目をあけて時間を確認すると午後八時をまわっていた。
外はすっかり暗くなっていて雨も降っていた。夕方見たウサギの仮面を被った人物の姿はすでになく、あれはやはり夢だったのだと思った。
私の頭は相変わらずズキンズキンと痛み、ベッドから立ち上がるのも辛い位だった。本当なら叔母が帰った後、ご近所さんに引っ越しの挨拶をしにいく予定だった。しかしとても動ける状態ではなくすでに時間も遅かったので、挨拶に向かうのは明日にしようと思った。
私はベッドに横になり天井をぼんやりと眺めながら叔母が運転する車から見てきたこの辺りの景色を思い出していた。
洋館の周りはぽつんぽつんと家があるいわゆる田舎だった。
何軒かの廃墟もあった。叔母ははっきりとは言わなかったけれど、きっとこの元宿舎の洋館は過疎地となったことが原因で閉館したのだと思われた。
ギシッ・・・
上の階から急に物音が聞こえた。古い建物なので雨の影響で物音がしても不思議ではなかった。
ギシッギシッギシッ・・・
まるで上の階を誰かがゆっくりと歩いているようなきしむ音がした。
勿論この建物には私一人しかいないのでそんな足音がするはずはなかった。
しばらくすると上から聞こえてきたきしむ音はしなくなり、雨の音だけが聞こえるだけになった。
車の音すら聞こえない。
雨の音だけが部屋に響く。
相変わらず不快な臭いはしていたけれどだいぶ慣れてきた。
天井に浮かび上がった奇妙な形のシミを眺めながら、夕方見たウサギの仮面を被った人物のことを考えていた。
もしあれが夢ではなかったらどういう理由から私のいる部屋を覗いていたのだろうか?
こたえが出る前に私は再び夢の世界へと向かいはじめた。
バァン・・・
完全に夢の世界へと向かう直前、上の階から扉が閉まるような音が聞こえてきた。
勿論、気のせいだろう。
誰もいないのだから。
痛みがひどくしっかりと何かを考えられる状況ではなかった。
奇妙な形のシミは一瞬老人が不気味に笑っているように見えたけれど深くは考えずに私は眠りについた。
そして朝起きてすぐに不快な臭いの正体が子どもの頃に嗅いだ“鳩のフンの臭い“と同じだと気がついた。