バブルの頃、私は、社会人になりたてだった。オフィス街のランチタイム、飲食店の入り口には「今日のランチメニュー」と書かれた看板が掲げられ、お店はどこも多くのお客さんで混みあっていた。ちょっと出遅れると、並ばなくちゃいけなくなる。だからみんな、我先に、自分のお気に入りの店へと急いだ。

 

当時のオフィス街の飲食店で、「禁煙席」のある店は、見た憶えがない。今思えば、店内は、かなり白く煙っていたことだろう。

 

仕事を一人で任されるようになると、ランチも一人で食べることが多くなった。最初はちょっと気の引けた「ひとりランチ」。それにもだんだん慣れてきた頃、ある日、その事件は起こった。

 

その日私は、都心のとある店で「ひとりランチ」だった。テーブルに着いてしばらくすると、店が混んできたのか、店員が私の近くへやってきてこう言った。
 「お客さま、ご相席よろしいですか。」

 

そのとき私は、何か考え事をしていたはずなのだが、どういうわけか、あまりにもキッパリと、次のように答えていた。
 「タバコを吸わない人なら。」

 

・・・これには、自分で自分にびっくりした。それまで、そんなこと、あまり考えたことなかったのである。私は、自分に動揺してしまったので、その後の展開を覚えていない。言われた店員さんは、いったいどう反応したのだろうか。

 

おそらく、私の“禁煙席探し”の旅は、この事件をきっかけに、始まったのだと思う。