ナチス・ドイツの「象徴」を掲げるウクライナ義勇軍…米国がミサイル供与をやめた理由
2015/6/22 15:00
政府軍と親ロシア派武装組織による戦闘が続くウクライナをめぐり、「ナチスの亡霊」の存在が事態の混乱に拍車をかけている。義勇兵部隊の「アゾフ大隊」で、米国は6月上旬、同大隊がネオナチだとして、支援する政府側への対空ミサイル供与計画を取りやめた。世界各地にいまなお巣くうナチス・ドイツの亡霊。ウクライナ情勢にも暗い影を落としている。(岡田敏彦)
ハーケンクロイツを掲げる義勇軍
ロシアの一部メディアによると、2014年5月にウクライナ内務省管轄の部隊として発足した「アゾフ大隊」は、黒海北部にある内海のアゾフ海に近いドネツク州マウリポリに本部を置く。同年8月にロシア連邦軍とみられる部隊が攻撃を仕掛けた際には先頭に立って反撃したとされる。
同大隊はネオナチとの「共通点」が少なくない。
米通信社ブルームバーグやロシアのニュース専門局RT(旧ロシア・トゥデイ、いずれも電子版)などによると、70年前のファシズム国家、ナチス・ドイツの象徴であるハーケンクロイツの旗を掲げ、部隊章には、ユダヤ人を次々と強制収容所に送り込んだナチス親衛隊(SS)が用いた紋様「ヴォルフス・アンゲル」(狼の罠)を用いている。
ナチスをめぐっては、SSだけでなく、占領地域ではアインザッツグルッペン(絶滅部隊)がユダヤ人狩りを行い、アーリア人(白人)至上主義のもと有色人種や少数民族を奴隷化するなど、悪行非道は枚挙にいとまがない。
戦後のドイツをはじめ欧州では、ハーケンクロイツを公衆の場に出すことを法律で禁じている国もあるほか、玩具の戦闘機でさえ、ハーケンクロイツが「田」のマークに置き換えられるケースもある。
しかし欧州では格差社会が進行したことも手伝って、外国人排斥を訴える極右勢力が台頭。これらの勢力はナチスの主張を一部正当化し、「ネオナチ」として危険視されている。
ただ、アゾフは外国人排斥を主張しているわけではない。にもかかわらずナチスを称(たた)えるような紋章類を引っ張り出すのは、ウクライナとロシアの歴史にあるとされる。
ソ連からの弾圧の歴史…ナチス・ドイツは「解放者」
ウクライナはもともと、中世時代にはキエフ大公国(ルーシ)として欧州最大の国家だった。いわゆるモンゴル来襲によって滅び、その後、14世紀以降は他国の支配下に入った。
1917年のロシア革命に伴い、ロシア帝国からの独立を宣言したが、第一次大戦後には赤軍と白軍(帝政ロシア派)、無政府主義者らによる内戦の結果、ポーランドとソビエト連邦の支配下に置かれた。
22年にはスターリンのソ連に一共和国として組み込まれ、第二次大戦前には農民が飢餓状態になっても穀物を輸出にまわすというスターリンの政策によって大飢饉(ききん)が発生、数百万人が餓死した。
これも、土地の国有化など共産主義に反対する農民の数を調整するための「人工的な大飢饉」だったとして、米国などは虐殺だとしている。
こうした状況下で第二次大戦が勃発。ソ連軍を電撃作戦で蹴散らし侵攻してきたナチス・ドイツの部隊は、ウクライナの少なくない人々に「ソ連を駆逐した解放者」として迎えられることになったとされる。
「アゾフ=ネオナチ」で、米国が支援拒否
実際にはナチスもウクライナの独立を認めず、むしろ戦争で国土が荒廃しただけだった。しかし当時は独立運動家らがナチスのSSに入隊するなど、反ソ連感情は消えることがなかった。武力でソ連を撃退したナチスのイメージは「アゾフ大隊」の構成員にも強く影響しているのは間違いない。
ユダヤ人虐殺の中心となった内務省SSと、前線でソ連軍と戦った武装SSとは別組織だったことに加え、ヴォルフス・アンゲルの印章は武装SSだけでなく、国防軍の部隊も複数用いていたこともあり、アゾフ大隊が気軽に部隊章などに取り入れた一因とみられている。
ウクライナ情勢をめぐって、米国は政府軍を支援し、ミサイル供与を計画していた。自由と民主主義を掲げ、ロシアの強引なクリミア編入に反対してきた米国にとって、ナチスは許し難い存在だ。米国に入国する際に記入する出入国カードにはいまだに「ナチスの迫害や虐殺に加担していないか」を問う項目がある。
ロシアの一部報道で「アゾフ=ネオナチ」説が喧伝(けんでん)されたことも手伝い、米国ではこの問題が表面化。米下院のジョン・コンヤーズ議員(民主党)が、アゾフへの携行地対空ミサイル(スティンガー)供与と、その訓練を停止させる修正法案を提案、承認された。
アゾフ大隊は「われわれはネオナチではない」と反論している。ただ、その存在がウクライナ情勢をさらなる混迷に陥れている可能性も大きい。
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