『光蘚』から見るベボベの輝き方 | 音楽(主に邦楽)について書いてます。バンド、アイドルなど。
 光蘚(ヒカリゴケ)はコケ植物の一種であり光を屈折させることで緑色に発光する。地面にへばりつき綺麗な花を咲かすことが出来ず、でも美しく輝くこの植物が題目となったBaseBallBearの楽曲『光蘚』について書いてみる。この曲が発表されたのは2013年であり「今更感」が拭えないが楽曲レビューを初めて書くにあたり、堀りがいのある好きな曲ということでこの題材となった。

この楽曲はZEXCSにて製作されたテレビアニメ「悪の華」の企画、コンセプトEPのボーナストラックとして製作された。(2013/06/26発売)原作は別冊少年マガジンにて連載されており主人公がクラスの美少女や超級問題児と対峙しながら自己の存在意義を問いていくストーリーになっている。過激な表現が多く鬱々とした作品だ。

作品に沿って制作をしていたが自分と重なるところがあり私小説チャンネルを振り切ったという。小出(Vo&Gt)の思想の深部まで突っ切った楽曲となった。 

『光蘚』はこれまでのBaseBallBearには無かったシューゲイザー、サイケロックなサウンドだ。コーラスディレイの効いた小出のギターから始まる。この物々しい雰囲気で「君」に強い羨望と劣等感を抱く「僕」について描かれている。

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君が待つあの丘には行けない行けないどうしても
君のその笑顔をどうしても引き裂きたくなる
そうだ這いつくばって輝くしかないから
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望むべき地へと行ってしまえば、きみを食らう事になる。だから地面にへばりつき、ヒカリゴケの様に輝くんだ。

『悪の華』の主人公春日も物語りの最後、共に死ぬ事を計画したが大人達に阻まれ以来疎遠だった仲村に会いに行く。普通の人間に成り下がった自分に彼女は失望するかもしれないと、また過去を振り返る恐怖と戦いながらも周囲に助けられ自らを奮い立たせた。そんなラストシーンを思い立たせる歌詞だ。

また小出自身の売れる事への憧れと、自分の今の立ち位置とやるべき、自分にしか出来ない使命との狭間で揺れる気持ちも同時に描かれていると思うと鳥肌がたった。

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君がいて僕がいるただそれだけが赦せない
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君が消したい過去を証明する存在だったらとてもじゃないが赦せないと思う。
まさに春日と仲村の関係でありこの一文こそが漫画『悪の華』の本質ではないかと思う。

またこの一文は近年のフェス界隈とベボベの関係も表しているのではないかと思う。定番となった「早目のBPMと4つ打ち」の先駆けとなった初期ベボベサウンド。当時主流では無かったため意義が見出せたが今では似たサウンドが往来している。過去の自分によって埋もれていく今の自分を表すこともこの歌詞では出来るのではないだろうか。(この投げかけはAL二十九歳収録の魔王にて決意が表明されている)


9分49秒という長尺となったこの曲。多くの決意と投げ掛けを含み、ディープな小出節が味わえる。ロジックで比喩表現を得意とする彼のリリックは分量が増えるほど味わいが増すのではないだろうか。


この楽曲が収録された5th AL『二十九歳』(2014/06/04発表)と6th AL『C2』でベボベはギターロックをネクストフェーズへと押し上げた。メンバー脱退から自身最長のツアーを経てリリースされるNew AL『光源』は奇しくも「光」がテーマとなっている。

「光りたい」と歌っていた小出、ひいてBaseBallBearは結成16年目、どのように輝いていくのだろうか。