも近距離での命中精度は良好。ブローバックは俊敏で回転も悪くないが、同社のベレッタ系やガバメント系に比べると、リコイルの弱さは否めない。
ただし、シングルカラムでマガジン自体が小さいため、ガス容量はフルロード20発を撃ち切れるかどうかといった具合で冷えにも弱い。このサイズにしては作動性、命中精度ともに優秀だとは思うが、バシバシ撃って楽しむピストルではないかなというのが正直な感想だ。コレクションとして愛蔵するのが良いだろう。
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