※リクエスト作品になります。理佐さん、ひかるさん共に
 ほんの僅かですが男性化させていますので、苦手な方は
 自己防衛願います🙇‍♂️

 そして、先日Twitterでツイートさせていただいた噂の
 凄く長い小説になっていますので、お時間のご都合が合う時
 にでもお付き合いください。




由依side



櫻が綺麗に舞っている4月、去年の今頃から始まった慣れない高校生活があっという間に1年間終わりを告げ、まだ校舎も覚えてきれてないというのに私は高校2年生へと昇格した。

昇格したとは言っても、高校受験で背伸びをした私では頭が足りなくてギリギリだったけど。

今年はそんなことにならないように気をつけなきゃ。なんて、三日坊主の私が続くわけもないのに高い目標を心で掲げたところで後ろから誰かに声をかけられた。


保乃「あ!おはよう由依ちゃん」
ひかる「おはようございますっ!」
由依「おお、2人ともおはよう(笑)」


太陽みたいな可愛い笑顔で挨拶してくれる保乃と、警官さんみたいに深々と頭を下げてくるひかる。仲が良さそうな2人を見て、少し羨ましいなんて思ってしまうのはいつものこと。

………本当、私たちとは大違い。

そんなに敬意示さないでほしいと、何回もひかるには伝えているんだけど「いえダメです!これは決まりなので!」なんてごちゃごちゃ言って頑なにやめてくれない。まぁ、どれもこれも今はいないあの人が原因なんだけど。


保乃「あれ?今日も理佐は来てないん?」
由依「うん、朝一緒に行かない?って誘ってみたんだけど
   眠いから行きたくないって」
ひかる「あー、昨日は夜まで忙しかったんです。なんかよくわ    かんないですけど、相手めちゃめちゃ怒ってて」


理佐、昨日も喧嘩してたのか…。やめてって言ってるのに…。
……怪我してないかな。私の心に靄がかかる。

理佐は私の彼氏で、ここまでの会話を聞いたらきっとわかっていると思うけどいわゆる不良という類の人。そして、保乃の彼氏のひかるも不良で理佐の後輩なのだ。

彼とは去年の夏ごろに私が猛烈なアプローチを受けて、何度も断ったのに全然諦めてくれないから仕方なく私が押し負ける形で付き合うこととなった。

なんて、私が理佐とのことを思い出してる内にも保乃たちは自分たちの世界に入っていて。その姿を後ろから見る私の心の中には、不器用で彼女の私に対してもいつもそっけないけれど、それでもどうしようもなく愛が溢れてしまう人の顔が浮かぶ。


保乃「ひぃちゃん今日も一緒に帰ろうな」
ひかる「うん、約束。迎えに行くから待ってて。」
保乃「来てくれんかったら許さんからな?」
ひかる「そんなことするわけないじゃん。俺がどれだけ保乃
    ちゃんのこと愛してると想ってるの。」
保乃「っ…///」


頬を櫻色に染める保乃を見て考える。理佐は本当に私のことを好きでいてくれているのかな。

もちろん、付き合う前のアピールされている時には嫌というほど好意が伝わってきていたけれど正式に彼女となってからそういう私に必死になっている理佐を見たことがない。たまにはあの頃の理佐も見てみたいな、なんてね。

今日理佐は学校休んでいるけれど、きっと帰りは「早くしろ、待たせるな」なんてグチグチ言いながら迎えに来てくれるだろうからちょっとワガママ聞いてもらおうかな。……あんまりわざとらしいとお臍曲げちゃうかもしれないけれど。

そんなこと考えて期待と、ドキドキで胸が膨らむ朝だった。




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理佐「おっそい。」


学校が終わって、いつもならすぐ出てくるんだけど今日はちょっと遅くなってしまった。案の定、理佐は顰めっ面だったけどその後すぐに、痛いくらい私の手を握り帰路に着く。

素直じゃないけど、こうやって毎日健気に送ってくれるところちょっとキュンと来るんだよね。そっと気づかれないように斜め上の理佐の顔を見つめる。

そして、もう少しでお家に着くというところで私はゆっくり立ち止まった。必然と繋いだままの手が理佐の足も止めてくれる。


由依「………ねぇ、理佐?」

理佐「あ?」

由依「_____理佐は、、私のこと愛してる…?」

理佐「えっ…」

由依「私は……理佐のこと愛してるよ、?//」


私が先に愛を囁くことで、もしかしたら理佐も言ってくれるかもしれない。なんて、浅はかだとわかっているけど期待を抱きながら、ちょっと可愛い顔を作ってそんな台詞を吐く。

「愛してる」と「好き」の違いなんて、全くもってわかってないのに、理佐に“ 好き ”と伝える時の何倍も胸がドクンと跳ねた。

あぁ、私、本当に理佐のこと愛してるんだ。
付き合う前なんて興味もなかったこの人のことを。
愛言葉を与えるのはいつも私からで、ほとんど返してはくれないこの人のことを。

目の前の理佐はというと、らしくなくぶわっと顔周りを紅くして口をパクパクさせている。そんな私たちの間を櫻の吹雪と共に春風が通り過ぎて行った後、素直じゃない言葉を並べたのは理佐だった。


理佐「ぁ、あっそうかよっ…!///」


釣り上がった眉毛が悲しかったけど、最初から知ってた。

理佐がそんな上手いこと愛を伝えてくれるはずないことも、
本当は私のことが大好きで愛してやまないということも。


由依「あっ、ちょっと待ってよ…!」
理佐「知らん知らんっ!今日はもう帰る!///」


私たちのルーティンであるおかえりのキスとお疲れ様のハグが今日は無くなってしまったけど、早歩きで先を行ってしまう理佐を追いかけるのが、いつもよりちょっとだけ楽しかった。





後日、たまには保乃と帰りたいなと思って2人で帰っている途中、その事を保乃に相談がてらちょっと惚気てみたらすごく笑われてしまった。


保乃「あはは、ほんま2人とも変わらんなぁ(笑)」
由依「ちょっと、笑い事じゃないんだってば、」
保乃「んふ、ごめんごめん。でもいいんやない?
   2人らしくて保乃はええと思うで」
由依「ん〜……まぁ、そうなんだけどね〜…」


「言葉が全てやないってことよっ!」なんて、流石バレー部のエースと言わざるを得ないくらい強めに背中を叩かれるけど、晴れない私の心は別のことを考える。

確かに、理佐は言葉でっていうよりも態度でって言う感じなんだけど。それでも理佐に声を求めてしまうのは、私の虫が良すぎるのかな…。ローファーに乗った一枚の櫻の花びらが寂しげに見えた。

それからも「理佐は由依ちゃんのことが1番好きなんやなぁ」、「可愛いやん、中学生の初恋みたいで」と私の隣で1人キャッキャと盛り上がっていた保乃だけど、1つ曲がり角を曲がると急に落ち着いた声で私に問いてきた。


保乃「逆に、由依ちゃんの理佐の好きなところ教えてや。
   聞いた事なかったよな?」


聞かれた私は少し考えるフリをして言葉をまとめる。だって、頭に浮かぶのは映像ばかりで瞬時には上手く説明出来なかった。

あんまり乗ってくれないけど、デートした時にはいつも私を喜ばせようって色々してくれる理佐。

喧嘩の後、怪我して帰ってきては手当てする前に、疲れた真似して私にベッタリ甘えてくる理佐。

目離したらすぐどっか行っちゃって、散々探しまくって見つけた時には「由依なら見つけてくれると思ったから」なんて言うちょっと手のかかる理佐。

理佐と付き合ってから確かにいいこと続きだったわけじゃないはずなのに、浮かんでくるのはみんな私が大好きな理佐で。どう保乃に話そうかなんて、考える前に口が勝手に動いてしまっていた。


由依「……別に、理由なんてないよ。なんか好きなの。」

保乃「なんか好き?」

由依「うん。初対面の人のことすぐ睨んじゃうから喧嘩売られ   たり怖がられること多いけど、本当は全然そんなことな
   くて甘えてくるし優しいしたまに意地悪だけど憎めなく
   て…。

   そんなところ見てるとさ、不意になんか好きだなって
   思うんだよね。」


始まり方は理佐の一方通行だったけど、今はちゃんと私からも矢印を出してるんだよって伝えたくて気づいたら一生懸命に言葉を紡いでいた。

喋り終わったところで羞恥心が襲ってくるから俯くと、隣で聞いてた保乃が柔らかい声で言う。


保乃「由依ちゃん、ちゃんと理佐のこと愛してるんやな」
由依「っ、なんか恥ずかしいんだけど、、、///」
保乃「ふふ。今の由依ちゃん凄い優しい目しとる。
   理佐も幸せもんやなぁ、こんな可愛い彼女がいて。」


私はひかるが羨ましいよ。なんでも優しく包み込んでくれるような優しい保乃を見てそう思った瞬間に目の前が真っ暗になった。




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保乃side



ん……、あれここどこやろ、?なんでここおるんやっけ…。
えっ、なんで手後ろで縛られとるん…足も動かれへん、、

目に入るのは赤く錆びれた機械や、朽ちた鉄パイプの束、派手に穴が空いた屋根なんかですぐにここが廃工場やとわかった。

怖くて足が震えて力なんて入らんけど、とりあえずここから出なきゃ…と、モゾモゾと腕を動かしてなんとか外れないか試していると、少し離れた場所から由依ちゃんの声がした。


由依「保乃…!」
保乃「っ!由依ちゃん、‼︎これ、どう言うこと…?!」
由依「わからない、目覚めたらここいて動けなくて…」


華奢な身体を動かして身じろいでる由依ちゃんの手首は真っ赤になっていて、保乃より長い時間格闘していたんやろなぁと感じる。

すると向こうから誰か歩いてきて、気味の悪いニヤケ顔で保乃たちに話しかけてきた。


? 「やぁやぁ、お2人さん。よく寝てましたね。
   寝心地はどうでした?」
保乃「っ、いいわけないやろ。早くこれとってや!」
? 「おぉ怖い怖い(笑)流石、ひかるの女ってところか」


ひぃちゃんの名前が出てきた時、背筋が凍るような感覚がした。この人、ひぃちゃんのこと知っとる…、悪い人や…。


? 「お前はどうなんだよ、なぁ?理佐のガールフレンドだっ   たかな?綺麗な顔してるお前だよ。」
由依「なんでもいいでしょっ…!何がしたいのよ!」
? 「おっと、反抗的な態度は良くないぜお嬢ちゃん。俺は
   可愛くない女は嫌いなんだ。こうなりたくなかったら
   大人しくしな…!」


由依ちゃん危ない!!なんて思った時にはもう男の手からナイフが投げられていて、顔を逸らした由依ちゃんのほっぺをシュッと切る。


保乃「由依ちゃん!!」
由依「大丈夫だよ、保乃…。ちょっと切っただけ。」


ゆっくりだけど確実に下に垂れていく由依ちゃんの紅い血を見て、はらわたが煮えくり返る思いになる。人を殴りたいなんて思ったことなかったけど、今初めてこれでもかと言うほど手に力が入ってるんが自分でもわかった。


保乃「なんなん、本当…」
? 「あぁ?なんだその目は。言ったよな、俺は可愛くない女
   は嫌いなんだよ。」


オラオラとガニ股で近づいてきて、さっき由依ちゃんの頬を切った刃物の先が保乃の顎を上げる。

ほんまどうしよ…、こわい…、このまま保乃たち死んじゃうんちゃうかな、、そんなん嫌や……。

助けて、ひぃちゃん__________。





理佐side



あー、やっぱり朝からの学校は学んで得るものに対して割にあわねぇわ。授業終わりのチャイムが鳴り響く中大きく伸びをする。

ちゃんと受けなさいとか、由依とクラスが同じなら言われるのかなぁ…。真っ白なノートの1ページ目、ど真ん中にシャーペンで書いてある「ゆい」という不恰好な文字。先生の授業がつまんなすぎて書いてしまった。

不良と噂されている俺に近づくモノ好きなんていなくて、やることがない俺はぼーっとそのノートを見つめる。するとしばらくしてドタバタと廊下から足音がして気づいたら目の前にひかるがいた。


ひかる「理佐さん!大変です!!」
理佐「ん〜?何、ひかる。サボりなら由依に怒られるから
   やんねぇ………「「違うんですっ、!!」


なんだか凄く慌てた様子のひかるに、やっと俺も異変に気づき始める。そして、背もたれに預けていた身体を起こして話をしっかり聞こうとした瞬間ひかるから伝えられたことに俺の肝は一気に冷やされることになるのだ。


ひかる「保乃ちゃんと由依さんが連れてかれたんです!!!」


置き手紙らしきものを目の前に開いて見せてくるひかるを前に何かの間違いだと思った、「ゆい」なんてそんな珍しい名前じゃないから違う人だと思った。…思いたかった。

でも、ひかるがさん付けする「ゆい」というのは1人しかいないはずで、嫌でもその「ゆい」が誰を表すのかわかってしまった俺は我を忘れたようにひかるの肩を掴んで咎めた。


理佐「っ!!早くどこにいるか言え!!」
ひかる「わからないです、!ただ「連れてく」って言う紙が
    落ちてて……本当、すみません!!」


由依が、由依が連れ去られた…。アイツが、由依を、、、
アイツらがいる場所……、わかんねぇけど走るしかない、!

俺はひかるを置いて目的地も定めてないのに一心不乱に走った。全力で駆けてるはずなのに、とても遅いように感じる自分の身体が憎かった。

どこでもいい、早くしないと…。由依が…由依が泣いてる、。由依が、死んじゃう。

頭の中、由依だらけ。ごめん由依、俺がもっとちゃんと勉強してたらすぐにでも由依の居場所わかったかな。1人にしないで嫌って言われても一緒にいたら良かったかな。……どうしたら防げたかな。

いつもみたいに優しく「そんなに過ぎたこと話してても仕方ないよ」って言ってくれる由依は、いない_____。

そして、走ってる際中頭が由依でパンクし始めた時に思い出す。

『_____理佐は、、私のこと愛してる…?』

あの時は珍しいこと言うもんだからびっくりして言葉が出てこなかったけど今なら声が枯れるまで叫び続けられる自信がある。




__________由依、愛してる。お前が大好きだ。




今更遅いなんて、それくらい俺の頭でもわかってるさ。
だけど言わないと。伝えないと由依に。たとえ何を間違えていたとしても、まだ由依は死なせられない。


だって言えてないから。1番大切なこと。、





どれくらい走っていたんだろう。気づいたら知らないところにいて、適当に入った廃工場の中から物音がするから奥まで入ってみた。

突き当たりまでまっすぐ進み開けた場所に出て、目に入ったのは俺がこの世で1番大嫌いな背中だった。

見るだけで嫌気が刺すようなアイツの背中が俺は大嫌いだ。その思いを適当にぶつける為、足元にあった手頃な石を大きな的目掛けて投げる。


ドンッ…
? 「っ、いってぇぇ……。」


男がうざったいとでも言いそうに俺の方を振り返った瞬間、にチラッと後ろに見えた由依と保乃の姿。そして、次の瞬間、この荒んだ工場に響く、不釣り合いな由依の掠れた声が俺の心臓をグッと締め付ける。


由依「っ、理佐………(泣)」
? 「おうおう、正義の味方のご登場じゃねぇか。遅かったな
   待ちくたびれたわ。」
理佐「………うっせぇな、お前の変な茶番が退屈すぎて寝ちま   ったんだよ。」


俺とアイツが話してる際中も、ずっと由依の鼻を啜る音が聞こえてくる。耳に入ってくる泣き虫な由依のその音が、今まで受けてきたどの大男の拳よりも痛かった。

ごめん、俺がこんなヤツだから、、、。だらしなくて情けないから、由依のこと泣かせちゃう…。本当、ごめん。

そんな思いを胸に無意識に奥歯を噛み締めて拳に力を入れていて、俺はどうやら怒ってるみたいだった。

目の前にいるコイツにだけじゃない、自分自身に怒りが湧いて収まらない。

_____もし、俺が不良なんかじゃなかったら由依が泣くこと
   なかったはずなのに、

_____もし俺がもっと強かったなら、すぐにコイツを倒して
   由依の元に駆け寄って抱きしめてあげられるのに、

_____もし由依の彼氏が俺じゃない人だったら…、
   …………本当は由依はもっと幸せかもしれないのに、

嫌な言葉がたくさん並び、涙が零れ落ちるのを悟られたくなくてなにかごちゃごちゃ話してるヤツの鳩尾に硬い硬い拳をお見舞いしてやった。

だけどやっぱり向こうの頭なだけあって、攻撃を喰らったのはコイツだけじゃなかった。


? 「う"………、‼︎」
理佐「グハッ、、、‼︎‼︎」


口の中が血の味で満たされる。目の前が霞んで由依が何か言ってるみたいだけどわからなかった。


由依「理佐っ!!」
? 「ぅ、ハァッ、はぁ……中々いい拳になってきたなぁ、
   理佐さんよ、(笑)」ボコッ!
理佐「あ"…、!っはぁ、はぁはぁ…!」
由依「やめて、お願い…‼︎最近怪我治ったばっかなの!(泣)」


頭が、痛い。、

顎を強く打たれた衝撃でクラクラと眩暈がする。身体が怠い。身体、思うように動かない…!これじゃ、、、!

そして、俺がそんなこと考えてるうちにもアイツの硬いデカい憎しみの込められた握り拳が俺の頭上を捉えている。だけど残酷なもので漫画のようにそう上手く本領というものは出てくれないらしい。ちょっともう、ダメかも…ごめん、由依、、。

心の中で一瞬諦めかけていた瞬間、俺の真ん前でアイツの呻き声が上がった。


? 「ん"ア"っ!!なんだ!てめえ!」
ひかる「自分の彼女、先輩に助けてもらうほど弱い人間じゃ
    ないんで。」


そう言って悪戯にニヤッと不気味な微笑みを俺の前で交わすのはひかるだった。そして、俺は立ち上がった後にアイツの相手をしているひかると背中で話す。


理佐「はぁ、サンキュー…!」
ひかる「っ、大丈夫ですっ!それより由依さんと保乃ちゃんを
    !」
理佐「っ、でもひかる1人じゃ、!」


体格だってひかるの方がだいぶ小柄なのに、力だってまだまだひかるは未熟な部分があるのに、任せるわけにいかないじゃん。こんな時に限って馬鹿な頭がよく働くもので、変な心配が過ぎる。

だけどこのぼーっとしている俺の頭に、もう一度喝を入れたのはひかるの言葉だった。


ひかる「俺なんてどうでもいいですから!、、大事な人なんで
    しょう?!何にも変えられない、理佐さんの!、」


ひかるの口から“ 大事な人 ”という単語が出てきた瞬間、まるで熱がアルコールを飛ばすかのように、スーッと頭が冴えるのがわかった。

いつかひかるに話した、由依のこと。

そんなしっかりした場所でのことじゃなかったから覚えてないと思ってたのに。だけど、人はふとした時に本音を溢すものらしくて悲鳴に近いひかるの怒号で発せられた言葉は、俺の核心に触れるものだった。

そうだ、由依は俺の大事な人。守らなきゃ、安心する場所に、俺らの愛の巣に一緒に帰らなきゃ。

自分は不甲斐ないとか、出来損ないとか一旦置いといて由依の為に全力で向かった。由依の手を縛ってる縄と保乃の手を縛ってる縄をそこら辺にあったナイフで切っていく。

ぐちゃぐちゃになった感情達がこの時だけは俺の味方だった。いつもよりもよく力が入って、少し切り続けたらフッと千切れる。


俺は握りしめていたナイフを飛ばして由依の顔を両手で包み込んで見渡す。大丈夫か、あざになってる場所はないか、傷はできてないか…。そして不意に俺の親指が当たった場所で由依が声を上げた。


由依「いたっ……」
理佐「っ、!」


浅いけど、確かに由依の頬に切り傷があった。もう止血されているだろう傷口を見て黒いものが俺を包んでいく。


由依「っ、グス…りさ、ほの………(泣)」ギュッ


由依は俺と保乃を腕いっぱいに抱きしめてきた。本当は怖かったね、もう大丈夫だからと声をかけるべきなのかな。でも今の俺ではお世辞でもそんな言葉頭に浮かばない。口にも出せない。

どうやって後ろでひかるとやりあってる醜い動物を殺してやろうか、死なせるなんて易しいな。生きて償ってもらうがいいか。そんなことばかりが心を取り巻く。

そんな俺の心を読み取ったのか、腕を緩めた由依が眉毛を下げて心配そうに顔を覗かせてくる。


由依「理佐…、?」
理佐「…。」


なんで答えたらいいか頭に言葉が浮かばなくて黙っていた。どんな言葉口にしても、由依に当てて紡いだ言葉とは違う言葉、口に出しそうで…。

だけど当の由依というとそんなところまでも見透かしてるかのように、今度は俺のことだけ優しく温かく抱きしめてくる。刺立つ心さえ宥め込んでしまうような、由依のハグはまるで「私は大丈夫だから」と言ってるみたい。

いつだったか由依は言ってた、俺が怒ると目が吊るからすぐわかると。だから、「そんな怒らなくて大丈夫」と伝えてくれてるのかもしれない。

どっちにしても殺気に満ちた心はスッと軽くなる。愛の力は素晴らしいと、初めて感じた。


そして、俺らが抱き合ってからすぐに、アイツを懲らしめて手が空いたひかるが保乃の元へ走ってきて隣で俺らと同じ光景が広がる。

元気にこちらへくる様子からして大した怪我はさせられなかったみたい。ずっと稽古をつけてきた身として、頼もしくなってきたひかるが凄く嬉しかった。


ひかる「保乃ちゃんっ…!」
保乃「ひいちゃん…(泣)」
ひかる「大丈夫?ごめんね、守れんで…、。本当、、、」
保乃「んふふ、大丈夫やって。迎えにきてくれたん嬉しかった
   よ」


自分も由依と抱き合ってて言うのもアレだけど、知ってる顔がイチャコラしているのをまじまじと見るのはなんだか、こっちが恥ずかしくなってしまう。

だけど、忘れてはいけないのは今あるこの場所が安全でないということで。どんなひかるの一発を喰らったのか悶えているアイツも、きっと長くはそうしていてくれない。

早くここを出なくちゃ。そして………


理佐「ひかる、ここを出よう。」
ひかる「もちろんですっ!アイツはさっき鳩尾と首裏を……」


そう、饒舌に報告するひかるの唇にしーっ。と合図をした。
保乃と由依の前ではこんな話は止そう、と。

するとすぐ理解した様子のひかるが、ちょっとシュンとしていたけど「はい。」と言って保乃と歩き出す。それに続いて俺たちも。

……褒めてやるべきだったかな。初めて相手の急所をよくつけたこと。さっきの報告してくる時の饒舌さも、きっとひかる本人が上手くいったことを自覚してたからだったんだと思う。
………帰ったら、焼肉でも食わせてやるか。

大きな目を輝かせて喜ぶひかるの姿を想像しながら、由依の横を歩き出口まで4人で向かった。



由依side



保乃「家帰ったら傷の手当てせなあかんな〜…」
ひかる「これくらい大丈夫だって。」
保乃「ダメ!ひぃちゃんの綺麗な顔に怪我残ってまうもん」


さっきまで凄い状況だったのに、前の2人はと言うといつも通りで見てるこっちが拍子抜けする。私はまだ心臓がバクバク言ってるのに。

理佐も早く手当てしてあげないと。さっき抱きしめた時、身体中あちこち痛そうな表情してた。なんて、私がここまで理佐のこと見てるってきっと本人は微塵も気づいてないだろうけど。

横を歩く理佐の顔を見るためにチラッと見上げてみると、さっきまでいたはずの理佐がいなかった。


由依「あれ……?」


もう、理佐ってば…。いつもこうやって私置いていなくなっちゃう。きっとまだ建物の中にいるのかな。ちょっと心配が過った私は、キョロキョロしている2人に内緒で来た道を戻った。

さっき捕まってた広間を物陰から頭だけ出して覗くと、案の定寝転がってる男の人の横に理佐が真顔で仁王立ちしていた。そして、私は声をかけようと動いた時理佐が何かボソボソと話し始める。


理佐「おい。おいって言ってんだよ。」
? 「ん……ぁ?んだよ、まだいたのかよ……」


理佐がやわやわと男の人の頭を足で蹴ると意識を戻したみたい。ひかるがこう言う時凶暴してるのは分かってたけど、まさか気絶させるほどとは…。

いつも「由依さん、由依さん」って可愛いひかるのことが少しだけ怖くなった。


理佐「お前、今回、俺目当てじゃなかったろ。」
? 「……バレたんじゃしょうがねえな、くそ。」


距離があって理佐の声がよく聞こえなかったけど、男の人がバツの悪そうな顔をして理佐から顔を背けた。

なんだろ、まだ喧嘩続くのかな…?なんて、考えてると急に理佐が深呼吸して大きな声を出した。


理佐「……由依だろ。由依が好きなんだろ。」
? 「チッ…、ほっとけよ、」
理佐「じゃあ、言っとくけどな……

   _____由依は喧嘩で好きな子奪おうなんて考える奴のこと
      好きになんてなんねーよ!!

   本当に好きなら自分でアピールして振り向かせてみろ、
   だせーな。くたばれ、ゴミ野郎。二度と由依に手出すな   。」


急に大声で告げられた内容にカァっと顔が熱くなる。
なんてこと叫んでるの本当…///だけどその後に続いた、理佐の罵倒に混じった男気に私の胸が久しぶりにきゅんとした。

そして、恥ずかしくなった私は心の中でしかできないけど大好きな人へ悪態をつく。

なにそれ、、それじゃ私がアピールされたら誰にでも振り向く奴みたいじゃない、馬鹿……。………私が振り向いたのは理佐だったからだもん、。

一丁前に腰に手を当てて豪語したあいつには口が裂けても言ってやらないってこの時心に決めた。






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理佐side



家に帰ってきて、「服洗っちゃうから」と由依に服を脱がせられ半裸の格好でソファで膝を抱える。

今日のこと、どうやったら由依の顔に傷つけずに済んだだろう。何個も浮かんでくる「ああしておけば良かった」「こうしてればよかった」が俺の心をどん底に突き落としていた。

そんなことを考えていると遠くからだった由依の声がだんだん近くなってきて、こっちに由依が来ているのだと悟る。俺は顔を膝に埋めた。


由依「ん?あれ、りさー?どこ行っちゃったかな……。
   理佐?ねぇ?…………ぁ、いた。ズボンも洗うから全部   脱いで。」
理佐「……。」
由依「ほら、もう。言うこと聞いて?」


俺のズボンを脱がそうとベルトに手をかける由依だけど、流石に脱がせるのが無理だと判断したのか顔を覗いてくる。

傷のついた由依の顔見たら涙出てきそうで、黙ってそっぽ剥くとさっきまでの呆れた由依の声とは変わって優しい声で由依が話し出す。


由依「ねぇ、理佐…?お顔見せてよ。」
理佐「……や、」
由依「…そっか。」


それだけ呟いてだんまりする由依。いつも俺が嫌っていうと静かに身を引く由依だから、今回もそうなんだと思っていた。でも、


理佐「え……」


気づいたら由依が俺の膝に座ってて、両手で顔を上げられて視界に大きなガーゼを貼った由依の顔が広がる。可愛い笑顔を隠してる白いガーゼがやっぱり痛々しくて、涙が込み上げてくるのがわかった。

それでも一度目があった由依とは中々視線が晒せなくてただ見つめ続けていると、「ふふっ」って笑った後にぎゅーっと抱きしめられる。まるで、俺の身体があるか、ちゃんと確認するかのように。

そして、しばらく抱き合っていると由依が耳元で独り言を呟くかのように話し始めた。


由依「私…、この前『私のこと愛してる?』って理佐に
   聞いたでしょ?」

理佐「……うん、、、」

由依「あの時、理佐答えてくれなかったけど、、今なら言葉に
   してくれなくてもわかる。」

理佐「っ!」

由依「私、本当は心の中でずっと理佐のこと呼んでたんだ。
   ……怖くて、どうしよう、って考えたら気がつくと
   理佐のことが頭に浮かんでた。」


淡々と話す由依の言いたいことがわからなかった。わからなかったけど、心が動かされて込み上げてくるものが目から溢れそうで。


由依「だからね、理佐来てくれた時、私のヒーローみたいだっ
   た。安心した。好きだなって思った。離れたくないって
   、離してほしくないって思った……。」


そういうと由依は、俺と目が合うようにゆっくり起き上がる。
目があった瞬間、ちゃんと言わないとって思った。本能的に、伝えるべきだって。


理佐「由依、俺……由依のこと、ッ…」


チュッ…

俺の言葉が宙に舞う前に、由依の唇が迎えに来た。
ふにっと合わさった唇は、噂通りのレモンの味。

ゆっくり離れていく唇が名残惜しかったけど、鼻先がついてしまうくらい近くで感じる由依の息遣いが愛しい。


由依「………んふ、私のファーストキス。理佐にあげる。」
理佐「っ、、、///」
由依「……大好き。」


今まで見たことないくらい幸せな顔で笑う由依が、今まで感じたことないくらい可愛く見えた。

_____そんな甘酸っぱい、俺のファーストキスのお話。





fin




お読みいただきありがとうございました!

そしてTwitterで呼びかけてから凄く時間を流してしまいすみませんでした。以後、気をつけます。

長ったらしい癖に、文章中々つまらない部分が多かったかなと思います。拙い言葉でもこの物語のいい場所が伝わっていますように…🌿

そして、ちゃんと見送ってしまった大園玲さんのお誕生日…。
もし心優しい読者様がいらっしゃいましたら、近々「宝物シリーズ」が出るかと思いますのでお付き合いいただければなと思っています。

本当、ごめんな、玲ちゃん、、、。🙇‍♂️🙇‍♂️


今月から新生活が始まった方が多いかと思います。書き手もその1人です。慣れない環境は思ったより身体がストレスを感じています、どうか皆様お身体ご自愛ください。


それでは、また更新します!おっす。