※リクエスト作品になります。たくさんのリクエスト
ありがとうございました🙇♂️
ひかるside
ひかる「天〜、部活〜」
天 「待って!後3秒!………よしできた!ゴーゴー!」
みんなゾロゾロと帰り、人がいなくなった頃、俺の身体に不釣り合いな大きな弓を持って弟の教室に顔を出す。
昔っからマイペースやさんで、俺がどれだけゆっくり帰る支度をしてから迎えに行っても、毎回この様だ。
だけど部活が嫌いなわけじゃないみたいで、支度が終わると上機嫌で武道場に走って行ってしまう。
……本当、何年一緒にいても意味わからんやつ。
ー武道場ー
俺らが入る時にはもう部員やマネージャーがみんな入っていることが多い。そして、マネージャーに怒られてから部活が始まることがほとんど。
藤吉「あんなぁ、エースならもっとしっかりしいよ」
天 「ゴメンナサーイ」
藤吉「それ毎回言っとるけど反省してないん知ってるんや
からな」
天 「ナンノコトダローナー… 」
田村「ひかるもやで!なんで保乃が毎回怒らなあかんの!」
ひかる「ひいぃぃ…!ごめんなさい!ごめんなさい!」
田村「フンッ、もう次は知らんからな。」
マネージャーは数人いるけれども、俺らを叱ってくるのは大体この2人。ドクターストップをかけられたらしく、いつの日からかサポートに回ってくれている2人だ。
背の低い俺からして、怒ってる保乃ちゃんは少しばかり怖いけれどあんまり不快にならないのは何故だろう。
そして、ちょっとだけ一年生の時に見た保乃ちゃんの弓を引く姿と今の怒った顔を比べてみては密かに毎回胸が高鳴る。
田村「はよ練習するで」
ひかる「うん」
田村「……期待してんで、」ボソッ
ひかる「えっ…?なんか言った?」
田村「…っ、なんも言ってへんわ…!」
遠くから「あっ、やっぱトイレトイレ!」なんて袴を着終わった天が騒いでいるのが聞こえてきて保乃ちゃんが言ってることを聞き取れなかった。
だけど何かをつぶやいた保乃ちゃんは酷く悲しげで儚い表情をしていた。
何か悪いことしちゃったかな……
それから保乃ちゃんとの心の壁を気にしながら練習していると天がきた。
天 「ひかるできなーい!」
ひかる「何がよ。」
天 「当たんない、真ん中。」
ひかる「…はぁ、あのな、真ん中が高得点なわけじゃないの
知ってるよな?別に無理して当てなくても…」
天 「今日は当てたい気分なのっ!!」
あぁ、もうなんだこの話の通じない動物は。今日も今日とて頭を抱える。
いっつも子供みたいに「できなーい」って、俺に聞けばなんでもできるようになると思うなよな!こっちだって苦労して覚えたコツなのに…
そんなことを思っても、最後には手を差し伸べてしまう自分に嫌気が差す。
ひかる「あぁもう…教えるから弓持ってこっちこい」
天 「ほんとっ…!!」
なーんでこんなにもお人好しなんだろう。まあ、天が甘え上手なのもあるだろうけど。
俺が天に教えていると、いつもは部活に顔さえ出さない名だけ借りてるような顧問が来て俺に衝撃的な発言を残して去ってった。
顧問「ん〜、次の試合後1人出すやつ迷ってたが……
天、お前でいっか。」
天 「っ!」
ひかる「えっ………」
天が喜んでる姿を見るのは嬉しいし、確かに教えたらすんなり上手にはなったけど……やっぱり悔しい。
俺の方が頑張ってたのに、俺の方が練習たくさんしてたのに、俺の方が……俺の方が……。
こう言う時に俺はよく天に手柄を横取りされる。テストだって小学校の時から高いのは俺の方だったのに、たまに天が高い点数取ってきただけでお母さんとお父さんは天の方を褒め倒していた。当たり前のように90点台を取ってくる俺なんかに目もくれず。
弓だって先に俺がやり始めてから天がやり始めた。全部全部、俺がたくさん練習で試行錯誤して見つけてきたコツを、天に教えて天は習得していっただけで1人じゃなんも出来なかったくせに。
なんで末っ子はこうも甘やかされるんだよ、末っ子はなにかえらいことしたのかよ。……末っ子が生まれた時点で俺ら上の子はオワコンなのかよ。
田村「ひぃちゃん…?」
ひかる「………帰る、」
気分が良くなかった。まるで俺の努力は一定数の人には見えないみたい。いっそのことそうだったらいいのに。だったら俺もこんなにつらくないのに。
目から出て行くものを誰にも悟られないように、平然を装っていたんだけどそれも校門を出たあたりから効かなくなって子供のように泣き喚きながら帰った。
ー家ー
お母さんも買い物に行っているのか、珍しく家に1人だった。
今の俺には似合っているような、薄暗くて静寂した家が俺の冷静さを取り戻して行く。
家に帰ってきて何分くらい経ったんだろうか。
ドアの方で音がして目をやると天が明るい表情をして帰ってきた。
天 「ひかる〜!よかったぁ〜試合出れるの嬉しい〜」
ひかる「ぁ、うん。よかったね……」
天 「全部ひかるのおかげだ〜。世界一の兄!」
……本当にそう思ってるなら、試合に出る権利くれよ。
危うく口からこぼれそうになった。
努力しても努力しても実らない俺に比べて大した努力もしてないのに、どうしてお前は評価されるんだ。いつもいつも、なんでちょっとばかり頑張ったお前にいつも頑張ってる俺の影が霞まされなければならないんだ。
誰も褒めてくれないじゃん。気づいてくれないじゃん。認めてくれないじゃん。見てくれないじゃん。
俺のことなんて。お前のせいで。
はらわたが煮えくりかえる思いが無性に込み上げてきて、気づいたら天の首をガシッと掴み壁に叩きつけていた。
天 「ぅっ、ひかる…、離せ、」
ひかる「……。」
何も感じなくなればなるほど手には力が入っていって、ギューっと手の中の首を絞めていく。
天 「ハァ、死ぬ………」
嘘。大袈裟だ。そんなに強くしてない。確かに掴んではいるけど呼吸に支障が出るほどじゃない。お前は前からそう言うやつだ。
大袈裟な反応をすれば大人がみんな寄ってたかってお前の元に駆け寄るから。ちやほやされるから。味方が大勢つくから。俺が怒られる羽目になってお前は怒られなくなるから。
周りも周りだよ、なんでこんなに天ばかり甘やかすんだ。俺が何か悪いことでもしましたか。そうやって周りが甘やかすからどんどんこいつはダメなやつになっていくんだ。なんでわからないんだ。ちゃんと怒れよ。怒鳴れよ。反省させろよ。甘やかすなよ。
由依「っ!ちょっとひかる!何してんの!離しなさい!」
買い物から帰ってきたお母さんが天の首を掴む俺の手の上に、優しくて白い手を重ねる。そんな甘ったるいもんで離すわけないじゃん、どれだけ俺が怒ってるか母さん知らないよね。
ほらね、また天を助けるための人が増えて俺を庇う人が減る。1人でも俺の立場についてくれる大人がいればいいのに。俺だって辛いことはあるのに。どうして天ばかり…
後本当に少しで天の呼吸器官に負荷をかけるところで手を離した。本当は呼吸困難にでもなってほしかった。殺したかった。殺そうと思った。殺せなかった。自分が無惨だった。愚かだった。
……お母さんに「ひかるも辛かったんだよね」って言ってほしかった。
そのまま自分の部屋に入って鍵を閉めた。この世界と繋がる手段を一旦全て遮断してしまいたい。1人になりたい。
由依side
買い物から帰ると、何やら天の苦しそうな声がリビングから聞こえてきて何事だと思ったらひかるが天の首を絞めていた。
ひかるの目は光を失い、まるで機械かのようなただひたすらに真っ直ぐ天を見ては手に力を入れていた。
どうしてこうなったのか私にはわからないけれど、やっぱり普段あれだけ温厚なひかるがここまで狂気的な振る舞いをするのだから余程のことがあったのだろう。
2階に上がって行ってしまったひかるの後を目で追っては、心配が募って行く。昔から1人で溜め込むような子だったから。人一倍、私と理佐を喜ばせるのが好きだった子だから。私たちが天を構っていると悲しそうな顔をする子だから。
買い物袋の中に入っているひかるの好物の食材たちも今日はなんだかやる気がないように見えて、カレーにするつもりだったけど結局肉じゃがにしてしまった。
2人が寝た夜、家事もひと段落してソファーに座ると思わずため息が出た。
由依「はぁ……」
理佐「…お疲れ様。」
由依「ぁ、ありがとう」
紅茶を持ってきてくれた理佐にお礼を言うけど、飲む気にならなくて眺めるだけ。
理佐「天とひかるが喧嘩したって?」
由依「うん…。私が見つけた時にはもう山場でさ、ひかる
そこから自分の部屋に立て籠っちゃった…」
理佐「……ふふ、由依、自分が悪いとでも思ってるんだ。」
由依「悪いっていうか、…もっとひかるのこと気にしてあげれ
ばよかったかなって、」
小さい時から私たちはなにかと天の方に目をやりがちなところがあったのを、自覚していた。その間、ずっとひかるが何かに耐えていたのもなんとなく分かっていた。
理佐「由依が言うならそうなのかもね。」
由依「ぇ?」
理佐「2人のこと1番見てるのは由依だから。」
そう理佐に優しく微笑みながら言われて、また可哀想なことをひかるにはしてしまったと思う。気づいてたのに、庇ってあげられなかった…。
理佐「…まぁでも、いい経験になるさ。兄弟ってそんなもんだ
と思うよ。」
由依「うん、」
理佐「…危ないことはしてほしくないけど、擦り傷くらいの
ことなら沢山経験させてあげた方がいい。
大丈夫。そう簡単になくなってしまうほど脆い絆じゃ
ないよ。」
肩を抱かれて頭を理佐の方へ傾けると、思わず涙が頬を伝った。若くして親になった私たちには知らないこと、どうしようもないことが多すぎると肌で感じたから。
他の子の親御さんと、経験の差がありすぎるってこう言うことなのかって現実を知らしめられた気がしたから。
理佐「……俺らなりにできるだけのことをしてあげればいいさ
。」
私の心を読んだのかそう言ってきた。、いやそうじゃない。本当は理佐も不安なんだ。私と同じ思いを感じているんだ。頭の上で鼻を啜る音が聞こえてきて、理佐も少しは強くなったなと感じた。
ー試合当日ー
ひかるside
天が緊張しながらも楽しそうな声で「いってきます」と言ったのを合図にしんとする家。俺は行きたくなかったから、あえて朝起きてもリビングには顔を出さなかった。
あの日からの言うもの、あからさまに「怒ってます」アピールをしてきたつもりだけど怒ってもなんにもならなかった。
ただ悔しさが日に日に増えて行くだけで、悔しくて怒って怒って限界がきて涙が出てくるだけだった。
ベッドの上で膝を抱えて行き場のない感情をどうしようか迷っていると静かに扉が開いた。
由依「……ひかる。」
そう優しく包み込むような声で俺を呼んだお母さんは、眉毛を下げて酷く優しい顔をしていた。
由依「天、お父さんと出発したよ。」
ひかる「……知らないよ。」
知りたくないからわざと聞かないふりしてたのに、どうしてわざわざ言ってくるの。お母さんにまで怒りが湧いて、腹の底でフツフツとしてくる中で思いもよらない言葉が飛んできた。
由依「ひかるの方が、上手なのにね。」
ひかる「ぇ…、?」
由依「思ってたんじゃないの?『天なんか』とか。」
ひかる「っ、」
由依「…ふふ、当たりの顔だ。」
「ひかるの方が上手なのに」ほしかった言葉であったし、言われることのない言葉だったはずなのに。お母さんの口からサラッとその言葉が出た瞬間、嬉しくて嬉しくてその嬉しさがつらくて涙が滲む。
由依「…天はさ、褒めないと伸びないタイプでしょう?
だからみんな天の方ばかり褒めるのよ。貴方は偉い子だ から、後回しにしちゃうの。何も言わないでもやってく
れるから。
_____だけどさ、実は貴方の方が辛いこともあるよね」
日の目を浴びないタイプだと思っていた。ずっと。
誰も見てないと思ってた。最初から。褒められることじゃないのかもと思ってた。どこかで。
長年我慢してきた核心に触れられてやっと楽になれた気がした。
由依「偉いよ。ひかる。」
ひかる「っ、うっ……グスッ、グスッ…」
由依「ふふ、ごめんね。」
優しく抱きしめてくれるお母さんの身体がやけに大きく感じて、心のストッパーが外れてわんわん泣いた。その間中ずっと背中を摩ったり頭を撫でてくれるお母さんに、やっぱり家族っていいなって思った。
そして、俺が落ち着いたときお母さんはどこからか弓を持ってきて俺にわたした。
ひかる「え、…」
由依「お母さんが使ってたんだ。元々ひとつしかなかったから
どっちにあげるか迷ったんだけど、ひかるにあげる。」
色々と衝撃的だった。お母さんが弓をやっていたこと。お母さんの弓が案外重かったこと。俺にくれること。
由依「…天にはさ、好きなだけ表舞台立たせてあげたらいい
のよ。それだけで満足するから。……ひかるは大変な役 回りだけど、絶対誰かがひかるの努力を見ててくれてる はずだから。少なからず私が見てるからね。」
誰かに見ててもらえる。こんなにも嬉しいことだっけ。
今までの努力が無駄じゃなかったと思えた。ここまでの道が長かった。
お母さんの弓は本当にお母さんらしさが滲み出ていて、自分の弓よりも何倍も魅力的に見えた。そんなマジマジと見つめる俺を静かで優しい笑顔で見守ってくれてるお母さんに思う。
俺、お母さんの子でよかった。
fin
お読みいただきありがとうございました!
1週間ぶりくらいですね。ご無沙汰していました。あいも変わらず忙しい毎日を送っています。
今回のお話どうでしたでしょうか。途中からゴールが見えなくてよくわからないお話になってしまったような気がしています。やっぱり期間開くと鈍りますね。
今回のお話、弟や妹がいる人が多く通る道なのではないでしょうか。やっぱり日の目を浴びないことって結構堪えますよね。
ひかるさんの気持ちに少しでも共感してもらえるような物語になっていたら嬉しいです✨
リクエストしていただいた方々には申し訳ないです🙇♂️
そしてフォロワー様が950名を突破いたしました!
そんなにも支えてくださる方がいてとても恐縮な限りです。
拙く、つまらない文章しか提供できないことを申し訳なく思います。
そんなフォロワー様をがっかりさせてしまわないように、これからも頑張って参ります!
こんな頼りなくしがない書き手ですが今後ともよろしくおねがいします。それでは、おっす。