その昔、アイドル・南野陽子(以下「nanno」)がお気に入りだった。CDを買ったこともなくコンサートに行くことなど考えたこともない、ごくごくライトなファンだったが、歌番組で姿を見るのが楽しみだったし、フジテレビのドラマ「あいつがトラブル」は毎週録画していた。
日曜夜はニッポン放送「ナンノこれしきっ!」に耳を傾けた。スポンサーはオンキヨーで、番組中のCMで使われていたnannoの曲がタイトルもわからないままずっと脳裏に残っていた。
それから十数年たったころだろうか。ふと思い立って地元の公立図書館でnannoのCDを何枚か借り出し、あのCMの曲が5thアルバム「GLOBAL」(1988年7月リリース)収録の「SPLASH」であることを探り当てた。

(背後にNYワールドトレードセンター・ツインタワーが見える)
さらに十数年が過ぎてまたもやふと思い立ち、2、3週間前からSpotifyで「GLOBAL」をよく聴いている。ほかのアルバムも聴いたが、「GLOBAL」が私の好みに一番合う。1曲目の「Hello! Goodmorning」の切ないほどの懐かしさ。シングル曲「あなたを愛したい」は納得のクオリティー。
そして2曲目の「月のファウンテン」。歌詞を見ながら何度か聴いているうち、冒頭の「月がきれい」の意味がわかったような気がして“はっ”とした。歌詞は以下のように続く。
「月がきれい」
夜空を語るように
想う気持ち
伝えたいの
そこで思い出したのが、漱石にまつわる話だ。
小説家・夏目漱石が英語教師をしていたとき、生徒が " I love you " の一文を「我君を愛す」と訳したのを聞き、「日本人はそんなことを(直接的に)言わない。(直訳ではなく意訳して)月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったとされる逸話
(ピクシブ百科事典「月が綺麗ですね」より)
歌詞が暗示している「月がきれい」=「あなたが好き」という連想は漱石の逸話と同様だ。歌詞はさらに続く。
好きと言わない あなただから
日本男子は今も昔も「好き」なんて簡単に言わないのである。
作詞の平出よしかつ氏が漱石の逸話を意識していたかどうかはわからない。むしろ意識していなかったほうが、「月がきれい」=「あなたが好き」という連想の普遍性を裏付けるようで興味深い。
ところで、先ほどの漱石の逸話は、裏付けとなる資料が存在せず、作り話である可能性が濃厚らしい。その幻の資料を題材にしたのがドラマ「相棒」season13の第12話 「学び舎」であった。