新春ドラマスペシャル 古畑任三郎×SMAP(1999年1月4日)
それぞれが、普段のキャラクターを随所にちらつかせながら、古畑と対峙するという、三谷幸喜の傑作。自分をドラマで演じるのは案外難しい。5人の会話も自然で、それをドラマで出来る5人は、やはり只者ではない。SMAPを可愛がるマネージャー前田役の戸田恵子は、はまり役。
ストーリーは、孤児院キンダーハイム出身の人気グループのSMAP5人は堅い絆で結ばれており、おじさんのスキャンダルで剛から金をむしり取る富樫というクズのような男を、自分たちのホームグラウンドであり内部の構造まで知り尽くした孤児院近くのコンサートホールで完全犯罪で殺そうと、木村を中心に綿密な計画を立てて何とか実行する。しかし、一番疑われやすい剛にアリバイをつくり、4人で決行しようとするが、剛が自分も加わりたいと追いかけてきて、それがきっかけで色々なほころびが生じ、古畑任三郎に暴かれるというものである。
この事件のキーパーソンで、古畑にも挑戦的な態度でベラベラしゃべる木村に比べて、中居のセリフは半分以下だったが、表情のアップは中居が一番多かった。最初から、殺人へのためらい、殺人が発覚したときのこと。SMAPのリーダーとしての苦悩の表情を、目や仕草で上手く表現していた。
大詰め 古畑に追い詰められた舞台下のセリでの場面。木村は発覚に至るまでに起こった不審な出来事を、普段から個人主義の吾郎の仕業だと疑っている。古畑の追求に観念して立ち上がった中居を木村がまだだと手で制する。
中居 もう、いいんだ。富樫を殺したのは僕たちです。古畑さん、すべての責任は僕にあります。こいつらは僕に従っただけです。
香取 そういうこと言うなよ。
古畑 あなたは最初から1人で罪を被るつもりでしたね。だから自分が不利になるような証拠を残しておかれた。
草薙 まさか。
香取 中居君。
中居 そうだ、吾郎じゃない。俺なんだ。木村の計画を聞いた時、素直にすごいと思った。これなら上手くいくと思った。でもあの時、剛が追っかけてきたのを見て、嫌な予感がしたんだ。それで、その時は自分が罪を被ればいいと思った。
木村 うそだろ。(つぶやくように)
香取 絶対おかしい。何で一人で被ろうとするんだよ。みんなで決めたことなのに。何でそんなリーダーぶるんだよ。そんなことをして俺等が黙ってるって思うかな。
古畑 だから中居さんは苦労されたんです。彼は一人で罪を被るつもりでした。でも自首をすればほかの皆さんも名乗り出るかもしれない。だからこんな手の込んだことを。そうですね。
観客の歓声が聞こえる。
古畑 ああ、お客さんたちがお待ちだ。では、ステージ拝見させていただきます。
中居 大丈夫です。僕たちは、もう覚悟はできていますから、最初からそのつもりだったし。な?(みな軽くうなずく)客席のみんなもわかってくれると思います。行きましょう、古畑さん。
木村 ごめん、俺のせいだ。
中居 な~に、謝ってるんだよ
木村 結局、最後は俺が足引っ張った。
中居 何言ってるんだよ。
稲垣 (木村が吾郎に何か言いたげに近づく)誰のせいでもないよ。君は頑張った。
中居 吾郎、何やってたんだよ。
稲垣 僕?
中居 誤解されるようなことしてるからだろ。
稲垣 個人練習。「青いイナズマ」の。ほら、振り、覚えるの遅いから。
香取 言えばいいのに。
稲垣 人知れず努力するタイプなんだ。
香取 自分で言うな。
稲垣 言ったろ、僕だってSMAPの一員だって。
草薙 みんな、有難う、嬉しかった。
中居(うん、と頷いて)行くぞ!
(前田に)いろいろ有難うございました。すみませんでした。
前田 冗談じゃないわ。
中居 すみません。
前田 最後まで堂々とね。後悔してないんでしょ。
中居 はい。
前田 だったら胸を張って行きなさい。
中居 はい。(深くお辞儀)
みんなが階段を上がっていく。
前田 拓哉、裁判の時、遠くを見る目、止めなさいよ!
最後、階段で振り返った中居の顔が映り、そのあと前田の手を一度握ったあとに「うるせえ!」と言って振り払い、木村がふてくされた感じで階段を上がっていくところで、SMAPのシーンは終わる。
古畑 お察しします。一緒に行かれますか?
前田 行くわけないでしょ。私にはこれから3000人のお客さんを説得する大仕事が待ってるんですから。本当に最後まで世話の焼ける子たちだわ。
このあと、前田がセリを上がって観客にお辞儀をし、後ろドアから見守る古畑のシーンで終わる。
このドラマでは中居の責任感の強さが描かれていて、実像と少し被る。リオオリンピックのキャスターを務めている最中の解散報道。中居の苦しみはいかばかりだったか。それでも、テレビでの中居は終始笑顔で大役を全うした。だが、МCの中居は「SMAPの中居正広です」と言えることが 誇りであり幸せだったはず。SMAPがなくなり、「中居です」としか言わなくなったのが、ファンもであるが本人が一番寂しいに違いない。
次回は『伝説の教師』