〇米軍に制式採用されたヨーロピアンオート

 

 ベレッタ 92Fは、1984年に開始された米陸軍-のピストルトライアル「XM9-SPT」にベレッタ社が提出したダブルアクションピストルである。「XM9-SPT」には、92Fの他に、SIG P226やS&W M459Aなどが参加したが、トライアルの結果、1985年に92Fが米軍制式採用ピストルに選ばれた。当初は、92SB-Fという名称であったが、1985年に一般向けの販売が開始されると92Fという名称に改められた。

 

 92Fは、スライド上部が大きく開いたデザインとなっており、ティルトバレル式(ブローニング式)でロッキングラグが存在する箇所が切り抜かれてしまっているため、ワルサー P38に似たプロップアップ式を採用している。ティルトバレル式がエジェクションポートの前に備わったロッキングラグでバレルとスライドを固定するのに対し、プロップアップ式では、バレルの下に取り付けられたロッキングブロックでバレルとスライドを固定する。

 

 92Fの起源は、ベレッタ初の大型ピストルであるM1951まで遡ることができる。M1951は、イタリア軍に1951年に制式採用されたシングルアクションピストルで、スライド上部が大きく開いたデザインとなっており、外観は92Fと似ているが、マガジンキャッチボタンは、グリップ下部にあり、セフティは、ショットガンのようなクロスボルト式(右側からボタンを押すとセフティがかかり、左側から押すとセフティが解除される)となっている。

 1975年にM1951を改良し、ダブルアクションのトリガーメカニズムとダブルカラムマガジンを採用した92が開発された。M1951のクロスボルト式セフティは、時代遅れとなっていたため、92ではコルト ガバメントのようなセフティに変更され、セフティレバーは、フレーム右側の後端に取り付けられた。

 1977年にイタリア警察の要望によってセフティレバーをフレームからスライドに移した92Sが登場し、1978年から開始された米空軍のトライアル「JSSAP」に92Sを改良した92S-1を提出した。92S-1は、グリップ下部にあったマガジンキャッチボタンをグリップ上部に移し、セフティレバーをアンビにしたモデルで、「オートマチック・ファイアリング・ピン・ブロック」が組み込まれ、92SBの名称で市販された。その後、米陸軍のトライアル「XM9-SPT」に提出されたのが、トリガーガードに指掛けを追加し、グリップフレームの形状などを見直した92SB-Fで、92Fの名称で市販された。

 1988年に過度な発射と強装弾の使用のよって米軍特殊部隊の訓練中にスライドの切断事故が起こり、割れたされたスライドの後部が射手に当たるという事故が発生した。その対策としてハンマーピンのヘッドを大型化し、万一、スライドが割れても、後方に飛び出さないように改良を施した92FSが誕生した。

 

 

〇本格的ガスブローバックガンの第1号

 

 ガスブローバックガンの歴史を語る上で、WA ベレッタ M92FSは、決して外すことのできないモデルである。ガスブローバックガン自体は、1990年代初頭に発売された2ウェイ方式のタナカ M1911A1や1ウェイ方式(アフターシュート)のMGC グロック17などが存在したが、いずれのモデルも外観上やアクションのリアリティは、モデルガンに遠く及ばず、実射性能は、当時、主流であった固定スライドガスガンよりも劣っていた。

 そのような状況の中で、1993年にウエスタンアームズが満を持して発売したWA M92FSは、実銃と同様の発射プロセス(1ウェイ方式のプレシュート)と高い実射性能、リアルな外観を実現しており、「本格的ガスブローバックガン」の第1号といえるモデルであった。初期型(便宜上、最初に発売されたモデルを「初期型」と呼称)は、装弾数15発で、ノンホップという仕様であったが、のちに装弾数を25発に増加させ、可変ホップアップを搭載したスーパーバージョンが登場し、その後、スーパーバージョンR、パーフェクトバージョンと改良が重ねられた。

 

 

 箱には、ホールドオープンした92FSのイラストが描かれている。「マグナブローバック」という愛称は、発売後の一般公募によって決められたため、マグナブローバックという表記はなく、メカニズムの名称は、「WA スーパーブローバック」と表記されている。

 

 

 当時の定価は19,000円だが、今回ご紹介するのは、中古で6,980円で販売されていたものだ。パーフェクトバージョン以前のガスブローバックガンは、あまり人気がないようで、中古サイトを見ても、多くのモデルが1万円以下で販売されている。

 

 

 素材は、スライド、フレームともにABSだが、スライドがポリッシュ仕上げになっているのに対し、フレームは、ブラスト仕上げになっている。この仕様は、初回ロットだけのようで、セカンドロット以降は、スライドもフレームと同じブラスト仕上げに変更された。光沢のあるスライドは、実銃のスチールブルーを彷彿とさせるが、小さな傷でも目立ちやすいのが欠点だ。

 

 

 スライド先端は、よく磨かれていて美しいが、フロントサイトにパーティングラインが残っているのが気になる。

 

 

 92Fのモデルガンが手元にないので、MGC M96FSと並べてみる。MGC M96FSと比べると、WA M92FSはスライドの後退量がやや少ない。

 

 

 スライドがフルストロークではないためか、ホールドオープンした姿は迫力に欠ける。

 

 

 先に発売されたタナカ M1911A1やMGC グロック17などは、ホールドオープンすると、内部のメカが丸見えになったが、WA M92FSでは、内部メカはおろか、ノズルさえも見えない。モデルガン並みのリアルさである。

 

 

 スライド左側の刻印はリアルだが、フレームにWAオリジナルのシリアルナンバーが入れられている。

 

 

 刻印は深く、はっきりとしているが、スライドがポリッシュ仕上げであるため、光が反射してしまい、読みづらい。

 

 

 トリガーは、ナロータイプのスムースなもので、シングルアクション、ダブルアクションともに軽く、キレがよい。

 

 

 セフティレバーを下げることで、実銃と同様にハンマーをデコックすることができる。

 

 

 テイクダウンレバーを回すと、実銃と同様にフィールドストリッピングすることができる。

 

 

 フロントサイトには、スライドと一体で、プラスチック製。エッジがしっかりと立っているうえに、ホワイトドットが入れられているので、サイティングしやすい。

 

 

 リアサイトは、金属製。経年のよるものなのか分からないが、ガタ付きがある。

 

 

ファイアリングピンセフティは、スライドと一体で再現されることが多いが、金属製の別パーツとなっており、トリガーを引けば、せり上がってくるかのような躍動感がある。

 

 

 ファイアリングピンは再現されておらず、ハンマー周りは、完全にガスガンオリジナルをものとなっているため、ハンマーを起こすと興ざめしてしまう。現行のパーフェクトバージョンでも、この点は改良されていない。

 

 

 グリップには、ベレッタのマークが入る。WA M92FSが発売された当初は、WAがベレッタの商標を巡って裁判を起こすとは誰も予想していなかっただろう。

 

 

 FSの特徴である大型化されたハンマーピンもしっかりと再現されている。

 

 

 マガジンは、亜鉛ダイキャスト製で、装弾数は15発。

 

 

〇実射

 

 いつも通り、3m先の直径6.5cmの円に向けて5発試射をした。0.25gのBB弾を使用し、中央の黒点を狙ったが、やや上に着弾した。しかし、このグルーピングは驚くべきものだ。5発中4発は、ワンホールに収まっており、近距離の命中精度は、現在のガスブローバックガンと比べても、遜色ない。

 現行のパーフェクトバージョンでは、可変ホップアップが搭載されていて命中精度は、宜しくないようだが、マッチ用と称してノンホップのものを再販したら、なかなか受けるのではないかと思う。

 

〇まとめ

 

 WA ベレッタ M92FSは、20年以上前に発売されたモデルだが、外観のリアルさ、実射性能は、現在のガスブローバックガンと比較しても、勝るとも劣らないものだ。ノンホップということで、サバイバルゲームで使用することは難しいが、プリンキングで使用するのは全く問題ない。中古市場での在庫も豊富で、価格も安いので、「本格的ガスブローバックガン」の第1号としての資料的価値も有するWA ベレッタ M92FSを手に入れてみてはいかがだろうか。