朝、富士山を見に行った。

天気はよく、山は思ったより近く、大きく、静かだった。頂にはうっすらと雪が残り、朝の光を受けて、わずかに金色に光っている。しばらくただ眺めていた。写真を撮るでもなく、言葉を探すでもなく、ただ立っている。それだけで十分だった。

昼が近づくころ、静岡へ向かった。

向かったのは、前から気になっていた小さな店。暖簾をくぐると、鰻を焼く香ばしい匂いがふわりと迎えてくれる。

頼んだのは、鰻飯と鮪の刺身。鰻は炭火でじっくり焼かれ、甘辛いたれが程よく絡む。身はふっくらとやわらかく、箸で切れる。鮪は赤身で、口に含むと、ねっとりとした甘みとほのかな酸味が広がる。米は固めに炊かれ、噛むほどに甘い。

特別なものは何もない。けれど、一つ一つが丁寧につくられていて、それが妙に嬉しかった。

朝は富士山の静けさを味わい、昼は静岡で温かいものを食べる。ただそれだけの一日なのに、なぜか、とても贅沢な時間に思えた。

店を出ると、午後の光が少し強くなっていた。静岡の街は、東京より少しゆったりしていて、どこか優しい。ゆっくりと歩き出した。急ぐ理由は、まだどこにもない。