ハートの鍵穴 | ◆◆ ロイの書斎 ◆◆

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頭に浮かんだことをエッセイ風に書き綴っています

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特撮映画史を語る上で欠かせない人がいる。
ジョルジュ・メリエス
作品を観たことはないが、ジュール・ベルヌ原作の「月世界旅行」での人間の顔をした月に、弾丸が突き刺さったシュールなショットはあまりにも有名だ。
その“特撮映画創成期の父”にオマージュを捧げた作品が、マーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」だ。

1930年代のパリ、駅の時計台の裏に1人で隠れ住む少年ヒューゴのたったひとつの楽しみは、亡くなった父と一緒に取り組んでいた機械人形の修理だった。
文字を書く仕掛けのその人形の修理が完成した時、父親からのメッセージを受け取ることができると信じていたヒューゴは、時計台のねじを巻く仕事をしながら懸命に修理を続けたが、胸にあるハート型の鍵穴に合う鍵がない限り人形は動かないようにできていた。

ある時、ヒューゴは駅構内のおもちゃ屋でおもちゃを盗もうとして店主ジョルジュにつかまり、父の書いたノートも取り上げられてしまう。それは生前父親が機械人形の修理方法を書き込んだ大切な形見だったが、ジョルジュはヒューゴに返そうとせず、しかもそのノートにひどくおびえているようにも見えた。
だが、ひつこく返却を懇願するヒューゴに根負けし、店でおもちゃの修理を手伝うなら返すと約束する。
ジョルジュの店で働きだし、機械人形の修理も終わったヒューゴは、ジョルジュの養女のイザベルが首からぶら下げていた物を見て驚いた。

それはあのハート型の鍵だったのだ。
ヒューゴはイザベルを隠れ家に案内し、機械人形に鍵を差し込むと、ついに人形は動き出す。
だが、それは文字ではなく奇妙な絵だった。
人間の顔をした月に弾丸が刺さった絵。
人形は最後にサインを書き綴った。
“ジョルジュ・メリエス”
それはイザベルの義理の父親、おもちゃ屋の店主ジョルジュの本名だった。

予告でファンタジックな映像に心踊らされた人は、映画を観てがっくりしたかもしれない。
これはディズニー映画のように機械人形が本物の人間に姿を変え、別世界の冒険へと連れて行ってくれたりはしないからだ。
だが、私は実話(メリエスのエピソードはほとんど実話)とフィクションが融合した偉大な映画監督の夢敗れた人生が復活するストーリーに魅了された。

この映画のテーマは“心の修理”だと思う。
映画を失ったメリエスは過去を封印し、うらぶれた余生を送っていたが、映画で再び輝きを取り戻す。
ヒューゴと同じように両親を失ったイザベル、メリエスの失われた作品を捜し求める映画学者、戦争で片足の自由を奪われた鉄道公安官、同じ戦争で兄を亡くした花屋を営む女性、子供達をやさしく見守る本屋の老人。
それぞれの人々の心の触れ合いがお互いの心を修理しあい、回りまわってヒューゴとジョルジュを深く結びつけていく。
ハートウォームで、ひっくり返したおもちゃ箱のような美しい映像とともに映画のマジックを愛してやまない監督の映画への愛がじっくりと伝わってきた。

別の日記でも書いたが、この世の中が大きな一つの機械なら要らない部品なんてないんだというヒューゴの台詞がある。
けれんみたっぷりだが、心に強く残った。
この世に生まれた限り、みんなそれぞれにかけがえのない目的と役割がある。

自分にぴったり合うハート(心)の鍵穴がきっとどこかにあるはずだ。