・チガウ・(後編)

3日目…
寝室で目覚めると、
聞き慣れぬ俺の家族?が
朝の騒がしさの中に居る
妻らしき女性の声と
娘らしき女子の声が
聞こえてきている。
やはり今日も
俺は他人の中に居る…

体に異常なダルさを感じて起き上がれないままで居ると…
妻らしき女性が大きな声で
「起きてる?遅刻するよ…」
と言いながら寝室に
入ってきた。

どうする…
何を言えば…

思案している俺の意識をよそに
身体中に冷や汗か油汗と言えばいいのか…
汗が吹き出てくる…

勝手に言葉が出てきた…「ごめん…」と、
たったの一言…
どうやら、
この身体本人の意識のようだった…
その言葉を最後に
この身体の意識は遠退いていった…
妻らしき女性の慌てた声が遠くで聴こえていた…

男は自分が不治の病だと知りながら
認めたくない気持ちのまま
家族に黙したままだったようだ…
しばしの間
家族と自分を騙せても
病は現実だったのだ…
如何なる立場の人間でも
人に生まれて
病から逃げきれた者など存在しない…
1つの病から逃げても
また別の病理に蝕まれる事も少なくないのだ…

逃げられない…
と、言うことか…
そう思った瞬間…
俺の意識の奥底から
「…チガウ…」
と、聴こえていた。

4日目…
俺の意識は
とある山中に居た…
一人の男が地面に掘った穴に大きな塊を
転がすように落とした…
その青いビニールシートに包まれた塊は
俺の身体だった…
…そうか、俺はコイツに殺されたのか…
つまり、人は
いつか訪れる死からも
逃げられない…
…チガウ…
全ては持って生まれた
命に宿っているモノだ…
逃げる逃げないの話では無い…
認めるしかない。

いつ如何なる時に
どんな形で、
牙を剥くかも知れない
生も老も病も死も
認めるしかないのだ。

(終わり)