ここは、横山大観の絵をたくさん所蔵してあることでも

有名な、島根県にある「足立美術館」

 

私は絵心はあまり無い。

 

何を目的に来たかというと、昔テレビで見て感動した、

「庭園」だ。

敷地の外にある、自然の山を借景にし、

広々とした白浜と黒松で、横山大観の世界観を再現している。

 

ここは庭園には入れないが、美術館の中から大きな1枚窓から外を見渡せる。

 

普通のロビーに椅子が並べてあり、ゆっくりと座ってその庭を眺められるのだ。

 

 

私は庭好きだ。

 

それはなぜかというと、平安時代の書物が好きだったからだ。

 

子供の頃読んでいた平安時代の歴史書。綺麗な十二単、

精悍な貴族の狩衣姿、

芳しいお香、

調度品の描写、

そして必ず出る「庭の描写」だ。

 

普通の団地住まいの子供には、

自分の家の庭に築山や池があり、そこに舟を浮かべて宴を開くなんて、

スゴイ!と思って、ワクワクしたのだ。

大人になったらいろんな庭を見たい、

と思った。


そして。大学の初めての夏休み。

アルバイトで貯めた少ない資金と、小さいキャリーバックを持ち、待望の「庭巡り」に選んだのが、この「足立美術館」だ。

なぜここが第一弾かというと、私の住んでいる街からJRで行け、駅から美術館までは無料シャトルバスが出ているのだ。

夏休みに入って暑い日が続いている。

少しでも安く、涼しくをモットーのビンボー旅行だ。

美術館は、平日だが、観光客で賑わっていた。海外のなんか有名な賞で、日本一の庭園として選出されているらしい。

ようやくロビーの椅子が空いて座ることができた。

ゆっくりと涼みながら、素晴らしい白砂青松の庭を見よう。



と、思っていたら。

私の隣に80歳くらいの紳士風のおじいさんが腰掛けた。

 その身なりもきっちりとした、お年のわりには背筋もスッと伸びたおじいさんだ。

何となく気になったて、こっそりとおじいさんを見ていたのは、違和感を覚えたからだ。

何かとボソボソ会話をしているのだ。

でも、隣は私。周りにもおじいさんの連れらしき人はいない。

小さい声でボソボソ。

何だか会話の内容を聞き耳立てて、聞いてみた。

      あの、絵は素晴らしかったなぁ。

             そうかなぁ、そんなことより僕はあの庭に出たいよ。

       ダメだぞ。ここは立ち入り禁止なんだ。おとなしく庭を眺めていなさい。

             

         なんだよ、つまんないところだな!

早く次に行こうぜ!


こんなことを話しているようだ。1人で。

おじいさん、認知症なのかな?妄想がひどいのかな?

どこから来たのかな?お家の人はいないのかな?ちゃんと帰れるかしら?


なんだか、田舎のジィちゃん思い出し、心配になってきた。

と、している合間にも、おじいさんは立ち上がって出口に向かいだした。

私もつられて立ち上がり、追いかけてみた。

あ、庭、、。まだ、美術館には池庭や苔庭とか見応えのある庭があるけど、見て行けないや。

いいや、また来よう。次は紅葉の頃に。


それより、あのおじいさん。

出口を出て、外の駐車場を探してみる。

見当たらない。クルマを運転して帰ったのかな?


すると。確かにあのおじいさんが駐車場の1番奥に向かって歩いていたのが、見えたが。

なんか、連れてる。      

      犬?


大きな犬を連れている。いや、連れているというか、なんか対等に並んで歩いているように見える。


なんだかますます気になって、追いかける。真夏の昼下がり、日傘も帽子も無いから太陽の光がジリジリ痛い。汗だくで近くまで追いついたら!


?。???。??! 

     おじいさんは誰かとの会話を続けていた。  


犬と。大きな茶色の毛並みの雑種犬と。 


犬、喋っているかな?犬の声なのよね?

どう聞いても犬しかいないし、犬の口がパクパク動いている!


        寄りによって中に入れない庭に来なくていいだろう。庭はたくさんあるじゃないか。 

          しかし、入れる庭でも、犬のおまえは中に入れない方が多いんだぞ。


     ふん!だからちゃんと入れる「姿」になって、おまえの胸ポッケにいただろう。あ〜つまんない。最近は自由に走り回れる場所も少なくなったな。


     仕方ないさ。そういう時代だ。早く見回って元からきた場所に戻ろう。 


        わかったよ。次はどこに行くんだ。


     よし、次は。あ、待った、その前に。

というと、おじいさんが後ろを振り返った。私と目が合ってしまった。

    先ほど隣に座っていたお嬢さんですね。私達に、何か御用ですか。 

          げ!ご、御用と言われても。

ゴニョゴニョ、しどろもどろ。汗がまた噴き出してきた。

私の様子を見たおじいさん、くすりと笑って、

      これは失礼しました。私達は今から他の庭園に行くのですが、あなたもご一緒にいかがですか?あ、私達は怪しいものではありません。綺麗な庭好きのジジと飼い犬です。


        いや〜、私も庭園好きですが、まったく知らない方と一緒には行けません。        そう!しかもその犬!人間の言葉を   話すではないですか!


    あら、やはり聞かれていましたか(笑)では、怪しいものではありませんと言っても信じては貰えませんね(笑)

    彼は今は犬ですが、昔はヒトだったのです。だから会話ができるのですよ。

           はぁ?何それ? 

ますますゴニョゴニョ言っている私の腕をおじいさんがいきなり掴んでこう言った。

     彼はもっと昔は鳥だったのです。だから私達を乗せて空も飛べるのですよ。


    はぁ!?ますますなんだそりゃ!

と、思うか思わない瞬間。

その犬の背中に乗っけられた記憶まではあったのに。


気がついたら景色は変わっていて。また大きな庭園の中に立っていた。

      え!ここは?見たことがある。

この大きな池庭は。確か熊本の水前寺公園だわ。水の国熊本ならではの清らかな水を湛えた池庭。いやいや!さっきまで、島根にいたのに、ありえない!

  

大混乱になってきた。


     横にいた、犬を連れたおじいさんに詰め寄る。


       おじいさん!これはどういうこと?さっきまで島根にいたのに!だいたい犬は喋ったりしないし、ましてや鳥になって飛んでくるなんて、変でしょう!?熊本なんかに来て、帰る旅費ないし!


      あなたは何を言っているんだね?


            へ?



「お嬢ちゃん、もう起きてね。図書館は閉まる時間なのよ。」