ガンショップで金属製のM712を見かけたとき、あまりの美しさに息を呑んだ。上品に輝く金色の肌、スラリと伸びたバレル、マガジンがトリガーよりも前に配置された独特のデザイン…。

 

 その圧倒的な美は近寄りがたいほどのオーラを発しており、実際に触ることさえ憚れたが、金属で再現されたM712がどれほどの重量感があるのか気になって仕方なかった。M712に手を伸ばし、グリップを目を移すと、それがウッドグリップであることに気が付いた。深みのある色合いで、マルシンのものとは思えぬ素晴らしいグリップだった。

 

 グリップを握ると、ズッシリとした重量感に驚いた。その重量感は何分も片手で構えるのは辛いと思わせるほどのものであった。重量は1.1kgとのことだが、グリップが小ぶりなこともあり、数値以上に重く感じた。

 

 

●シュネールフォイヤー

 

 モーゼルC96は、オートマチックピストル黎明期の傑作の1つとされ、10発という装弾数は当時としては大容量で、ショルダーストックを取り付けることで簡易的なカービンとして使用することもできた。また、C96の使用弾薬である7.63mmモーゼル弾は9mmパラベラム弾よりも強力であった。

 

 第1次世界大戦が勃発すると、ドイツ軍の武器不足を補うため、C96を9mmパラベラム弾仕様に改造したM1916を開発し、ドイツ軍に制式採用された。C96はドイツ軍のほかに、イタリア海軍やイラン軍などに採用されたが、第1次世界大戦が終わると、モーゼルはアジアや中南米への輸出に力を入れていった。

 

 

 モーゼルがアジアや中南米への輸出に成功すると、スペイン製のコピー品が出回るようになり、さらに本家であるモーゼルよりも先にフルオートメカニズムを搭載したC96のコピー品が出現した。フルオートメカニズムを搭載したコピー品が中国で成功を収めると、モーゼルもフルオートメカニズムを搭載したC96の開発を開始した。

 

 こうしてモーゼルはフルオートメカニズムを搭載した「ライエンフォイヤー」を完成させたが、射撃中にセレクターが動いてしまう、フルオートシアの作動の信頼性が低いなどの数々の問題が生じた。そこで、フルオートシアとセレクターに改良を施した「シュネールフォイヤー」が開発された。シュネールフォイヤーの多くが中国に輸出され、中国向けのものにはマガジンハウジング左側面に「徳国製」の刻印が打たれている。また、シュネールフォイヤーはアメリカにも輸出され、代理店のストーガーが「M712」の名称で販売した。

 

 

●重い、そして冷たい

 

 現存するモデルガンメーカーには、タナカ、マルシン、ハートフォード、KSC、タニオコバ、エラン、BWCなどがあるが、私が記憶している限り、現在も金属製モデルガンを作っているメーカーは、タナカ、マルシン、ZEKEの3社のみである。タナカのラインナップは十四年式のみで久しく再販されていない。ZAKEは.25オートやミリタリー&ポリスなどをランナップしているが、いずれも高価で取り扱っているショップも少ないため、入手は難しい。

 

 そういうわけで、“フツーの人”が金属製モデルガンを手に入れようとしたら、マルシン一択という状況になっている。マルシン製は十分に買える価格であるうえに、スパンは長いものの、定期的に再販されている。

 

 ということで、今回は先日手に入れたマルシンの金属製モデルガン「モーゼルM712 徳国製刻印」をご紹介する。

 

 

 マルシンのM712シリーズはモーゼル社の公認モデルということで、パッケージの中央にはモーゼルのマークが入る。

 

 

 金属製モデルガンは法律で銃口の完全閉塞が義務付けられており、発火には不向きであるため、ダミーカートモデルとして販売されることが多いが、マルシンのM712は発火仕様。ということで、7.63mmモーゼル弾(.30モーゼル弾)を模した発火カートリッジが5発付属する。

 

 

 C96とは違い、M712はマガジンの脱着が可能になっている。装弾数は10発のショートマガジンが付属するが、オプションとして装弾数20発のロングマガジンも用意されている。

 

 

 カートクリップも付属するので、あえてマガジンを外さす、エジェクションポートからクリップを挿して装填することもできる。ギュッと一気にカートを押し込み、クリップを引き抜くと、ボルトが「チャキッ」と心地よい音をたてて前進する。この動作は非常に面白く、何度やっても飽きない。

 

 

 マガジンが空になると、マガジンフォロアーの後端がボルトを停止させ、射手に弾残が無くなったことを知らせる。マガジンを抜くと、ボルトは前進してしまうため、マガジンチェンジ後は再度、ボルトを引く必要がある。

 

 

 P08の原型であるM1900が量産化されたのは1900年で、M712の原型であるC96が量産化されたのは1896年。C96の方が僅かに先輩にあたる。

 

 9mmパラベラム弾×8連発のP08か、7.63mmモーゼル弾×10連発のC96か。当時のドイツ軍が選んだのは前者だった。ファイヤーパワーはC96に軍配が上がるが、サイズ感、扱いやすさはP08の方がはるかに優れており、ドイツ軍が選択したのも頷ける。

 

 

 グロックなどのポリマーフレームと並べると古臭い感じがするP38だが、M712と並べると、随分とモダンに見えるから不思議だ。C96の量産化から約40年後に登場したP38はダブルアクションメカニズムとデコッキングレバーを備えており、「チャンバーに弾を装填した状態で携行し、初弾はダブルアクションで撃つ」という運用方法はのちのピストルの設計に多大なる影響を与えた。

 

 

 マルシンはノーマルバージョンと徳国製刻印バージョンの2種類をリリースしており、今回、購入したのは後者なので、マガジンハウジングの左側面に「徳国製」の刻印が入る。

 

 

 フレーム右側面には“MAUSER”の刻印が入る。フレーム側面左右に窪みに目を移すと、加工跡が再現されていることが分かる。

 

 

 ライエンフォイヤーでは射撃中にセレクターが動いてしまうというトラブルが生じたため、シュネールフォイヤー(M712)ではストッパー付きのセレクターに変更された。セレクターを“Nポジション”にするとセミオート、“Rポジション”にするとフルオートになる。

 

 

 セフティはハンマーをコックした状態でもハンマーダウンの状態でも使用することができるユニバーサルタイプ。その仕組みは、セフティを掛けることで、ハンマーの前進量が僅かに減少し、ファイアリングピンを叩かなくなるという単純なもの。

 

 

 トリガーはスムースタイプで、アールの具合が丁度良く、非常に引きやすい。プルはやや重めだが、ストロークは短く、キレも良い。

 

 

 リアサイトは距離によって調整することができるタンジェントタイプ。Vノッチであるうえに、ノッチ自体が小さいため、サイトピクチャーは宜しくない。

 

 

 タンジェントサイトは、50mから1000mまでの目盛りがある。ショルダーストックを取り付けたとしても、ピストルで1000m先を狙うのは現実的ではない。

 

 

 フロントサイトはリアサイトのVノッチに合わせて先端が尖った形状になっている。パーティングラインが残っているのが少し残念だ。

 

 

 C96やM712のグリップは、その形状が箒の柄に似ていることから「ブルームハンドル」と呼ばれている。金属製のM712にはウッドグリップが標準装備となっている。マルシンのウッドグリップというと、仕上げも殆どされていないようなイメージがあったが、このグリップは深みのある色合いで、適度に光沢もあり、観賞用として十分に満足できるものに仕上がっている。

 

 

 ハンマーをコックした状態で、テイクダウンラッチを上に押し上げ、バレルエクステンションを後方に引き抜くことで、通常分解を行うことができる。

 

 

 M712を通常分解すると、ご覧のようになる。ボルトを分解し忘れるというミスを犯してしまったが、そこはご容赦いただきたい。ちなみにボルトはリコイルスプリングガイド、リコイルスプリング受け、リコイルスプリングの順で外すことで、簡単に分解することができる。

 

 

 トリガーユニットはピンやボルトを1本も使わないパズルのような構造になっている(マルシンのモデルガンは実銃とは異なり、エジェクターがピン止めに変更されている)。メカニズムは非常に複雑で、セミオートとフルオートの切り替えは特に複雑である。

 

 

●最後に

 

 金属製モデルガンを買うのは初めてではないのだが、今回、モーゼルM712を購入したことで、金属製モデルガンの素晴らしさを再発見することができた。樹脂製モデルガンとは一線を画する圧倒的な重量感とヒンヤリと冷たい肌は所有欲を満たしてくれる。また、金属特有の作動音が伴う装填/排莢の面白さは格別である。