フリーパス無差別鑑賞(12)「食でもてなす心」 | ◆◆ ロイの書斎 ◆◆

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頭に浮かんだことをエッセイ風に書き綴っています

ファッションとグルメの作り手側。すなわちデザイナーとシェフの業界というのは男性社会で、フランス大統領官邸=エリゼ宮の厨房においても厳格で保守的なルールに縛られた男性シェフによって伝統と格式が頑なに守られていたが、「大統領の料理人」の主人公はそんなところに大抜擢されてやってきたエリゼ宮で初めての女性シェフだった。

本作は実話の映画化である。
ミッテラン元大統領の専属料理人(主厨房ではなく大統領のプライベートなシェフ。それまでは主厨房のシェフが交代で担当していた)として2年間働いた女性シェフの型破りな行動と料理が周囲をそして大統領をも魅了していく。
劇中に登場する料理はどれも本当においしそうで、食欲がそそられた。
中には手間がかかりすぎて今では幻となった料理まで登場する。
ミッテラン大統領は実際かなりの食通だったらしく、劇中でも主人公と料理についてあれこれ熱く語り合う様子が描かれていた。
ただ、ヒロイックに主人公を扱おうとしているものの彼女がその後のエリゼ宮の料理を大きく変えたというわけでもなく、周囲を翻弄したにすぎないように見える。去った後は元通りになっただけのように思えた。
主人公の名前も実名でないので、実話に基づいたフィクションと割り切り、もっと印象に残るエピソードを脚色してもよかったのではないだろうか。
例えば彼女と敵対する主厨房のシェフと料理対決をして打ち負かすとか、やめた主人公の元に大統領がこっそり訪れて料理を食べにくるとかそんなカタルシスを感じるシーンを期待していたのにそれがなかったのは残念だ。
ちなみに主人公が牛肉の仕入れ先を変更したいと言った時、その味を「神戸牛に匹敵するぐらいおいしい」と言ったのが印象的だった。関西人としてはちょっとうれしい。

映画は盛り上がりに欠ける部分もあったが、エリゼ宮を去った後、南極でシェフを務め、その後ニュージーランドでトリュフ農場を経営しようとする主人公の逆境にもめげないパワフルな人生に魅力を感じた。
モデルになったシェフ、ダニエル・デルプシュはこの映画がきっかけで来日、早朝に築地の魚市場を見学し、仲買人のマグロの繊細な扱い方に感激したりと今でも好奇心旺盛な魅力あるマダムであり、その雰囲気が映画でもっと伝わってきたらなあと感じた。
ミッテラン大統領は、無駄な装飾のない素材の味を生かした郷土料理を食べたがっていたのだが、そのことを初めて理解して料理を作ったのが主人公だった。
料理の極意は技巧ではなく、相手をもてなす心である。
そういう思いのこもった言葉がデルプシュ女史のインタビューの中にもあった。
「食は人を幸せにする最強の武器」であると。