●ソ連初のセミオートマチックピストル

 

 ソ連軍の前身である赤軍は、ナガンM1895やコルトM1911、モーゼルミリタリーなどの帝政ロシア軍のピストルをそのまま使用していたが、1920年頃になると、国産セミオートマチックピストルの開発が始まった。

 

 トライアルの結果、トゥーラ造兵廠のフョードル・トカレフが設計したTT30が制式採用された。TT30の使用弾薬である7.62mm×25弾は弾頭がボトルネックになっており、モーゼルミリタリーで使用する7.63mm×25弾と互換性がある。また、バレルやスライドのロッキングシステムはコルトM1911から流用したもので、全体のデザインはFN M1903の影響を強く受けている。

 

 

 TT30は1000丁が赤軍に納入されたが、本格的な量産化に先立ち、さらなる省力化が行われた。スライドのテーパーや脱着式のバックストラップを廃止した改良型はTT33と呼ばれ、1933年から生産が開始された。

 

 TT33は1951年にマカロフに制式ピストルの座を譲ったが、中国、ポーランド、ハンガリーなどでライセンス生産が行われ、共産圏を中心に広く使用された。

 

 

●凶銃トカレフ

 

 2022年7月、タナカからトカレフのモデルガンが発売された。聞いたところによると、どうやら金型はハドソンのものを使っているらしい。私自身、ハドソンのトカレフを所有したことはないが、まともに動かない、すぐに壊れるという声は何度も耳にした。

 

 しかし、今回のトカレフをリニューアルしたタナカは作動性と耐久性の高さに定評のあるメーカーだ。その手に掛かれば、ハドソン製とは見違えるほど素晴らしい製品になるに違いない。そのような期待を込めて購入してみたが、果たして…。

 

 

 パッケージは艶消しの赤を基調とし、中央にソ連の国章があしらわれている。その下にはキリル文字で製品名が入る。一目で“ソ連の何か”であることが分かる圧倒的な存在感。遠くから『インターナショナル』が聞こえてきそう。

 

 

 側面には「万国の労働者よ、団結せよ!」のスローガンが入る。ボリシェヴィキも納得の仕上がりだ。

 

 

 7.62mm×25弾を模したボトルネックの発火カートリッジが8発付属する。付属のカートリッジだけでフルロードできるのは嬉しい。超ジュラルミンで驚くほど軽い。PFCなどと比べてパーツ点数が多いので仕方ないが、スペアカートは8発で7700円と高い。

 

 肝心の作動だが、手動で装填/排莢してみたところ、装填は問題なし。ゆっくりとスライドを引くと、稀にエジェクターに引っかかり、排莢されないことがあったが、素早く引くと、問題なく排莢された。作動は概ね問題なしという感じで、発火しても快調に作動するのではないかと思う。

 

 

 発火することを前提として設計であるため、マガジンは防錆処理が施されている。マガジンベースのランヤードリングがチャームポイント。

 

 

 ホールドオープンした際のスライドの後退量は実銃に比べ、2mmほど少ないが、フルストロークといって差し支えないのではないかと思う。ノッチに削れ防止のプレートなどは入っていないので、スライドストップを下げてリリースするのは避けたほうが良い。

 

 

 

 フレーム左側面の後端にはシリアルナンバーと製造年の刻印が入る。タナカによれば、モデルガンでは1939年製を再現しているとのこと。

 

 スライドのセレーションは楕円形の削り取りとライン溝を組み合わせた凝ったデザイン。1940年代中頃からは省力化のために楕円形の削り取りが廃止された。

 

 

 プルーフマークも省略することなく再現。

 

 

 スライドトップの刻印はご覧の通り。刻印は全体的に彫りが深く、クッキリとしていて良い感じ。

 

 

 フロントサイトはパートリッジタイプ。

 

 

 リアサイトはスクエアノッチのハイタイプ。フロント/リアサイトともに小ぶりだが、パートリッジサイトとスクエアノッチの相性が良く、サイトピクチャーは良好。

 

 

 ハンマーを起こすとファイアリングピンが見れるのだが、コレがプラスチック感丸出しでガッカリ…。成型色でも構わないので、黒系統の色にしてほしかった。

 

 

 グリップは細身で握りやすい。体感的にはガバメントよりも一回り細く感じる。グリップもHW製のようでマットな仕上がり。トカレフのグリップと言ったら光沢のあるイメージがだが…。

 

 

 スクリューを使わない独特の固定方法も見事に再現。“TANAKA”の刻印はグリップフレームの右側に入る。

 

 

 スライドストップを抜き、ブッシングを外すことで通常分解を行うことができる。

 

 晩年のハドソン製トカレフは発火機能に特化するため、ショートリコイルをオミットしたストレートブローバック仕様となっていたが、タナカ製ではショートリコイルが復活した。

 

 

 トカレフではハンマーやシアがユニット化されている。ハンマーユニットはフレームに嵌まっているだけなので、上方向へ引き抜くことで簡単に取り出すことができる。

 

 

 リコイルプラグとリコイルスプリングガイドにはバッファーが仕込まれ、ブローバックの衝撃が本体に伝わらないように工夫されている。

  

 

 バレルの形状をご覧になれば分かると思うが、トカレフのロッキングシステムはガバメントのものをそのまま流用している。ただし、外観のデザインはFN M1903を参考にしているので、全体的にガバメントよりもスリムで小さい。

 

 

 トカレフの弾薬である7.62mm×25弾はモーゼルミリタリーの弾薬を参考にして作られた。但し、モデルガンのマルシン M712とタナカ トカレフは撃発方式が異なるうえ、寸法も異なるので、カートリッジに互換性はない。

 

 

 トカレフは生産効率を高めるため、徹底的に省力化を行い、マニュアルセフティさえも省略してしまったが、リバーレーターはもっとスゴい。マガジン、排莢機構、ライフリングを省略し、ただ弾を発射するためだけの機能を残した。メカニズムや外観が全く異なるのに2丁ともに「銃」であることに間違いはないのだから、銃の世界というのは奥が深い。

 

 

 取扱説明書に「54式」のパーツリストが載っていたので、近いうちに発売される筈。パーツリストを見ると、54式は後期型のシンプルなセレーションにフラットなマガジンボトムを組み合わせたものになるらしい。あとは刻印がどのようになるか。非常に楽しみである。