砂の器(2004年1月18日~3月28日)

 

村人から村八分という酷い仕打ちを受け、息子の学校でのいじめ、妻の病気も医者に診てもらえず亡くなったことが引き金になり、村を焼き払って大量殺人を犯した原田芳雄演じる本浦千代吉の息子が中居で、逃亡中にある町で身を寄せた警官三木(赤井英和)の家から父が一人で去ってしまい、三木(赤井英和)に引き取られるが、父が自首したことが広まり、そこでもいじめに遭い、家出してしまう本浦秀夫役。

登場したときには天才ピアニスト、和賀英良となっていた。

最終回で明かされたのは、三木の家を出て、長崎までたどりついて、施設で保護され、和賀英良というピアノ好きな少年と友達になったが、大雨の大災害で、和賀が両親、親戚共々亡くなってしまい、一人生き残った秀夫は和賀英良だと名乗り、それ以降は、和賀英良として暮らし、高校の先生にピアノの才能を見出され、芸大に行き現在に至ったことになっている。

代議士の娘と婚約し、順風満帆のような生活をしていたが、父との暗い過去を忘れられずにいる。このドラマではピアニカが重要な役割を果たしていて、昔、逃亡の途中で、父がある小学校に忍び込んで盗んできて、秀夫が持ち主の生徒の名前の上に[ひでお]と自ら書いたピアニカを大事にしていることが、和賀の寂しい気持ちを表している。

そしてある日、和賀を訪ねてきた、恩人の三木を、過去が知れるのを恐れるあまり殺してしまう。ただ殺しただけでなく、顔まで潰してしまうというのは残忍すぎる。大量殺人をした父の狂気の血が流れていたのか。

中居は狂気を感じさせるような演技はしていなかったが、彼が醸し出す独特の哀愁、目の動きが役にはピッタリだった。薄幸の女性、松雪泰子演じる成瀬あさみとの交流も、ドラマの一つの見どころになっている。

最終回、交響曲『宿命』をピアノで弾くシーンは撮るアングルもよかったのかもしれないが、鍵盤に置く手の位置も本当に弾いているかのように不自然ではなかった。天才ピアニストの役ということで、伊佐野プロデューサーが言うとおり、中居なりに随分練習はしたのだろう。こういうところに真面目で努力家の一面をのぞかせた演奏シーンだった。

ただ、最終回、1時間半にもわたって、コンサート会場の「宿命」のピアノの演奏を時折映しながら、刑事の渡辺謙が、捜査会議で和賀の過去を事件の発端から現在に至るまでを語りながら、親子の悲劇や逃亡の映像を流したのには、確かに四季折々の風景は美しかったが、いささか、長いなと思ってしまった。

 特にあさみとの絡みがあのワンシーンで終わってしまい、物足りなさを感じた。

最終回に親子の過去の全てを解き明かしていくというのは、詰め込みすぎた感は否めない。そのシーンを少し短くして、コンサート前の成瀬あさみとの最後の絡みや、唯一の共演となった、原田芳雄演じる、父、本村千代吉との医療刑務所での父子の対面シーンの場面を長くすることはできなかったのだろうか。2人の共演シーンをもう少し長く観たかった。

中居は目の演技で、悲しみを目で表現するのが本当に上手いなと改めて思った.

コンサートを終えて逮捕された和賀をあさみが駐車場まで追ってきたとき、何も言わなかったが、優しい目を彼女に向けて、少し口角を上げる程度の笑顔も印象的だったし、車が昭島医療刑務所に着いた時の驚きと戸惑いの目。どれも素晴らしかった。

『白い影』の福澤監督が中居を本作に起用したのは、中居には悲しい宿命を背負った役が似合っていると確信してのことだったのではないか。更に中居の好演が、『私は貝になりたい』へとつながっていったのであろう。

中居がすごい演技派とは思っていなかったが、『砂の器』を見返してみて「目は口ほどに物を言う」という言葉があるように、あれだけ目の演技が上手い俳優は少なくともジャニーズには居ない。

父の病室にピアニカを抱いて入り、「あなたが憎かった。あなたの子どもであることが嫌だった。本浦秀夫をこの世から消したかった。だから三木さんを殺して、殺してしまいました」と言って泣き崩れ、最後に「秀夫、秀夫」と呼んで手をかざした父に、「父ちゃん!!」と叫んでそばににじり寄り、格子越しに泣きながら「父ちゃん、父ちゃん」と言って手を握ったシーンは何度観ても涙が出るほど迫真の演技だった。

伊佐野Pが「撮影中、息をのむのも忘れてモニターを食い入るように見ていた覚えがあります」と言うほどのすごいシーンだった。

和賀が家で一人座り込んで、ピアニカを優しく撫でる手、鍵盤を弾きながら吹く様子。所々にある傷を、昔、友達から叩かれてたことを思い出し、怒りで、自らピアニカを叩く姿、逮捕されたときに大事そうに胸に抱く姿。どれも秀逸だったし、父を片時も忘れずにいたことを手の動きも含めて上手く表現していた。この演技は、まさに中居だからこそ共感を呼んだのだろう。番組の中でピアニカはこれ以上ない効果的な小道具だった。

 次回は『ATARU』