※リクエスト作品になります。




理佐side



由依「じゃあ、泊まっていきなよ。」
理佐「へっ…?」


平然とそんなことを言う由依さんに変な声を私が上げたのは、私が東京の方へと帰る前日だった。

本当は朝一番に由依さんに帰ることを伝えようと思ってたけど、私が来て嬉しそうなその笑顔を向けられたら私の口は開かなかった。

そのままいつ言おうか、いつ言おうか、と東から出て西に沈む太陽と共に考えていたけれど、向日葵のように綺麗に笑う由依さんを前にしたらやっぱり言えない。

まるで太陽から隠れるように咲く、紫陽花のよう。由依さんの、その太陽に似た向日葵が眩しすぎるんだ。

だから、由依さんにはちゃんと挨拶できなくて申し訳ないけれど、帰りがけ、玄関で靴を履きながら、後ろに立って見送ってくれる由依さんへ背中越しにポツリとつぶやいた。


理佐「私、今日で最後なんです」


向こうに帰る、とか、今までありがとうございました、とか。そんないかにもな、立派な別れの言葉は私からは言えなかった。

離れたくないし、もっと一緒にいたかったし、由依さんとの思い出が足りない。残暑にやられたのか、目から汗が一粒落ちた。

その時に背中にぶつかってきたんだ。1ヶ月近く一緒にいて聞いていた私の好きな声が。


由依「じゃあ泊まっていきなよ。」
理佐「へっ…?」
由依「最後の思い出に。お泊まり会しよう?」


お泊まり会、久しぶりに聞いたそのワードは1ヶ月近く一緒にいたのにまだ由依さんが私のことを子供に見ていることを表してるような気がする。

でも、今日だけはそんなこと気にならなかった。由依さんとまだ一緒にいれる。その事実だけが頭の中にいっぱいに広がっていた。



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おばあちゃんの家に一度帰って着替えを持ってまた由依さんの家に戻ると、由依さんのお母さんが忙しなく私の泊まりの準備をしてくれながら教えてくれた。


由母「あっ、おかえり。由依、今脱衣所にいるから、2人でお風   呂入っておいで」
理佐「あっ…はい、」


穏やかにニコニコと話すその人柄は私のお母さんとは比べ物にならないほど。そして、いつも感じる由依さんの笑顔の華やかさと同じものを由依さんのお母さんにも感じた。

言われた通りに、玄関を真っ直ぐ進んで脱衣所の方に行く。
途中、考える。

由依さんと一緒にお風呂にはいる…裸で?子供同士ならまだしも、私もう18歳なんだけどな…

“ これから2人でお風呂 ”ということに思春期らしくドギマギする。

ただ、そんなこと思っている間にも脱衣所の前まで到着していて私は何も考えないまま少しだけ立て付けの悪い扉を力強く開いていた。


ドン…!
理佐「うわっ、!」
由依「ひゃっ、!」


びっくりした様子で、ノースリーブシャツ姿の由依さんと目が合う。

自分で開けといてって思うけど、私もどうしたらいいかわからず立ち尽くす。すると、いつものお姉さんの顔になった由依さんがふんわり微笑んで手招きしてくれた。


由依「…ふふっ。もう、びっくりしたよ」
理佐「ごめんなさい、」
由依「どうした?どこ行きたかったの?」


その発言の意味がわからなかった。


理佐「…ん?」
由依「ん?」
理佐「えっ、、いや、由依さんのお母さんに言われてここに来   たんですけど、」


来た道を弱々しく指差してそう言うと、パズルのピースとピースが嵌ったのか由依さんは少しバツの悪そうな顔をした。


由依「あ〜…お母さんに一緒に入って来なって言われたん     だ?」
理佐「はい、」
由依「はぁ…もう笑、ごめんね?うちのお母さん友達呼んでく   る度そうなの。もう子供じゃないんだから、そういう扱   いやめてって何度も言ってるんだけどなぁ…」


それ、由依さんが言えることじゃないでしょ。少し吹き出しそうになって口元に手を添えると由依さんも自分で気付いたみたい。


由依「…って、、私が言えることじゃないね、笑」


恥ずかしそうに笑ったあと、ほんのり櫻色に頰が染まっていた。そして、少しの沈黙の後、ぎこちなく由依さんは聞いてくる。


由依「、、、折角だし、一緒に入っちゃう?」
理佐「えっ、」
由依「理佐ちゃんが良ければだけど、」


なんの折角かよくわからないけど、このままリビングの方に戻って由依さんのご両親と気まずい時間を過ごすくらいなら、少し恥ずかしい思いはするかもしれないけど由依さんと一緒にお風呂に浸かった方がいいかもしれないと思ってしまった。

きっとこれは夏のせい。残暑の熱に浮かされてしまったんだ。そういうことにしてしまって羽目を外したい私がいた。

…由依さんともっと近づきたい。由依さんに触れたい。一緒に過ごすうちに、蛇口が壊れてしまった水道のように、私の中でそんな気持ちが止まらなくなっていた。


由依「痒いところないですか〜♪」


入浴剤を湯船に入れて溶かしている間に身体を洗う。後ろに立って私の頭を洗う由依さんは相変わらず私を子供扱い。でも何故だかご機嫌みたいだった。

時折当たる由依さんの肌の生々しさに1人心臓が飛び出そうになるけれど、その度に入浴剤のラベンダーの香りが誤魔化してくれる。


由依「はぁ〜気持ちいいね」


由依さんの家のお風呂の温度は42℃。夏にしては熱すぎてすぐにでも出たい気持ちだったけど、それじゃあ入浴剤が勿体無いと自分に言い聞かせる。

横並びで2人膝を抱えて無言で浸かっていると由依さんが言ってきた。


由依「理佐ちゃん、意外とあるんだね」


急に何の話だろう。そう思ったけど由依さんの目線を辿れば答えはすぐだった。


理佐「ちょっ、あんま見ないでくださいよ、」
由依「ふふ、大人で綺麗な身体してるんだから自信持ちなよ」


そう言って褒めてくれる由依さんだけど、由依さんだって大概だ。

その括った髪の毛の先から滴る水滴とか、由依さんの洗練された身体の形とか、まだまだ由依さんから見たらお子様で経験値もない私からしたら鼻血が出そうなほど刺激的すぎる。

時折ポチャンと水の音が鳴るこの、甘酸っぱくて少しくすぐったい時間は私の脳みそを溶かしていった。




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お風呂から上がり、お互いテンションも高くなって来たところだけど、明日の私の電車の時間もあり、すぐに寝ることになった。


由依「じゃあ…電気消すね?」
理佐「はい。」
カチ


由依さんが天井から吊るされている電気の紐を引っ張り、私は目を瞑る。鈴虫の声がよく聞こえて来て、サラサラとススキの音までするような感じ。

開けた窓から入ってくる夏の香り。ここで過ごす最後の夜に、約1ヶ月間の由依さんとの思い出を思い出していた。

出会った日、蒸し暑くて日陰に入るだけでとっても涼しく感じていたあの日に、由依さんと初めて出会えて本当によかった。

思春期で、反抗期だって半分片足突っ込んでるような私は、時々素っ気なくて可愛げもなかったのに、こんな私を由依さんはタイプだと言った。

当時は変わっていると思ったけど、嬉しい私がいた。駅からここまで駆けてくるくらいには。

………ずっとこのままでいいのに。

その直後だった。ふわりと由依さんのシャンプーが香り、頬に柔らかいものが当たったのは。


由依「チュ…おやすみ」


暗闇でよく見えないけれど、確かに感じた由依さんの気配を元に肩を押して、上に重なるように押し倒した。


理佐「やめてください、そういうの。いつまで私のこと子供だ   と思ってるんですか」


流石に怒った。いくら私がこの1ヶ月、どれだけ由依さんに煽られても手を出さなかったと言えど、好き放題やりすぎだし、気を許しすぎだ。

だけどそんな気持ちは少しも伝わってないのか、由依さんの優しい吐息を感じて首元をぎゅっと抱きしめられる。


由依「……寂しい、」

理佐「はぁ…?」

由依「帰ってほしくなくて、私のこと置いていかないで欲しく   て、。…きっと理佐ちゃんみたいないい子の周りにはい   いお友達がたくさんいるから。向こうに帰ったら私のこ   となんて忘れちゃって、相手にしてもらえなくなっちゃ   うと思って……」


顔を見せてくれないまま淡々と話している由依さんの言いたいことがわからない。


由依「理佐ちゃんが私に夢中になってくれてるうちに、少しで   も、理佐ちゃんに近づきたくて、、欲張っちゃった。
   ごめんね、」


ズズっと耳元で鼻を啜る由依さんは、珍しく弱々しくて泣いてるみたい。


理佐「由依さん…?泣いてるの…?」


お姉さんだと思っていた彼女の弱いところに触れて、どうしたらいいかわからない。

でも、何故か嬉しいと思った。いつもいつも子供扱いばっかりな由依さんで、意外にも“ 好き ”とかそう言った類のことをあんまり口に出さないから。

やっと、おんなじ気持ちなんだと実感することができた。それが何より私は嬉しかったんだ。きっと私はこの1ヶ月で由依さんのことを好きになりすぎてしまった。

未だ離してくれない由依さんのシャンプーが香る頭をそっと撫でる。


理佐「私、付き合っている人がいるのに、他に好きになっちゃ   った人ができた時選ぶべきなのは、後から好きになった   方だと思ってるんです。」


私の突拍子もない話に、涙がまだ溜まってる目でキョトンとしている。


由依「…なんの話?」

理佐「……私が向こうに帰っても、由依さんのことが大好きな   のは変わらないってことです。だって、向こうの友達の   方が私にとって魅力的なら、後から会った由依さんのこ   と、好きになるはずないでしょ?」


すごく当たり前な説明をしている気がする。

こんなにも好きなのに、由依さんにその全てを伝えられなくてもどかしい。

言葉にならず内から溢れる好意が胸いっぱいに広がって、ただただ痛いくらいに私の胸を満たしている。

この胸の痛みが、由依さんへの気持ちの大きさであるならば、私はその痛みすら愛せる自信がある。

私がそう言うと、由依さんは少し考えるような表情をして、しばらくしてこう言った。


由依「……信じきれないって、、言ったら?」
理佐「、、、誘ってる?」
由依「かも、ね…?」


小刻みに左右に揺れる瞳は不安げに見えたけど、そのどこか期待するような表情はまるで、月下美人のよう。

透き通るような真っ白な肌に、華奢だけどつくところはちゃんとついている魅了的な身体。太陽は知らない甘い由依さんに私の心臓は耳の近くまで来ているみたい。

余裕なんてない滑稽な私に、涙を浮かべた由依さんはとどめの一言を刺す。


由依「、、、愛して、理佐。大好きなの」


そんな可愛い言葉、子供に使っちゃダメでしょ。いつも子供扱いが酷いくせしてこう言う時そんな言葉を使う。一度入ったら投げ出せない沼みたいだ。

壊れてしまわないようにそっと由依さんの肌に触れる。私の指や脚が触れるたびに嬉しそうに甘く吐息を吐く由依さんの声。2人が動くたびに揺れるベッドの音。

由依さんの家も私のおばあちゃんの家に負けず劣らずな古風な家だ。壁も特別厚いわけじゃない。

……誰にも聞こえていないといい。

いや、聞こえていてもいい。バレてもいい。ただ、この時間が一生忘れられない深い愛を確かめ合った2人だけの思い出になることをきっとお互い望んでいた。





fin



お読みいただきありがとうございました!

自分で書いといてなんですが、夏が近づいてくると書きたくなるお話です🫧

このお話の裏は書く予定でいますが、その後の2人の展開は書くかどうかわかりません。出るかもしれないですし、皆様のご想像にお任せするかもしれません🌻

おっす。