最後は、あいつか。
不満そうな顔をして、部屋に戻っていった雅紀。
めんどくさいな。
カンガルーだけあって、
体力な、敏捷な運動神経は一番ある。
うちの学校に入学できるだけあって、
頭はまあまあいいが、
とにかく直情径行。
真っ直ぐといえば真っ直ぐだが、
楽しいこと気持ちいいことに目がない。
自己規制が効かない。
さぁ。
どうしたもんかな?
「大野先生。こんばんは。
来たよ。
ほら、早くお仕置きしてよ。」
保健室の丸椅子のところに、
股を開いてがっつり座る。
くるるるるー。
長い脚の間、
両手で丸椅子を掴んで
まわり。
そして一瞬、
俺の前で止まっては、
くるるるるーと
逆の方向に回る。
そして。
ぴた。
止まったかと思うと、
首を傾げて俺を見る。
「はやくー。
俺、痛いの嫌だけど、
それが終われば寝られんでしょ〜。
さっさと、お仕置きー。」
言い捨てては、
くるるるるー。
また、
逆の向きに回る。
はぁぁ。
ほんと。こいつは。
じっとしてらんねぇなぁ。
こいつ、
カンガルーなんだよな。
草食動物のはずなのに、
大喰らい。肉が好き。
そして、カンガルーの特製らしく、
なによりも
仲間を大事にする協調性はあるけど、
人には懐かない。
でも、
本当は、
こんなに攻撃性は強くないはずないんだけどな。
あ。胸を張った。
上腕筋がもりもりしてくる
威嚇行動だ。
そっか。
甘えたいのか。
そうだよな。
初めて自分に気になるやつができてんだもんな。
よしよし。
うちの可愛いカンガルーちゃんと話をしてあげようか。
「相葉。
自分が普通のヒトじゃないって知ってるな。」
「うん。」
威嚇行動をまずやめて、
くるるるるーと回ることもひとまずやめて、
俺の目を見る。
「知ってるよ。大野先生。
俺たちは、
ヒトと動物の混合種 peopal.
人の知能と動物の特性を融合したヒトの進化形でしょ。」
「そう。」
peopal は、
ヒトとの混合種。
なぜ、その遺伝子が混入したのかは定かではないが、ある意味ヒトの進化系。
混入してきた動物の遺伝子の優性的特徴を受け持つ。
また、
なぜか知らないが、
普通のヒトよりかなり高い知能を有する。
なので、
ヒトの優良種が集まるこの高校には、
自らをpeopalと知らぬまま
かなりの確率で
peopalが集まり、
そいつらには、
俺が直接指導にあたるわけだ。
「それで。
相葉。あいつが好きなの?」
むぅ。
相葉の唇がわかりやすく尖るから、
ちゅ。
唇にキスしてやる。
「俺のじゃダメか?」
むう。
相葉が唇を人差し指で触りながら、
答える。
「大野先生がさ。
俺たちにしてくれるのは、
先生として教えてくれるだけでしょ?
ヒトの社会の馴染み方とか、
生殖行動のこととか、
peopalとして
俺たちがこの社会で暮らせるように
教えてくれるだけだよね。
気持ちいいし。
楽しいけどさ。
でも、
あのヒト、
美味しそうだし、
いい匂いするし、
俺、一緒にいたいんだもん。
俺、あのヒトがいい。
あのヒトの方がいい匂いするし。
きっと食べたら美味しいと思う。
俺、まだヤッたことないしー。
初めてはあのヒトがいいなぁ。」
はぁぁ。全く。
草食のくせに、
カンガルーとしての本能の方が、
勝ちやがって。
「わかった。
相葉の気持ちはわかったから。
じゃあ、
お前の気持ちがちゃんとコントロールできるよう、
勉強するぞ。
それがお仕置きだ。」
「えー?」
相葉が素っ頓狂な声を上げる。
「本能とか、衝動は
理性や、脳の働きでコントロールできる。
それには、学問が一番だ。
特に計算は、
ひたすら頭の中を整えて集中できる。
この問題集 10ページ。
それが終わったら、今日は終わり。」
「今日?」
相葉が訝しげな声。
「明日からは夕食前、
図書館の安田先生のところで
自習。
安田先生には、俺からこういう事情でって話つけといてやる。
いいな。」
「大野せんせの意地悪〜!
そんなことしなくても、
あの先生やっちゃえばいいことじゃーん。」
「なんとでもいえ。
お前のためだ。」
シャーペンを持った
相葉が泣きそうになりながら、
俺の方を見た。
⭐︎つづく⭐︎