モデルガンに関する記事は「オート」と「リボルバー」の2つのテーマに分類しているのだが、今回入手したモデルガンはどちらにも当てはまらないものであったため、「その他」という新たなテーマを設定した。

 

 そのモデルガンとは、リバレーターである。単発式のピストルであるリバレーターには自動で装填/排莢を行う機構は存在しない。チャンバーに弾薬を装填する構造であるため、弾倉も存在しない。まさにオートでもない、リボルバーでもない、「その他」のピストルなのである。

 

 

●FP45

 

 FP45(通称:リバレーター)は、ヨーロッパ各国のナチス・ドイツの対するレジスタンスを支援するため、米陸軍の合同心理戦委員会によって開発された単発式のピストルである。設計と製造はゼネラルモーターズで行われた。FP45は、コストを抑え、生産効率を下げるため、部品数は23点までに絞られ、そのほとんどがプレス加工で成型されていた。また、至近距離での使用を前提としていたため、バレル内にライフリングはなかった。

 

 わずか11週間ほどで100万挺が製造されたが、ヨーロッパではほとんど使用されず、多くが廃棄されたらしい。一部はアジアやオーストラリアなどで使用されたようだが、詳細は不明だ。

 

 

●7年ぶりの再販

 

 ハートフォードのリバレーターは、九四式自動拳銃、二十六年式拳銃に続く、ビンテージモデルガンシリーズ第3弾として発売されたモデルガンで、今回、「リバレーター 2022」として約7年ぶりに再販された。以前のモデルは、「アイアンフィニッシュ塗装」というシルバーに近い仕上げであったが、2022年版はコストを削減し、価格を維持するために無塗装の「HWナチュラル仕様」となっている。

 

 

 プレス機でガチャンとやって溶接しただけの粗悪なピストルを受け取ったレジスタンスたちは「アメリカは俺たちのことを何だと思っているんだ!」と怒ったに違いない。

 

 レジスタンスを支援するのが目的ならば、リバレーターを100万挺配るよりもガバメントを1万挺配る方が効果的だったと思うが、リバレーターを立案したのが合同心理戦委員会であったというところがミソ。おそらくは、100万挺のピストルをばら撒く計画があるということを敵にリークさせることで、心理的にダメージを負わせることを狙ったのではないかと思う。

 

 

 パッケージは当時のボックスを再現したとされるもので、なかなかの雰囲気。

 

 

 ボックスの中には、このような感じで本体と付属品が収められている。薬莢を押し出すための棒やガタツキ防止の木片も当時の復刻版として付属する。ハートフォードのリバレーターに対する並々ならぬ情熱が伝わってくる。

 

 

 ウォルト・ディズニーが描いたとされるイラストのみで構成される取扱説明書も付属する。

 

 

 カートリッジは.45ACPを模したものが1発付属する。本体に装填する際には弾頭を取り外す必要がある。

 

 

 大きさの比較としてワルサーPPKと並べてみる。同じピストルでもルックスの格差があまりに大きく、美女と野獣といった感じ。サイズ感は同じくらいだが、リバレーターの方が全体的に厚みがある。グリップ周りはダブルカラム並みに太い。

 

 

 実銃ではグリップ内部に.45ACPを10発収納できるが、モデルガンでは2発のみ収納できる。収納できるといっても、.45ACPにピッタリのサイズというわけではなく、前後左右に余裕があり、カタカタと動いてしまう。

 

 

 ワイドなトリガーはセレーションがないスムースタイプ。ストロークは長くてプルは重い。

 

 

 至近距離での使用を前提としたピストルだが、一応はサイトが備え付けられている。トリガーガードの先端がフロントサイトを兼ねるという合理的なデザインになっている。

 

 

 一方、リアサイトはカートストッパーがその役割を兼ねている。1つのパーツに2つの役割を持たせることで、23点という少ない部品数を実現しているのだろう。

 

 

 ハートフォードのモデルガンは、実銃でかしめ留めになっている部分をねじ留めに変更しているため、分解してメカニズムを見ることができる。

 

 コッキングノブを引くと、コイルスプリングの先についている「ガイドロットカラー」に「トリガーコネクター」が引っ掛かり、トリガーを引くと、トリガーコネクターがガイドロットカラーを押しながら後退するのに併せてコッキングノブも後退する。そして一定量まで後退すると、トリガーコネクターがガイドロッドカラーから外れ、コッキングノブが前進するという仕組みになっている。一連の動作はグロック17などに見られる「変則ダブルアクション」に近い。

 

 

●独特な装填/排莢手順

 

 リバレーターは、チャンバーに直接弾薬を装填する単発式のピストルで、薬莢を排出するエジェクターを備えていないため、その装填/排莢の手順は非常に独特だ。

 

 まずは、コッキングノブを後ろへ引き、90度回してロックさせる。

 

 

 続いて、カートストッパーを引き上げ、チャンバーに弾薬を装填する。

 

 

 その後、コッキングノブを回しながら戻すと、発射準備は完了だ。

 

 

 発射し終わったら、コッキングノブを回しながら引いてロックし、カートストッパーを引き上げる。そして、マズルから木の棒を入れ、薬莢を押し出す。

 

 このようにリバレーターは装填/排莢にとにかく時間が掛かるので、もし狙いを外してしまったら、悲惨なことになる。敵は僅か数メートル先にいるのにも関わらず、再装填には数十秒を要する。こんなにも粗悪なピストルで“One shot one kill”を要求される緊張感は想像を絶するものだろう。

 

 

 2022年版のリバレーターには研磨用サンドシートが付属する。

 

 

 付属のサンドシートで軽く研磨したうえで、コンパウンド磨くと、ご覧のように金属感のあるリアルな外観に変身。もっとシルバーに近づけたい場合はペーパーやすりなどで、さらに研磨すると良いだろう。

 

 

●最後に

 

 ハートフォードのリバレーターは、ボックスや木の棒、ガタツキ防止の木片などの付属品にまで徹底的にこだわったモデルガンで、これを1挺買えば“珍銃”リバレーターの奇妙な魅力に魅了されるに違いない。2022年度版は塗装による仕上げではなく、HWナチュラル仕様となっているので、付属の研磨用サンドシートなどを使って自分好みの風合いに仕上げるのも楽しい。