胆大小心録 その28 | むかしのはなし

胆大小心録 その28

二十八

播磨(兵庫)のどこかの里で、下女が夕飯の際に田んぼの泥で汚れた足を洗った。
洗い終わって、たらいの汚れた湯を垣根に捨てようと、
そこに狐が寝ているのに気付かずに湯をかけてしまった。
狐が目を覚まし逃げる時に、一度振り返って、下女の顔を見た。
下女はそれに気付かなかった。

その夜下女がうわの空で言う。
「私は昼寝をしていた。何のためか知らぬが、汚れた水を私にかけた」
と。

下女は怒りの表情で、夜通し狂ったように騒いだ、という恐ろしい事があった。
翌朝、村に住む僧が来て、狐に言う。
「汝が昼寝をしていた場所は、汝の住処では無い。
下女は汝がここにいることを知りながら水をかけたわけではない。
知らないで誤ってやってしまったものを咎める道理は無い。
人間は不本意な過ちは、過ちとはしないものだ。
汝は初めてその事を知ったのだ。畜生の愚かさを不憫に思う」
狐は黙ったまま、そこを去った。

この話は(前条の)犬の性と同じ類の話だ。


秋成はとことん狐憑きの話が好きなようです。
前回と今回の2条は、
第13条に出てきた「善悪邪正が無い」という言葉の具体的な例だそうです。

さて、次回の予告をしますと、また履軒絡みの話です。
もういいっての。