※リクエスト作品になります。



由依side


今日も体育かぁ。横黒板に雑な字で書かれたその文字をみてげんなりする。インドア派な私にとって外で身体を動かすのは良い機会だけど、やっぱり静かに過ごす方が断然称に合っていると思う。

せめて気持ちいいくらいの快晴なら少しはやる気になれるのに、どうしてこうどちらとも言えないような曇り空なんだろうか。文句を言ったって仕方ない相手に、文句を言う。

そうしていると胸の方へ違和感を感じる。この違和感は間違いない、あいつだ。


由依「理佐!やめてよね!いつもいつも!」
理佐「ひひっ。由依の触らないと落ち着かなくてさぁ〜」
由依「本当にそろそろ嫌いになるよっ…」


私が机に肘をついていると後ろからサワサワと胸を触って来る理佐。私がいくら怒っても懲りないような感じで毎日触ってきては、私を困らせる始末。

正直言って女子校ではあるあるの光景だし、私も別に理佐にならいいかなと思う節がある。きっとそれが良くなくて、本気で注意できてないのだろうけど。


理佐「今日の体育、準備体操2人1組なんだって!」
由依「ふーん。」
理佐「一緒にやらない?」
由依「毎日毎日胸揉んでくるような変態と誰が準備体操なんか
   するのよ、全く。」
理佐「んぅ、それとこれとは関係ない!」
由依「関係あるから!邪魔だよ、理佐。どいて。」


私の身体の周りをくっついて動く理佐がなんとも鬱陶しくて強めに怒ると少しシュンとしてしまう。この顔に私は弱くて、いつまで経ってもキツく叱ることができない。

……どうしてこう理佐にだけは特別扱いしてしまうのだろうか。



ー体育の授業ー



先生「それでは準備体操をするので2人1組になってください」


結局あの後、パラパラ雨が降ってきてしまって体育館でやることになった体育。先生がそう呼びかけるとすぐに私の元へ走ってきて腕を組んでくる理佐。


由依「ちょっ……」
理佐「ん?どうしたの?」
由依「腕組む必要ないでしょ!離して」
理佐「いいじゃん別に。」


クラスの中でも中心的存在な理佐と、どちらかといえば端っこの席で1人で休憩時間を潰すような私。なんの手違いで仲良くなってしまったのか…。

理佐のテンションは高いし、私からしたら一緒にいると疲れてしまう。ボディタッチも多いし我儘で何かと手を焼く子だ。ぶっちゃけ一緒にいたくはない。

……きっと周りの人たちから吊り合ってないと思われちゃうだろうし。


先生「じゃあみんなできましたか?それでは、まず背中同士を
   合わせて両腕を組み合わせてみましょう」


私が指示を聞いている間に、この隣の人はウキウキした感じを隠せずに背中をくっつけてきて腕を組み、私の胸を反らせてくる。


由依「ぉわっ!?」
理佐「ぎゅ〜♪ふふ、由依は軽いね〜」
由依「急に危ないことしないでよ…、」
理佐「ごめんごめん♪ほら!次は由依が私のこと背負ってよ!
   」


背中をつけているから理佐の動きや体温が伝わってくる。何でだろう、なんか、その……ドキドキする、


理佐「由依ー?」
由依「ぁ、ごめん。、」


理佐と両腕を組み、私が前屈するような姿勢で理佐を背負う。私よりも身長の高い理佐を背負うのはなかなか難しくて一生懸命やるんだけど上手くいかない。


理佐「由依〜、もっと〜」
由依「わかってるってば!ちょっと黙ってて!」
理佐「おっ!ちょっと浮いた!浮いた!」


背中の上で動かれるもんだからこっちは理佐を落とさないように堪えるのに必死。どうしてこの人が怪我をしないように私が気をつけているのだろうか。

他人だから迷惑かけると思って?いや、こっちの方が何倍も迷惑被ってますけど…。痛い思いさせると可哀想だから?寧ろ一回痛い思いをさせて懲らしめた方がいいのではないか。

色んな憶測が飛び交うけど、その中に答えがないことを私は知っている。だって自分ではわかっているから、これがどう言う感情なのかなんて。

だけど気づいてはいけない。向こうが知ったら迷惑だろうし、何より世間が許してくれないだろう。だから私は気づかないふりをするのが正解なのだ。


憂鬱な体育の授業がやっと終わり、教室で着替えていると理佐が抱きついてくる。


由依「…ねぇ、本当に邪魔、」
理佐「へへんっ♪」


私史上最も怖い声で怒ったはずなのに、この人は懲りずに体育着の中へ手を入れてくる。いつも服の上から触られているけどここまでされるとやっぱり異常だと思って突き放そうと理佐の肩を押す。


由依「ちょっと理佐…!!やめてって…!」


力の強さで非力な私が理佐に勝てるわけもなく、やられたい放題になってしまう。むにむにと触られているうちに背中の方が急に開放的になるのを感じる。

流石に怒った私は理佐の頭を思いっきり叩いた。


ペチンッ‼︎
理佐「いたっ…!」
由依「あんまり調子に乗んないで!そもそもなんでいつも
   触ってくんのよ!!」


大声を荒げすぎたか、慣れない注目を浴びる。すると学級委員長の菅井さんがちょっと怒ったような顔で近づいてきて、理佐の首元の後ろを鷲掴みにする。


理佐「わぁー!?」
菅井「理佐!!なんでいつもゆいぽんの嫌がることするの!
   ほどほどにってあれだけ言ったよね?」
理佐「ん〜、だってぇ〜…」
菅井「だってじゃありません!ちょっとこっちに来なさい!」
理佐「あぁっ、待って友香…、んぅ由依〜助けて〜」
菅井「助けてじゃありません!大人しくしなさい!」


菅井さんに連れられて、後ろ歩きのままどこかへ行ってしまう理佐。菅井さんに怒られている間も甘えたな声を出して全く懲りる様子が見えない。

はぁ、とりあえず着替えるか、そう思って理佐に外されたホックをまた止めていると次は副委員長の守屋さんが私の方へとくる。


守屋「ゆいぽん大丈夫?すごい怒ってたけど」
由依「ぁ、うん。大丈夫。ありがとう」
守屋「……理佐も不器用すぎるだけだから許してあげてね?」
由依「?、はい…」


守屋さんに言われた意味がよくわからなかった。確かに私は怒ったけど、そんなに根に持っているわけじゃない。理佐が不器用なのも知っているし、もう許している。

守屋さんは私の肩をポンポンと2回軽く叩いた後、また自分の席へと戻って行った。私もジャージから制服へ着替えてまた次の退屈へと備える。

しばらくしたら菅井さんに手を引かれて理佐も戻ってきたけれど、俯いて泣いてはないみたいだけど拗ねているようだった。元気のない理佐は私は初めて見るあまり、後ろを向く。


由依「理佐、怒ってごめん…。そんなに落ち込ませるつもり
   なかったんだ。」
理佐「…。」


机に座るや否や顔を伏せてしまう理佐に悲しみを感じる。理佐に嫌われたかな…。だとしたら嫌、かも…。

返事をくれない理佐を残して前を向くと丁度先生が入ってきて授業が始まる。いつもの関係ない前置き話をしている間、私はずっと考える。

ずっと構われて「イヤイヤ」って言ってたのに、何にも返事してくれなくなったら今度は悲しいだなんて、私は何がしたいのだろう。超絶めんどくさい奴だ。だけど、理佐からされて嫌がる気持ちと無視されて悲しく思う気持ちを天秤にかけた時に、無視される方がよっぽど辛いものだと今身に染みて感じている。

先生が板書をし始めて必然的にみんなノートを開く。理佐はきっと板書してないだろうから、起きたら見せられるようにちゃんととっておこうなんて、理佐が私に「ノート見せて」って言ってくる根拠もないのに思ってしまうのは何故。

つまらない文字の羅列を書くのに飽きた私の手が、日付の上の空白にペンを走らせる。


_____渡邉理佐。



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授業が終わってトイレから帰り、教科書を片付けようとすると付箋が貼ってあるのに気づいた。

「放課後少し時間ください。 渡邉」

口で言ってくれたらいいのに。なんだか理佐と喋る権利も剥奪されてしまったような気がして距離を感じる。

また出た「悲しい」、「寂しい」。

今までは上手く、自分の気持ちに蓋をして気づかないふりできていたのにどうしてできなくなってしまったの…?


ー放課後ー


帰りのホームルームが終わって教室に残っているとどこかへ行っていた理佐が入ってくる。


由依「理佐、どうしたの?」


どこか浮かない表情をして私と目を合わせる理佐。いつ見ても綺麗な顔だと思う。自分の席に座って理佐の言葉を待っていると、小さく弱く理佐がつぶやいた。


理佐「ごめんなさぃ…」
由依「え?」
理佐「ごめんなさい。嫌なこといっぱいして…」
由依「……まぁ、別にいいよ。」
理佐「私、由依が好きでさ、どうやって接したらいいか
   わかんなくなっちゃって…。」


私のことが好き、はっきりそう言った理佐は悲しそうな表情をしていた。理佐のいう好きはどの好きかわからないからなんとも言えないけど、やっぱりどの好きでも嬉しいと思った。

そして、理佐が自分の本音を打ち明けたのを鍵にずっと胸に秘めていた私の思いも溢れ始める。


由依「……好きだよ。私も。」
理佐「ぇ…?」
由依「理佐が好きだから、胸触られても本気で嫌ではなかった
   んだ、本当は。」
理佐「……同情なら、やめて、惨めに感じる」
由依「同情じゃないってば。私は理佐が好き。」


未だ私の机の前に立っている理佐を見上げてそういう。そう。理佐が好き。どうしようもなく理佐が好き。友達としても、人間としても、鬱陶しくても、恋愛対象としても…

_____理佐が好き。これだけは曲げたくない。

私が言うと、理佐は大きな目を見開いて固まっている。まだ信じきれないとでも言うような表情をしているから仕方なく私は椅子から少し腰を上げて机から身を乗り出す。理佐が私の机についていた手と私が乗り出した手が重なる。


理佐「っ…」
由依「っ、」


夕焼け色に包まれる教室で、私たちは互いの好きを交わした。


由依「……これ、私の好きは。」
理佐「コクン…私も、」
由依「ふふふ、そんな不思議そうな顔しないで。」
理佐「ごめん、なんか信じられなくて…」


由依「…ねぇ、理佐。」
理佐「ん?」
由依「今度は理佐が言ってよ。」
理佐「え、?」
由依「ほら、まだ言うことあるでしょ…!」




理佐「……由依、好きです。付き合ってください。」




由依「……おっそいわ、アホ、





   幸せにしてくれないと一生許さないから」






fin




お読みいただきありがとうございました!
なんか、色々書き足していたら遅くなってしまいました、

1ヶ月前にマシュマロでもらっていたリクエストを2つ組み合わせてみたのですがいかがでしたでしょうか…。

リクエストしてくださった方、ありがとうございました!
それでは、おっす。