初夏と言うには空気がいやに暑い。

息を吸っても吐いても暑くていっそ止めたくなる。

暑いのは苦手だ。

自らの輪郭が溶けそうになるからと、そう弟に溢せば「兄者の思考回路は最初から溶けきっているから大丈夫でありんす」とか宣いやがった。

下らない口喧嘩。


いくぶんか、薄まる不安感。それでも、根本にあるそれは消えない。


暑いのは苦手だ。

自分の輪郭が溶けそうになるから。


自分が消えたとして、いったい何が変わるのか。否、何も変わらないだろう。なにせ自分にはスタートラインがないのだから。



今は日常に薄まるそれはいつか、自分を喰らい尽くすのかもしれない。或いは既に。それが酷く怖


「あひゃさん」



暗い思考に彩られた脳内が、彼女の姿をした日常にかき消される。



アイスがあると嬉しそうに笑う彼女を肩車して自分は日常に溶け込むために食堂に出向いた。

何をいえばその眉間に皺がよるか

どこに触れればその顔が嫌悪感に染まるか

手に取る前から全てがわかるから、楽しくして仕方ない。

まさにその姿は真逆にして瓜二つ、この自分に



スイッチが入る音

引き裂いた衣服

噛みついた唇


叫ぶような拒否の叫びを噛み砕いて



光を喪う目

体液にまみれた肢体

掠れた泣き声

気を抜いた罰




振り上げる影


降り下ろされた衝撃



ああ、似てるな



最後の瞬間に見開かれた瞳に既視感

薄い銀色を這わせた肌は赤に侵された白のコントラスト

切り分けていく固まりは、まだ微かに温くて、グニャリと歪む。


「…私、お肉嫌いなのよ。」

最初に彼女と食事をしたときの会話。


「レアのステーキなんて特に、だめ。ぐにゃぐにゃして噛みきれなくて、なにかこう、気持ち悪くて。爬虫類でも食んでいる気分になる。」


そういって爬虫類と同じ色をしたサラダの緑を噛み砕いた彼女の唇をやたら思い出す。


その言葉を反芻してみるば確かに夸の感触は女性には好かれないだろう。

血と油にまみれた固まりはよもや爬虫類の滑りより蛞蝓の感触に近い。


それでもそれを撫でる自分の顔に笑みが浮かぶのはこれから本当に彼女を愛せるから。



「焼き加減はヴェルダンにいたしましょうか。」


切り離した首の、血で艶を失った髪を撫でる。

嵌め込んだガラスの瞳が自分の微笑みをただ鈍く照り返していた。