●ディスティングイッシュドコンバットマグナム

 

 ビル・ジョーダンのアドバイスによって誕生したコンバットマグナムは警察用リボルバーとして人気を博したが、コンバットマグナムに使用されていたKフレームは.38spl用として設計されたものであったため、.357magに強力なパワーに対する十分な耐久性を持っていなかった。さらにKフレームは比較的小型かつ軽量であったため、.357magを撃つと強烈な反動が生じるという問題もあった。このようにコンバットマグナムの問題が明らかになると、Kフレーム並みの携行性とNフレーム並みの耐久性、重量を備えたリボルバーが求められるようになってきた。

 

 

 そこで、S&WはKフレームをベースに各部の大型化、強化し、フルレングスのバレルアンダーラグを備えたLフレームを開発した。そして、1980年にLフレームを採用したリボルバーとしてスチール製でフィクスドサイトを備えた「M581」、そのステンレス版である「M681」、ステンレス製でターゲットサイトを備えた「M686」の3種類が発売された。その翌年にはスチール製でターゲットサイトを備えた「M586」が発売された。

 

 M586は4インチ、6インチ、8-3/8インチの3種類のバレル長が作られ、2.5インチと3インチも少数ながら作られた。フィニッシュはブルーとニッケルの2種類であった。6インチと8-3/8インチモデルの中にはアジャスタブルのフロントサイトを備えたものも存在する。M586は1999年頃に製造終了となったが、2007年に7連発シリンダーとインターナルロックを備えたモデルが発売され、2012年にはクラシックシリーズとして4インチと6インチのものが復活した。

 

 なお、M581/M681には「ディスティングイッシュドサービスマグナム」、M586/M686には「ディスティングイッシュドコンバットマグナム」という愛称が付けられているが、愛称としてはあまりに長く、語感も悪いため、いまひとつ定着していない。

 

 

●マルシン S&W M586

 

 S&W M586のモデルガンは1983年にコクサイが発売したのを皮切りに、マルイ、MGC、マルシンの4社が相次いで発売した。さらにクラウンモデルもプラモデルを発売していたらしい。そういうわけでM586は異例の4社(5社?)競作となったのだが、純然たるモデルガンとしてはマルシン製が最後発である。マルシン製は徹底的にリアリティを追求して作られており、メカニズムのほぼ忠実に再現されている。

 

 コクサイ、MGCは倒産し、マルイはモデルガン事業から撤退、クラウンモデルはエアリボルバーでM586を作っているが、現在も発売されているモデルガンはマルシン製が唯一となっている。今回は傑作との呼び声が高いマルシンM586の2022年に再販された最新ロットをご紹介する。

 

 

 M586を購入するうえで、悩ましいのはバレルを4インチにするか、6インチにするかということである。まず、4インチは「あぶない刑事」でタカが使っていたのと同じバレル長なので、「あぶない刑事」の世界観に浸りたいのであれば4インチ一択だ。6インチはPPCなどの競技で使用されていた姿が印象深い。当時は6インチのM586にデイビスのラバーグリップを付けるというのが定番のスタイルだったように思う。悩んだ末、4インチのABS版を既に所有していることもあり、6インチを購入することにした。

 

 

 最新ロットからはカッパーヘッド仕様の新型カートが付属する。発火カートだが、ダミーカートのようにリアルな雰囲気だ。

 

 

 

 新型カートはカッパーヘッドになっているだけでなく、分割位置も異なっており、Oリングも追加されている。空撃ち用スプリングは新型カートでも健在で、空撃ちをする際にこれを入れることでモデルガンへのダメージを軽減することができる。

 

 

 S&W M586とコルト パイソンは全体的なシルエットが非常によく似ているが、M586のバレルにはベンチレーテッドリブがない。パイソンは気品と色気を兼ね備えた素晴らしいデザインで独特のオーラが感じられるが、ダブルアクションに癖があり、好みは分かれる。対するM586はS&Wらしい堅実なデザインで、色気はいまひとつ。しかし、ダブルアクションはスムースで、万人が撃ちやすいと感じるトリガーフィーリングに仕上がっている。まさに一長一短という感じで、どちらか1挺選べと言われたら困ってしまう。

 

 

 既に所有している4インチのABS版と並べてみる。最近のリボルバーのモデルガンは殆どがHWで作られているので、ABSのモデルガンというのは意外と貴重な存在かもしれない。

 

 

 バレル左側面には“SMITH&WESSON”の刻印が入る。

 

 

 最新ロットではアドレス刻印が“MADE IN U.S.A”となり、S&Wのトレードマークもリアルなものになった。いずれの刻印も彫が深くハッキリとしていて良い。

 

 

 シリンダーはカウンターボア―ドではない通常タイプ。Kフレームではリムとリムが当たりそうなほどギチギチだったが、Lフレームではシリンダーが少し大きくなったことで余裕ができた。

 

 

 ヨーク裏には“AAF1990”のシリアルナンバーが打たれている。S&Wのモダンリボルバーのシリアルナンバーはフレームサイズを表すアルファベット1文字と数字で構成されていた(例:Kフレームは“K317823”、Nフレームは“N801000”など)が、M586/M686からは製造年を表す3文字のアルファベットと4桁の数字で構成させるようになった。

 

 “AAF1990”というシリアルナンバーからマルシンのモデルガンは1982年製のノーダッシュのM586をモデルアップしているということが分かる。

 

 

 最新ロットからハーフチェッカー木製グリップ付きのモデルがラインナップに加わった。スピードローダーカットがされたオーバーサイズグリップを再現したもので、渋い色合いが堪らない。

 

 

 フロントサイトはボウマンクイックドローサイトにレッドラップが入ったタイプ。

 

 

 リアサイトはS&Wのリボルバーではお馴染みのターゲットサイト。サイトピクチャーは文句なしに素晴らしい。

 

 

 トリガーはスムースタイプで、幅はセミワイド。シングル/ダブルアクションともに滑らかで、いわゆる「チチバン」も再現されている。ただ、シリンダーストップが上がるタイミングが少し早いようで、ダブルアクション時に抵抗を感じることがある。

 

 

 メカニズムの再現性は極めて高く、まさにS&Wのメカニズムそのもの。

 

 

●最後に

 

 最近のマルシンは刻印の見直しや新型カートの採用、ジュラルミン製の強化パーツの組み込みなど従来のモデルガンに積極的に改良を加えている。今回再販されたM586も刻印の見直しと新型カートの採用により、以前のロットよりも見違えるほどリアルになっているうえに、木製グリップも色合いも素晴らしいので、コレクションとして1挺持っていると非常に楽しめる。