●S&W M10のモデルガンが遂に登場

 

 タナカのガスガン、モデルガンは豊富なラインナップが魅力で、S&Wのリボルバーであれば、小判型サムピースが付いたアーリーモデルからパフォーマンスセンターがカスタムした最新モデルまでラインナップされている。しかし、Kフレームのリボルバーは長らく例外的な存在であった。ガスガンはM10、M13、M65、M19、M66、スマイソンの6種類がラインナップされていたが、モデルガンに至ってはM19とM66の2種類のみと少なかった上に、ver.2やRモデルなどにアップグレードされることもなかった。再販の頻度も低かったため、タナカのKフレームは影の薄いモデルとなっていった。

 

 ところが、2019年6月にM19 4インチのガスガンがディティールとアクションを向上させたver.3として発売され、Kフレームのガスガンが次々と“ver.3化”されていった。スモルトやM19 Kコンプなどの新製品も発売され、リボルバーファンを大いに喜ばせた。

 

 ガスガンのver.3化から1年以上経った2020年11月にM19 4インチのモデルガンがver.3として発売され、続いて2.5インチが発売された。そして、2021年3月にM10がラインナップに加わった。シリンダーはM19と同じ.357マグナムサイズではなく、.38スペシャルサイズの短いものを新規で製作するという気合の入りようで、タナカは.38スペシャルリボルバーのバリエーション展開を示唆している。今後がどのようなモデルが発売されるのか楽しみである。

 

 

●ダブルアクションリボルバーの代表作

 

 S&W M10 ミリタリー&ポリスは、S&W社が1899年に発売したダブルアクションリボルバーで、発売当初は.38ハンドエジェクターというモデル名であった。ハンドエジェクターは.38口径のほかに.32口径や.44口径のものなどが作られた。「ハンドエジェクター」の名称はエジェクターロッドを兼ねたシリンダー軸を有することに由来する。

 

 M10は100年以上にわたって生産されているロングセラーモデルで「ミリタリー&ポリス」の名称の通り、多くの軍や警察に採用された。第二次大戦初期にはイギリス軍がS&WリボルバーNo.2の名称で、イギリス軍制式弾薬である.38-200弾を撃てるようにしたモデルを採用した。1942年から1945年に米軍に納入されたものは「ヴィクトリーモデル」と呼ばれ、パーカライジング仕上げが特徴となっている。

 

 

 現在、S&Wから発売されているM10は4インチのブルバレルにラウンドバットフレームを組み合わせたもので.38スペシャルの強装弾である.38スペシャル+Pに対応している。

 

 

 S&W M10はバリエーションによって、バレルの長さや形状、フロントサイトの形状が異なるが、今回、タナカがモデルアップしたのは戦後型の4インチ・テーパードバレルのものだ。

 

 Kフレームは携行性と撃ちやすさを両立したバランスの良いサイズで、.38スペシャルを撃つならKフレームがベストではないかと思う。フレームはS&Wらしい贅肉がなく、引き締まったもので、テーパードバレルの細長いデザインも相まって、全体的に華奢な印象だ。

 

 重量は公称値で620gで、ガスガンよりも30g軽い。数字としてはガスガンもモデルガンもほぼ同じ重量であるかのように思えるが、実際に手にすると、ガスガンはずっしりとした重さであったのに対し、モデルガンは程よい重さという感じで、モデルガンの方が軽く感じる。

 

 

 テーパードバレル、シュラウドのないエジェクターロッド、フィクスドサイトという「クラシックリボルバー3点セット」を備えたシンプルな出で立ちが堪らない。そのシンプルさゆえ、発売から100年以上経った現在でも色あせることのない魅力を放っている。

 

 サービスサイズの短いグリップが付いているためか、あるいはバレルにテーパーがかかっているためか分からないが、4インチのバレルが随分と長く見える。

 

 

 今回の目玉である.38スペシャルサイズのシリンダー。ガスガンでは気密を取るためにM10も.357サイズのシリンダーになっていたが、モデルガンを発売するにあたって、タナカは.38スペシャルサイズのシリンダーを新規で製作した。M19のシリンダーの全長が41mmであるのに対し、M10のシリンダーは39mmで、2mmほど短くなっている。長めのフォーシングコーンもしっかりと再現されている。

 

 

 同じKフレームのM19と並べてみる。M19は.357マグナムリボルバーということで、バレルが肉厚になっているが、華奢なKフレームでは耐久性に不安が残る。実際、Kフレームで.357マグナムを撃つのは無理があったようで、1980年にKフレームを強化したLフレームが登場した。

 

 

 チーフスペシャルと並べると、M10がかなり大きく見える。Jフレームは携行性に優れているが、グリップが小さく撃ちづらい。やはり、総合的に見て、Kフレームはバランスが良い。

 

 

 スラっと伸びたテーパードバレルが凛々しい。マズル周りの仕上げも丁寧だ。

 

 モデルガンなので、安全対策としてバレルにインサートが入れられているが、やや奥まった位置にあるので、目立ちづらい。

 

 

 サイドプレートを開け、メカを見る。S&Wの内部メカがほぼ完璧に再現されている。S&Wはダブルアクションを「二段引き」にすることで、スムースなトリガーフィーリングを実現している。

 

 

 カートリッジは.38スペシャルを模したものが6発付属する。

 

 

 バレル左側には“SMITH&WESSON”の刻印が入る。

 

 

 バレル右側の刻印。深く、はっきりとした刻印で見栄えが良い。

 

 

 S&Wのトレードマークはフレーム左側にある。

 

 

 ver.3のモデルはフレームの刻印もリアルなものになっている。

 

 

 トリガーはスムースなセミワイドタイプ。アクションは非常にスムースで、ダブルアクションも全くストレスを感じない。粘りがなく爽やかなトリガーフィーリングである。

 

 ハンマーが落ちる前にシリンダーストップがかかるようになっているので、もはや楽器かと思うほど美しい「チッチッバン」という作動音を聞くことができる。

 

 

 リアサイトはスクエアノッチのフィクスドタイプ。

 

 

 フロントサイトには反射防止のためのセレーションが入る。

 

 

 サービスサイズのプラグリップが付属する。同じサービスサイズグリップでもスクエアバットとラウンドバットではグリップフィーリングが全く異なる。スクエアバットはとにかく握りづらく、手が落ち着かない。そんなに嫌ならオーバーサイズにすれば良いじゃないかと思われるかもしれないが、やはりM10にはサービスサイズが似合う。ルックスを取るか、グリップフィーリングを取るか、難しい選択だが、私は前者を選んだ。

 

 

 ルックスが良いと言っても、やはり、サービスサイズは握りづらい。しかし、グリップアダプターを装着すると、グリップフィーリングが格段に向上する。握った瞬間にピタッと手が収まる。その上、見た目も良い。

 

 

●まとめ

 

 斜陽化が進むモデルガン業界はロングセラー商品の再販が多い。しかし、タナカというメーカーはモデルガンの新製品を次々と発売している。まさか、令和の時代にM10のモデルガンが新発売になるとは思わなかった。しかも、シリンダーは.38スペシャルサイズで新規で製作されている。見た目はお馴染みのM10 ミリタリー&ポリスだが、アクションは従来のモデルガンとは比較にならないほどスムース。造形も申し分なく、程よい重量感があり、満足度は高い。