ある所に、男の子がいました。
男の子はいつも独りぼっちでした。
ある日、男の子は河原を散歩していると、草むらの近くに段ボールが置いてありました。
「何だろう?」
不思議に思った男の子は、段ボールに近づいてみました。
中からはゴトゴトと音がなっています。
「開けてみよう!」
男の子が段ボールを開けると、桃色の小さな生き物が顔を覗かせました。
生き物は、ウサギの被り物をした小人のようでした。
男の子は小人を気に入り、一緒に暮らす事にしました。
家に帰る間、男の子は小人の名前を考えていました。
「ウサギはラビットって言うから…ラビィってどうやろ?」
男の子はウサギの頭を撫でました。
「ラビィ。」
男の子がそう言うと、ウサギは耳をピョコンと動かしました。
「ラビィ、ラビィでいいのか?」
ウサギはこくんっとうなずきました。
「よし、じゃあお前はラビィだ!」
それから、男の子はラビィと名付けたウサギとずっと一緒にいました。
お風呂も、寝るのも一緒です。
男の子はラビィをそれはそれは可愛がりました。
ラビィも男の子が大好きでした。
「ラビィ、じゃあ行ってくるね。」
しかし、男の子が学校に行ってしまうと、ラビィは家に独りぼっちでした。
ラビィは男の子が学校に行っている時間が、とても長く感じました。
「ラビィただいま!」
男の子が帰って来ると、ラビィはすぐさま駆け寄り、男の子と一緒にいました。
ラビィはこの時間がとても幸せでした。
しかし、その幸せも男の子が小学校の時まででした。
男の子が中学生になると、家にいても勉強ばかりです。
「ごめんねラビィ、テストがあるんだ。」
男の子はラビィの頭を撫でて謝りました。
ラビィも頭ではわかっているのですが、それでも寂しい気持ちでいっぱいでした。
ラビィはどうしたら男の子と一緒に遊べるか考えました。
『今までの遊びじゃダメだ。』
悩んだ末に、ラビィの頭に名案が浮かびました。
『男の子が勉強するのなら、僕も勉強すればいいんだ!そうすれば、同じ楽しみが味わえる!』
ラビィはまず、文字を覚えました。
『これは"あ"これは…"い"…。』
言葉が話せない代わりに、文字をいっぱい覚えました。
漢字だって覚えました。
国語辞典を見ていると、わからない漢字があると、男の子の所に聞きに行きました。
『これでまた遊べる!』
前より時間は少なくとも、ラビィが男の子と過ごす時間は幸せでした。
ラビィはもっともっと勉強したいと思いました。
その為には、もっと時間が必要です。
ラビィが考えた策は、寝る時間を削る事でした。
男の子と遊ぶ為に、寝る間も惜しんで勉強しました。
学力がつく度に男の子に誉められて、もっと誉められたくて、勉強の時間を増やしました。
『もっと勉強しなきゃ。その為には寝る時間をもう少し減らそう。』
男の子が中学3年生になる頃には、ラビィは男の子よりも賢くなっていました。しかし、ラビィは毎日ちょっとしか寝ていないせいで、みるみる痩せていきました。
「ラビィ、ちゃんと寝ないとダメだよ?」
『大丈夫だよ。』
男の子の心配をよそに、ラビィはどんどん勉強していきました。
そしてついに、男の子の心配通りの事が起こりました。
睡眠不足でラビィが倒れたのです。
ひどい高熱を出し、死んでもおかしくない状況でした。
「ラビィ!死んじゃ嫌だよ!ラビィ!」
男の子は懸命に看病しますが、ラビィの容態は悪い方に向かうばかりです。
「ラビィ!嫌だ!」
『君の言う通りだったね…僕は何でこんな簡単な事…出来なかったのかな?』
「謝らないで?僕がもっとラビィと遊んであげれば良かったんだ…。」
『君のせいじゃないよ…ほら、泣かないで?僕は君の笑顔が好きなんだから。』
男の子は涙でぐちゃぐちゃの顔で精一杯笑いました。
ラビィもそれを見て安心しました。
『神様…僕が生まれ変わったら、また一緒にいられますように…さぁ、今まで眠れなかった分を眠ろう。』
その言葉を最後に、ラビィは永い眠りにつきました。
ラビィが死んでから、随分と時間が経ちました。
男の子には友達がいっぱい出来ました。
そして、親友も出来ました。
男の子はその親友の側にずっといました。
親友は、男の子が大好きでした。
男の子も親友が大好きでした。
何故なら、その親友はラビィが生まれ変わった姿だからです。
2人は芸人になりました。
コンビ名は、ラビィが最初に男の子に聞いた漢字《ロザン》でした。 終わり