今日のランチは、とある中華の店に初めて入ってみることにした。入り口横の椅子に2人腰掛けていて、それぞれスマホをいじっている。たぶん順番待ちをしているのだろう。しかし、店内を見ると、手前のカウンターには誰も座っていない。

試しに店員に声を掛けると、店員は「お1人様ですか、えーと」と言った後、例の2人のほうを見て、「先にお待ちの方がいますので、順番にお呼びします」と返答した。その直後、順番待ち①の男をカウンター席に案内、順番待ち②の女はテーブル席希望とのことでそのまま待機。そして、順番待ち③の私もすぐにカウンター席に案内された。

要するに、おそらく店員は外に2人待っていることに、私が声を掛けるまで気付いていなかったのだと思われる。なぜそうなったかといえば、おそらく例の2人は店員にまったく声を掛けることなく、最初から黙って入り口横の椅子に座ったのではないかと疑われる。勝手な想像だが。

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これと同じようなことが、少し前に別の店でもあった。やはり昼時に、店の入り口前に置かれたお品書きの前に2人並んでいた。私と同僚がその後に並んだのだが、食事を終えた客が店から何人か出て行った後も、店員は順番待ちの客を呼びに出て来ない。壁の窓から店内をのぞくと、明らかに空席がある。しかし、前に並んでいる2人は何の行動も起こさない。

仕方ないので、私は同僚に「ちょっと様子を見てくる」と言って店の中に入り、店員に「外に並んでいる人がいるので、順番に案内してもらえますか」と頼んで列に戻った。店員はすぐに出てきて、我々を店内へと次々に招き入れた。

ちなみに、どちらの店にも「係の者がご案内しますので、こちらでお待ちください」みたいな掲示はなかった。

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言葉を発しないといえば、混んだ電車の奥のほうから周りの人を無言で押し分けて下車していく輩がなんと多いことか。若者だけでなく、年配者も他人に体をぶつけながら降りようとする。

一度思い切って電車の中で、「奥の方から降りる人は『すみません』とか『降ります』とか言ってくださいねー」と声を上げたことがある。そのときは、近くの男性がすかさず「降ります」と応じてくれたので正直ほっとした。

しかし、ひょっとすると、「他人の体に触れそうなときは事前に声を掛けるのが礼儀」という私にとっての常識が、もはや世間では常識ではなくなりつつあるのかもしれない。「電車の奥のほうから他人を無言で押し分けて下車してもオッケー」というのが新常識だとすると、体をぶつけられていちいち嫌な気持ちになる私のほうが「変な人」なんだろうか。

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そういえば、4月に訪れたシカゴでは、人込みで体が触れそうになっただけで「Excuse me」と何度も言われた。日本の感覚では、「すみません」と言うまでもないだろうな、という場面でもだ。欧米人は昔から日本人と比べ、体の接触にはデリケートらしいが、その傾向は(現地滞在36時間という、ごくごく限られた体験からの推測だが)最近もあまり変わっていないらしい。

そもそもアメリカ人は、初対面の人とも何かと言葉を交わしたがるようだ。空港の入国管理官しかり、ホテルのレストランの従業員しかり、劇場の飲み物売り場の販売員しかり。きっと事務的な会話だけで済ますのは味気ないし失礼だという感覚なのだろう。

こちらはそのたびに、拙い英語を絞り出そうとしどろもどろになる。しかし、同時に、何やら温かく懐かしい気分にもなる。