●ダブルアクション黎明期の傑作

 

 ドイツのピストルはデザイン、機能ともに優れたものが多いが、そのなかでもワルサーPP/PPKは特に傑作といわれるピストルである。

 

 ワルサーがPPを発表したのは1929年のことで、PPとはドイツ語で警察用拳銃を意味する“Polizei Pistole”の略である。PPはデコッキングレバーを兼ねたセフティレバーとハンマーブロックを有しており、チャンバーに弾を装填した状態でも安全に携行することができた。

 

 1931年にはPPのフレームを小型化したPPKが発表された。1930年代にナチスが台頭すると、PP/PPKはナチスの制式ピストルとなった。また、1936年にドイツが再軍備を開始すると、ドイツ軍将校の標準ピストルにも選ばれた。

 

 

 

 第2次世界大戦がドイツの敗北という形で終了すると、ドイツは東西に分割され、ワルサーの本社があったテューリンゲン地方は東ドイツとなった。東ドイツでは自由な銃器の製造、販売ができなったため、ワルサーは西ドイツへと脱出した。

 

 1950年にはワルサーとフランスのマニューリンの間でPP/PPKのライセンス契約が交わされ、マニューリンでの生産が開始された。マニューリンはライセンス生産に先立ってPP/PPKの再設計を行い、スライド前端の形状などが変更された。また、1961年からは西ドイツのワルサーでの生産が再開された。

 

 アメリカではケネディ暗殺事件などを受け、1968年に“Gun Control Act of 1968”という法律が施行され、条件を満たさない小型ピストルの輸入が規制された。PPKは全高が法律に適合せず、アメリカへ輸出することができなくなってしまった。そこで、ワルサーは法律に適合させるため、PPKにスライドにPPのフレームを組み合わせたPPK/Sを開発し、これをアメリカへと輸出した。1980年からはアメリカ国内のインターアームズでPPK/Sの生産が開始された。

 

 

●マルシン PPK/S

 

 今回ご紹介するPPK/Sは中古サイトで格安にて販売されていたのを見つけ、購入したものだが、コイツが問題児だった。

 

 まず、スライドに白い斑点が見受けられた。カートを込めて、スライドを引いてみると、上手く装填されない。おまけにスライドストップも掛からない。

 

 “安いモデルガンにはトゲがある”ということなのかとガッカリしたが、買ってしまったものは仕方ない。作動面の問題はマガジンリップやフィーディングランプなどの調整で解消できるだろうが、問題はスライドの白い斑点である。

 

 HWモデルということはブルー液で染めてしまえばいいのではないか、と思い立ち、ブルー液の原液を塗ってみたところ、じんわりと黒くなっていった。さすがに照明を当てると、若干の色味の違いが気になるが、ブログでご紹介できる程度の外観になったのではないかと思う。

 

 

 パッケージはマルシンが段ボールに統一する以前のタイプ。白を基調とし、斜めに“WALTHER  PPK/S”の文字が入る。

 

 

 センターファイアー用のNEWプラグファイアーカートリッジが8発付属する。

 

 

 マガジンの装弾数は8発。この個体はマルシンのPPシリーズから“WALTHER”の刻印が消えた時期のものなので、マガジンにワルサーのバナーはない。

 

 

 購入した当初は、まともにスライドストップが掛からなかったが、現在ではご覧の通り。

 

 

 バナーの刻印が薄くて見えづらいが、目を凝らしてみると“WALTHEP”となっている。あえて声に出して読むと「ワルテップ」といったところか。

 

 

 ワルサーのライセンス取得後に生産されたモデルには版権関係の刻印がぎっしりと入るが、この個体はライセンス取得前のものなので、随分とスッキリしている。

 

 

 マニュアルセフティとデコッキングレバーを兼ねたセフティは実銃同様に再現。

 

 

 スナッグフリーを意識し、フロントサイトは小さめになっている。

 

 

 フロントサイト同様にリアサイトも小ぶりだが、スクエアノッチでサイティングしやすい。ローディングインジケーターも再現されており、チャンバーにカートリッジを装填すると、シルバーの棒が突き出す。

 

 

 グリップのバナーは“WALTHEB”になっている。“B”というよりも“R”の下に横棒を一本足したような形状になっている。マルシンもあの手この手で頑張っていたんだということが伝わってくる。

 

 

 トリガーガードを引き下げたうえで、スライドを後退させて引き上げると通常分解を行うことができる。

 

 

 取扱説明書の通りに分解しようとしても、ブリーチとチェンバーが干渉してしまい、スライドが抜けない。やや後方に引きつつ、スライドを持ち上げると、何とか外すことができる。マルシンのPPシリーズの持病のようで、分解/組み立てにはコツが必要だ。

 

 

 PPKとPPK/Sではグリップフレームのサイズが異なる。PPK/SはPPのフレームを使用しているので、PPKと比べて全高が1cmほど長い。

 

 グリップ自体の形状の2挺では異なる。PPKのグリップは上から下まで厚さがほぼ同じで、その厚さが2.6cmであるのに対し、PPK/Sは下に行くにつれて厚さが増すようになっており、最も厚いところは2.9cm、最も薄いところは2.7cmとなっている。

 

 数字で見れば、長さが1cm、厚さが2~3mmと微々たるものに見えるが、実際に比べてみると、PPKは小さくて薄い、PPK/Sは太めで厚いといった印象で、感覚的には全く異なる。

 

 

 PPK/Sは.32ACPで装弾数8+1発であるのに対し、ベレッタ84は.380ACPで13+1発。中型ピストルの中では圧倒的なファイアーパワーを誇る。PPK/Sにも.380ACP仕様もあるが、そちらは7+1発なのでベレッタ84の足元にも及ばない。

 

 しかしながら、ベレッタ84のグリップは大型オートと同等のサイズ感で、とにかく太い。対するPPK/Sは細身で程よいサイズ感。グリップの握りやすさ、携行性という面ではPPK/Sに軍配が上がる。

 

 

 PPシリーズはP38の設計に影響を与え、P38はダブルアクションオートの設計に大きな影響を与えた。今日のダブルアクションオートの普及はワルサーの功績によるところが大きい。