刑事コロンボ

#15『溶ける糸』

[A STITCH IN CRIME]

(1973年2月11日放送)アメリカ

(1973年10月28日放送)日本

 

 

 

<あらすじ>

心臓移植の権威エドモンド・ハイデマン博士(ウィル・ギア)が、持病の心臓病の発作を起こした。博士の主治医で共同研究者でもあるバリー・メイフィールド(レナード・ニモイ)は、功績の一人占めを目論み、その手術中に数日経ってから急死するように溶ける糸で心臓弁を縫合する。しかし、博士を慕う看護師のシャロン・マーティン(アン・フランシス)が彼の計画に気づいたため、メイフィールドは彼女を撲殺。麻薬中毒患者の犯行に偽装した――。

 

<スタッフ>

監督 ハイ・アヴァバック

脚本 シャール・ヘンドリックス

ストーリー監修 ジャクソン・ギリス

制作 ディーン・ハーグローヴ

音楽 ビリー・ゴールデンバーグ

撮影 ハリー・ウォルフ

編集 ロバート・L・キンブル

 

<キャスト>

ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部

レナード・ニモイ(バリー・メイフィールド)心臓外科医

アン・フランシス(シャロン・マーティン)看護師

ウィル・ギア(エドモンド・ハイデマン博士)心臓外科医

ニタ・タルボット(マーシャ・ダルトン)シャロンのルームメイト、看護師

ジャレッド・マーティン(ハリー・アレギザンダー)麻薬中毒患者

ヴィクター・ミラン(フローレス)刑事

アニタ・コルシオ(モーガン)看護師

 

感想

今回対決する相手は

心臓外科医メイフィールド。

自身の名声のために

共同研究者の博士を

主治医の立場を利用して

心臓弁に溶ける糸を使い

時限式の殺人を仕掛ける。

しかしその計画に気づいた

看護師がいたので口を封じて

麻薬中毒患者の犯行に偽装した。

 

『スタートレック』のミスター・スポックを演じた

レナード・ニモイが犯人役というだけで

ちょっとした特別感がある。

シリーズで初めて

「職業利用の犯罪」トリックが登場した。

(その職業でないと不可能な犯罪)

 

『死の方程式』に出たアン・フランシスが

被害者役で再登場。

そのルームメイトの看護師マーシャは

自分は自己中で

シャロンは利他主義で

みたいな話を延々と繰り返す

ちょっと変な感じの面白い子だった。

 

コロンボは登場時から寝不足。

胃腸がおかしくなったり

くしゃみが止まらなくなったり

頭が回らない様子だったが

しっかりメイフィールドを犯人と疑い

人の命がかかっているので

最後はやや強引に証拠を掴もうとする。

机に物を叩きつけて

「あんたがシャロンを殺したと思ってる!」と

感情を爆発させる一面も見られた。

『二枚のドガの絵』と同じ監督で

犯人に決定的な証拠を突きつけた瞬間、

「鮮やかな結末」で終わる。

 

ラスト1分までコロンボに

尻尾を掴ませない強敵だったが、

個人的には伏線が物足りず

犯行トリックが杜撰で

クロロフォルム問題もあり

動機がボヤけすぎて

決め手も納得がいかず

(ネタバレで解説します)

世間の評価よりも

意外に面白くなかったかなぁ……。

ドラマ重視かトリック重視かで

賛否分かれそうな作品。

 

☆☆☆☆☆ 犯人の意外性

★★☆☆☆ 犯行トリック

★★★☆☆ 物語の面白さ

☆☆☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★★☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 7点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

エドモンド・ハイデマン ---●バリー・メイフィールド ---名声【心臓発作・未遂:溶ける糸】

シャロン・マーティン ---●バリー・メイフィールド ---口封じ【撲殺:タイヤレンチ】

ハリー・アレギザンダー ---●バリー・メイフィールド ---殺人のための殺人【転落死?:モルヒネ→階段】

※①の犯行は未遂。警察にかぎつけられて、再手術の際に溶ける糸を丈夫な糸に取り替えた。

※③は生死不明。

 

<結末>

メイフィールドは麻薬中毒患者の

ハリーにシャロン殺しの罪を被せようとしたが

コロンボはメイフィールドに疑惑を向けてくる。

しかも溶ける糸のことまで辿り着いていた。

 

ハイデマン博士が死んだら

司法解剖で調べて溶ける糸を証拠に

メイフィールドを逮捕すると宣言。

メイフィールドはハイデマン博士の食事に

薬を盛って具合を悪くさせて

再手術の際に溶ける糸を取り出し

通常の丈夫な糸に取り替えた。

 

しかしその手術直後に

コロンボが入って来て

メイフィールドから

抜いた糸を取り上げようと

徹底的に調べたがどこにも持っていない。

 

落胆するコロンボだが

ふとメイフィールドらしからぬ

感情を爆発させた瞬間を思い出し

その時にコロンボの手術着のポケットに

メイフィールドが触ったことに気づいた。

「先生、ご立派」

手術着のポケットを探ると

証拠の糸が出て来た――。

 

トリック解説

メイフィールドの使った

メインの「犯行トリック」

ハイデマン博士を殺すために仕掛けた

溶ける糸で心臓弁の縫合をすること。

これは手術を担当した

心臓外科医という職業でしか

成立しない殺害方法だ。

 

手術の後で

糸が溶けたら縫合部分が開き

出血によって死に至る。

いわば死の時限爆弾をセットしたようなもの。

(第1の殺人、だが未遂で終わる)

 

殺人の動機は――

メイフィールドはハイデマン博士と

共同で心臓移植の研究をしている。

移植の拒絶反応を抑える薬を開発中で

先に発表しないと特許が取れない。

ライバルに先を越されたくなくて

早く成果を発表したいメイフィールドに対し

まだ試験期間がいると

ハイデマン博士は慎重だった。

説得するが無理だったため殺害を決意。

 

博士が死ねば研究成果を一人占めできる。

自分の名声のために犯行に及んだが

この計画に気づいた人物がいた。

ハイデマン博士を慕う看護師のシャロンだ。

メイフィールドが手術を行うから

わざと殺すかもしれないと疑って

手術の様子を観察していた。

何も不審なところはなかったが

落ちていた糸を拾い上げたら

手術用に自分が持ってきた

丈夫な糸とは手触りが違う。

 

メイフィールドに聞いても

はぐらかされたので

糸の提供会社に

直接聞いてみようと思った。

その夜にメイフィールドは

駐車場で待ち伏せて

シャロンを撲殺して家の鍵を奪う。

(第2の殺人)

 

シャロンは別の病院で働く

看護師マーシャと同居していて、

彼女の留守中に家に侵入して

モルヒネの瓶を隠しておいた。

シャロンが過去に麻薬中毒患者の

ハリー・アレギザンダーという男と

親しかったので、

彼が麻薬を要求したが断られた怒りで

犯行に及んだように見せかける。

 

警察が彼を調べたが

最近はシャロンに会っていない。

証拠を捏造するために

メイフィールドはハリーのアパートに行き

帰って来たところを襲い、

クロロフォルムで気絶させて

モルヒネを注射した。

やがて意識を取り戻したハリーは

朦朧とした状態で

階段を降りようとして転落した。

(第3の殺人ではあるが生死は不明)

 

最も優れた犯行トリックは

「意外な隠し方トリック」

手術室にコロンボが踏み込んで来た時

メイフィールドは抜いた糸を

絶対に捜索されない場所に

隠さなくてはいけなくなった。

そこで怒った芝居をして

コロンボを押した際に

コロンボの手術着のポケットに

糸を隠したのだ。

 


 

コロンボが犯人を自白させるために

犯人に仕掛けた

「逆トリック」を分析します。

 

「溶ける糸」をハイデマン博士の

心臓の手術に使ったことを突き止めたが

もう1度手術を行って

メイフィールド自身で

糸を取り出させる必要があった。

(他の人が手術をすることは

困難な状況だったので)

 

当然メイフィールドは抜いた糸を

隠そうとするだろう。

その現場を押さえれば

隠そうとした行動と合わせて

確かな証拠になる。

 

ハイデマン博士が死んだら

司法解剖で全てわかると

机を叩く迫真の演技で

メイフィールドを追い詰める。

コロンボの読み通り再手術になり

手術直後のメイフィールドを取り調べたが

どこにも抜いた糸が見つからなかった。

これはコロンボも誤算。

どこかにメイフィールドは

糸を隠したはずだが……。

 

落胆して部屋を出たコロンボは

ふと違和感に気づく。

手術室であれだけ声を荒げて

怒っていたメイフィールドが

最後の会話で急に冷静に戻った。

思い返すとメイフィールドが

感情を露わにしたのはあの1度だけで

常に冷静に笑っていた。

 

メイフィールドが怒ってつかみかかった時

コロンボは腹部を押された記憶があった。

もしやあの時に?

そう思って急いで部屋に戻り

手術着のポケットを探ると

予想通り「溶ける糸」が出て来て

メイフィールドを逮捕する。

――という終わり方。

 

しかし、実はここが

納得いかないポイントでもあります。

 

コロンボのポケットに

抜いた糸を入れたわけですが

そのチャンスは1度しかない。

メイフィールドが

「そんな芝居に付き合えるか!」と

コロンボを押した場面だけだ。

それ以外にコロンボに接触していない。

 

その場面をスローで何度も確認したが

メイフィールドはポケットに手を入れず

コロンボの脇腹付近を押しただけです。

位置としてはポケットの上の辺りですが

まず手を入れていないので確実性が無い。

この位置で糸を離して

うまくポケットに滑り落ちるか?

体内から取り出した糸なので

変なところにくっついたりしない?

 

さらにもう1つ問題があって

これをするためには

左手に糸を持っていないといけない。

しかし左手はマスクを持っていて

直前の流れから見直して見ても

糸を握っているようには見えない。

ずっと左手の掌か小指の裏に隠して

握っていたことにしないと不可能。

何度も映像を確認しましたが

糸は映っていませんでした。

 

比較してしまうけど

『ロンドンの傘』では実際に飛んでいった

ネックレスの珠は肉眼では見えない。

雰囲気でそう見せているだけ。

しかしこちらは珠を飛ばした瞬間が

①不可能に見えなかったことと

②館長の「触った者は1人もいません」の

フォローが絶妙すぎたので俺的にOK。

 

『溶ける糸』は好意的にフォローしても

物理的に不可能に見えるし、

コロンボを押した後も

左手はマスクを持っています。

どうやってマスクを落とさずに

糸だけ器用にポケットに

入れることができるのでしょうか?

 

いやぁミステリマニアなんて因果な商売で

つまらんことが頭にこびりついて

夜も眠れんのですよ~。

雰囲気で入れたように見せるにしても

想像できる可能性を与えて欲しかった。

そして糸も体内から取り出したとは

思えないほどしっかり乾燥していて

しかも異常な長さ(笑)

 

フィクションだから

多少の嘘は目を瞑りたいですが

つっこみどころが多過ぎます。

小説なら想像でカバーできるが

映像だと嘘は嘘とわかってしまう。

だからこれは俺の中では

納得できない「決め手」でした。

 


 

犯人がミスをしたり

コロンボが些細な嘘を見抜く

「発覚トリック」をピックアップ。

 

①看護師シャロンが死んだと

電話で聞いている話の最中、

時計の針が狂っていることに

気づいたメイフィールドが

針を直しているところを

コロンボに見られる。

知り合いの看護師が死んだと聞いた直後なのに、冷静に時計の針を直していたことをコロンボに指摘される。メイフィールドは意識せずに出た癖だと弁解した。コロンボは「先生は名医ですなぁ」とおだてているが、すでにロックオンされています。針を直していたわけじゃなくて動揺して手近にある物を触ってしまったという言い訳はどう?

 

②シャロンのアパートの台所の

排水管にモルヒネの瓶が隠してあった。

麻薬中毒者がシャロンから

モルヒネを受け取っていたが

我慢できなくなって

襲ってしまったように見える。

しかし凶器にも

荒らした部屋の中にも

指紋が全く出てこなかった。

麻薬欲しさに犯行に及ぶ中毒患者なら禁断症状が出ているはず。それにしては指紋をつけない冷静さは矛盾している。

 

③マーシャから

シャロンの元患者の

ハリー・アレギザンダーを

当たってみたらどうかと言われて

詳しく聞いてみたら

メイフィールドがその名前を出して

マーシャからコロンボに伝わるように

仕向けていたことがわかる。

コロンボはメイフィールドが「忘れず警察に話すんだよ」と言っていたのを聞いているのでメイフィールドの入れ知恵なのは知っている。彼が第三者に嫌疑を向けようとしているのは明らかだ。

 

④ハリーがモルヒネを打って

幻覚の症状のまま歩き階段を落ちた。

しかしコロンボは彼が

自分で注射したわけでは無いと言う。

昨日会った時にハリーは

左手でタバコを吸っていたから左利き、

しかし注射の針痕は左腕にある。

利き腕じゃない右手で

注射を打つのはおかしい。

メイフィールドの犯行。ハリーが左利きかどうか知らなかったのもあるが、利き腕のことまで気にしていなかったはず。

 

⑤シャロンが会おうとした

「MAC」は医療用具の会社

「マーカス・アンド・カールソン」だった。

その会社が納品しているのが「糸」で

「丈夫な糸」と「溶解する糸」がある。

もしも心臓の弁に溶ける糸を使ったら数日のうちに死亡するだろう。ハイデマン博士の術後にシャロンはひどく焦っていた。MACの科学者に会う予定もあった。だとすればメイフィールドは溶ける糸を使って手術をした可能性がある。この糸が「決め手」になり、再手術で取り出した瞬間を押さえて、糸を見つけてメイフィールドの犯行を証明した。

 

 

伏線解説(★は巧妙なもの)

この作品の最も重要な伏線は

犯人のメイフィールドが

【絶対に感情的にならない男】ということ。

コロンボに時計の針を

直したことを指摘されたり、

指紋やモルヒネや溶ける糸の質問、

自分のゴミ箱を漁られたり、

さらにコロンボに

あなたが犯人だと言われても

常に冷静に対応して

決して怒らなかった。

  • メイフィールドは一貫して冷静で感情を表に出さない男として描かれている。

  ↓

しかし再手術後に

コロンボが入って来た時だけ

メイフィールドは怒りを露わにして

コロンボを突き飛ばした。

  • その後の身体検査も素直に応じ、冷静に戻っている。なぜ急に感情的になったのか?この違和感がコロンボに事件解決のヒントを与えた。
  • レナード・ニモイがミスター・スポックという役を演じていたことも感情を表に出さない伏線の補強になっている(らしい)。

 

【ハリーは左利き】

コロンボがハリーを訪ねた場面で

ハリーは左手でマッチを擦り

左手でタバコを挟んでいる。

  • この左利きの情報が後に、左腕に注射の痕がある矛盾に繋がり、自分で注射したのではないことがわかる。

 

欠点や疑問など

  • 「溶ける糸」という邦題は、さすがにネタバレすぎる。
  • ドアに鍵をかけているのに窓の鍵が開いてるのは矛盾。ドアのそばに窓があって窓が開くのは都合良すぎる。
  • ハリー殺しは危険を冒してまでしてやる必要性を感じない。ハリーが転落した時刻のアリバイも無さそう。
  • 多くのミステリー作品がやらかしているクロロフォルム問題。クロロフォルムを吸って瞬時に気絶はしません。医者が犯人なのに……。

     

  • メイフィールドは事件の日に何のパーティーをやっていたの?パーティーにどんな意味があるのかも読めなかった。

  • シャロンが溶ける糸を床から拾い上げたが、大事な糸をそんなところに落とすのは間抜けすぎる。

  • 手術中に目を離すなと言われた男の医者は何を見ていたのか?抜いた糸の行方くらい見ておけよ。

  • メイフィールドは「抜いた古い糸はこれです」とコロンボに「正規の糸」を見せないといけないのでは?抜いた糸がないことがそもそも破綻している。

  • 取り出した糸がもうすでに一部は溶けてちぎれたりしないものだろうか?あんなしっかり元の形を保っていることはありえないと思う。

  • コロンボが「あたしの負けだ」と言って部屋を出て、すぐに戻って来たがその演出の意図が伝わりにくい。1度安心させてメイフィールドにポケットを探らせているところを捕まえたかったのか、部屋を出た瞬間にポケットに気がついたのかわからない。ここの正解を言うと後者で、字幕版では「もう少しでだまされるところだった」とコロンボが慌てている。最後の会話で冷静さを出すことであの感情的になった場面のあやしさを強調しているのだろうが、そもそも手術後にいきなり押しかけて犯人扱いされて身体検査されたら誰だってキレますよ。誰もがキレそうにない場面で、急につかみかかるようにした方がみんなわかりやすかったと思う。

  • 上の前者(1度安心させてポケットを探らせる)の解釈を広げてみよう。実は伏線らしきものがある。メイフィールドはコロンボが部屋を出たらすぐに電話したりモルヒネの瓶を取り出したり殺しに行ったりハイデマン博士の食事に薬を盛って再手術したりと、とにかくすぐ行動する。行動力がすごい。だからラストの対決場面でコロンボが負けを認めて部屋を出たら、すぐにポケットから糸を取り出そうとするはず。それを狙ってコロンボが入って来たが、メイフィールドが動かなかったので「先生、ご立派」と褒めたのだと深読みすることもできる。――が、正解は後者だったので伏線でもなんでもなかった。

  • 『刑事コロンボ完全捜査ブック』に「卓越したプロット、シャープな演出、ノンストップミステリとでも呼ぶべき快速調」とあるが、正直に言って無駄な描写が多く感じる。例えば、メイフィールドが電話でマーシャを呼び出して港を歩きながらハリーのことを思い出すように仕向けるシーンがある。その後で、マーシャの家にコロンボがやって来て聞き込み、ハリーのことをメイフィールドが思い出すように仕向けたことがわかるシーンが続く。これ視聴者には同じ内容を2回繰り返しているだけです。だとしたら港のシーンの方を省いた方がテンポが良くなる。パーティーといい、マーシャとのやりとり、くしゃみの止め方とか別に無くてもいいのではと思ってしまった。

  • この『溶ける糸』は、古畑任三郎の『しゃべりすぎた男』に似ていると思う。向こうのメイントリックは、留守電の背後に入っていないといけない音が入っていなかったこと、花瓶と水差しの言い間違いくらいしかない。が、古畑シリーズの人気投票では必ずトップ5に上がる名作と呼ばれている。それは犯人役の明石家さんまの魅力、古畑とのやり合いが面白いからだ。古畑も今泉を助けるため「友人の人生がかかっているんです!」といつになく感情を露わにしていた。『溶ける糸』も同じ、コロンボVSミスター・スポックという異種格闘技のような対決に惹かれるのだろう。

 

名場面・名台詞

コロンボとメイフィールドが

初めて会った場面。

被害者の私生活を質問した後、

忙しいからと部屋を出ようとする

メイフィールドに声をかける。

コロンボ「先生は名医なんでしょうねぇ」

メイフィールド「そう。ハイデマン先生は世界有数の外科医ですよ」

コロンボ「いや、あたしゃ、あなたのこと言ったんでね。あたしゃあなたの冷静さを言ってるんですよ」

メイフィールド「そりゃどういうことです?」

コロンボ「さっき入って来た時、先生は看護師さんの死のニュースを聞いたばかりで興奮しておられた。しかし電話聞きながら、時計直しておられた」

メイフィールド「……ああ。それで名医とは恐縮ですな」

コロンボ「いやご謙遜です。並の人間ならあんな場合オロオロするばかりで何にも出来やしませんよ。時計の針を直すなんざ……」

メイフィールド「しかしね。おそらく反射的な行為だったんでしょ。私は全然覚えてない。……失礼しますよ」

 

ハリーはシャロンとは別れて

もうモルヒネをもらっていないと言う。

シャロンも麻薬を横流しする人物と思えず

ではシャロンの家から出たモルヒネは

誰が置いたのか?と

コロンボは疑問を口にする。

コロンボ「1番それらしい解答はね、ヤクを巡る殺しと見せかけるために誰かが置いてったってことです」

メイフィールド「……」

コロンボ「モルヒネ置いてある棚これですか?」

メイフィールド「ええそうです」

コロンボ「あれが自由になる人物は……先生以外に」

メイフィールド「私の知る限りではいないはずですがね。私とそれにハイデマン先生だけです」

 

 そこで顔をあげてコロンボに質問する。

 

メイフィールド「私がモルヒネを彼女のところに置いたって言うつもりかね?」

コロンボ「……いいや、あたしは……」

メイフィールド「いいですか?私には動機が無いんだ」

コロンボ「もちろん、そう、動機が無い」

 

メイフィールドに溶ける糸を

ハイデマン博士の手術で

使ったのではないかと問い詰めるが

そんな馬鹿な考えを

本気で言っているのかと笑われて

コロンボが怒りを露わにする。

メイフィールド「ハッハッハッハ……」

コロンボ「何がおかしいんです?」

メイフィールド「いやどうも失礼。あまり君が大真面目なんでね。まさか本気で言っておられるんじゃないでしょうな?ハッハッハッハ……」

 

 コロンボが机の上にあったポットを取り上げて叩きつける。

 

コロンボ「あたしゃねえ、あんたがシャロンを殺したと思ってる!そしてハイデマン先生をも殺そうとしていると」

メイフィールド「……君は立派な刑事だ。知性もあり、勘も鋭く、そして粘り強い。ただ証拠が無いのが惜しいな」

コロンボ「ハイデマン先生の面倒をよくみることだ。もし死んだら当然我々は検視解剖を要求する。そして単なる心臓発作による死亡なのか(溶ける)糸のためかを確認するからな」

 

ハイデマン博士の再手術直後に

コロンボが踏み込んで

手術室やメイフィールドの身体検査をしたが

取り出した古い糸が出て来ない。

メイフィールド「いささか落胆されたようですなぁコロンボさん。さて、では失礼させていただいて。仕事に掛からしてもらいたいんだが」

コロンボ「絶対と思ったんですがねえ。だって辻褄はちゃんと合うでしょ。シャロンが殺された理由としては実にぴったりで……今度はポカやりました。あたしも年ですかねえ。あんたの勝ちだ。尻尾巻いて退散です」

メイフィールド「じき元気になりますよ。ま、せいぜい気を楽に持って」

コロンボ「じゃ、どうも」

 

 手術着を脱いでコロンボが部屋を出て行く。ドアを閉めたメイフィールドはフゥーと深く呼吸し安堵の表情。と、急にドアが開いてコロンボが戻って来る。

 

コロンボ「先生、ご立派!まず完璧と言っていいでしょう。たった今の今まであたしを押さえ込んでいたんですからねえ。元々、先生は冷静を必要とする外科医で、怒った時でさえ1度だって爆発したことが無い人だ。それがさっき手術室ではなぜかカッとなって、あたしを掴んだり、小突いたりする。そん時、あんたは絶対捜索されないところに糸を隠した。それはここだ」

 

 コロンボが脱いだ手術着のポケットから、糸を取り出した。

 

コロンボ「あたしのポケット」

メイフィールド「……」

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

4-A、凶器「凶器トリック」

●奇抜な凶器

【溶ける糸】

心臓外科医の犯人が被害者の心臓弁の手術をし、縫合に溶ける糸を使って、時間が経つと糸が溶けて縫合部分が開き死亡させる。

 

5-C、隠し方「物の隠し方トリック」

●その他

【糸→刑事のポケット】

手術直後に警察が身体検査に来て、犯行に使用した古い糸を隠すため、犯人が怒って刑事につかみかかってそのどさくさに刑事のポケットに証拠品の糸を隠す。

 

8-B、発覚「心理的手掛かりの機智」

●――

【絶対に感情的にならない男】

犯人はどんな時も冷静で感情的に怒ったりしなかったが、ある瞬間だけ怒り出して刑事を小突いた。それは意図的に刑事のポケットに証拠品を隠そうとしたためとわかる。

 

9-A、その他「特殊トリック」

●職業利用の犯罪

【心臓外科医】

心臓外科医の犯人が被害者の心臓弁の手術をし、縫合に溶ける糸を使って、時間が経つと糸が溶けて縫合部分が開き死亡させる。

 

 

『刑事コロンボ』各話レビューまとめ