ブローニング・ハイパワーは、量産された拳銃として初めてダブルカラムマガジンを採用したモデルで、13発という当時としては圧倒的な装弾数から「ハイパワー」と名付けられました。ハイパワーは、フランス軍の次期制式採用ピストルとして開発されましたが、第1次世界大戦の影響を受けてトライアルが中止となりましたが、1935年にベルギー政府に採用されました。その後もリトアニア、ペルー、ドイツ、デンマーク、カナダ、イギリスなどが採用し、各国の軍隊で使用されました。

 

 ハイパワーが登場する作品として真っ先に思い浮かぶのは『ビバリーヒルズ・コップ』で、エディー・マーフィー演じるアクセル・フォーリー刑事がスパーハンマーのモデルを使用しています。また、ローズウッド刑事がニッケルフィニッシュのディテクティブスペシャルを使用していたり、敵役のメイトランドがセンチネル・アームズのカスタムガンのようなスナブノースのM629を使用していたりとガンマニア的もなかなか楽しめる作品になっています。そして、何よりもエディー・マーフィーの口から溢れ出てくるジョークの数々が面白く、コメディー作品としてもバッチリです!

 

 

 さて、前置きが長くなってしましたが、今回ご紹介するのは「マルシン ブローニング・ハイパワー コマーシャル」です。ABS製の発火式モデルガンです。発売当初はサイド発火式でしたが、のちにセンターファイアー式に改良されました。今回のモデルはセンターファイアー式のモデルです。

 

 

 ハイパワーには、製造年や製造国などの違いで数多くのバリエーションありますが、マルシンがコマーシャルとしてモデルアップしたのは、1973年以降に製造された“ビジランテ・モデル”です。マルシンも当初は“コマーシャル・ビジランテ”という名称で販売していたようで、取扱説明書にそのような表記が見られます。

 

 

 ハイパワーは、製造年により、エキストラクターが内蔵されているものと露出しているものがありますが、コマーシャルは後者です。

 

 

 ホールドオープンさせると、このようになります。お世辞にもカッコイイとは言い難いですね・・・。

 

 

 金型が古いためか、刻印類は概して薄く、今にも消えてしまいそうな感じです。

 

 

 右側には「MARUSHIN」の刻印が入ってします。全体的に刻印は少なく、スッキリとした印象です。

 

 

 バレルブッシングは錆びが浮いてきてしまったので、軽くやすりをかけ、ピカールで磨いたので、光沢のあるシルバーになってしますが、本来は艶消しの黒です。

 

 

 セフティは、ガバメントなどと同じ「コック&ロック」ですが、サムセフティが小さいため、使い勝手は良くありません。実銃に於いても小さいサムセフティは不評であったようで、MkⅢでは大型化されています。ハンマーは、オーソドックスなスパーハンマーです。

 

 

 グリップはダブルカラムということもあり、ガバメントと比べると随分と太く見えますが、上部がくびれているため、その見た目に反してグリッピングは良好です。

 

 

 ハイパワーの特徴を列挙すると、抜群なルックス、当時としてはハイキャパシティなマガジン、握りやすいグリップ、コック&ロックのセフティといった具合で、各国で採用されたことも頷ける完璧なピストルであるかのように見えますが“重くて粘り気のあるトリガープル”という致命的な欠点があります。

 マガジンの前からニョキっと出ているのがトリガーバーで、マガジンの後ろにあるのがシア―なのですが、フレームにはシアーバーがなく、この2つは全く連動していません。シアーバーがどこにあるのかというと・・・。

 

 

 なんと、スライドにあるのです。ハンマーが落ちるまでのプロセスをご説明しますと、

①トリガーを引くと、フレームにある「トリガーバー」が上がる

②「トリガーバー」がスライドにある「シアーバー」を押し上げる

③「シアーバー」がフレームの「シア―」を押し下げ、ハンマーが落ちる

という流れになり、トリガーを引く力でシアーバーをシーソーのように動かさなければならないため、トリガープルは“重く粘り気のあるもの”になってしまっているのです。トリガーストロークの短さがせめてもの救いですが、トリガープルの扱いづらさは致命的です。

 

 

 発火性能の良いカートリッジが5発付属します。私は観賞派で、発火させることは極めて稀なのですが、出来心で50発程度発火してところ、ジャムはほとんどなく、快調な発火を楽しむことができました。

 

 

 マルシンのモデルガンの多くはデトネーターを抜くだけで簡単にダミーカート化できますので、ハイパワーもダミーカート化しました。

 

 

 余談ですが、イーストAのガバメント用のホルスターにハイパワーを収めることができました。専用品かと思うほどピッタリで、ガタもほぼありません。

 

 

 マルシン ハイパワーは、快調な発火を楽しむことができる発火向きのモデルであると思いました。各部の造形や内部機構は設計の古さを感じさせる点もありますが、鑑賞用としても十分楽しむことができます。デトネーターを外すだけで簡単にダミーカート化できる点も魅力的です。また、具体的な発売日は不明ですが、「コマーシャル」、「ミリタリー」、「カナディアン」の完成品、組み立てキットが久々に再販されるようですので、買い逃した方、気になっている方は必見です。私もカナディアンを買おうかな・・・。

 マルシンといえば、センターファイアー化されたS&W M39/M439が8月に発売(おそらく冬頃にズレると思いますが)されますので、そちらも気になります。わざわざ、センターファイアー化するということは、ほかのS&Wオートも出るのではないか、と期待してしまいます。ツートンのM59が出たら、タナカのデザートイーグルに次ぐヒット商品になると思いますが・・・。