児童養護施設**
虐待や親の失踪などが原因で、
親元で暮らせない子は約4万7千人。
児童養護施設は、
そのうち6割強にあたる約3万人が暮らす最大の受け皿だ。
ノンフィクションライター
橘由歩氏が訪れた施設で目にしたのは、
職員の献身的な努力で何とか安定を保っている危うい現実だった。
悩み苦しみながら、
互いに向き合おうとする子どもと職員の姿を追うなかで、
5歳の女児から言われた一言にショックを受けたという。
* * *
年長児のカホにも驚かされた。
夕食前に幼児室でブロックやおもちゃの車で遊んでいた時のこと。
大人が私一人になったのを見計らったかのように、
カホはこう言い残して部屋を出ていった。
「おばさん、何しに来たの。死ね」
たった今まで無邪気に「遊ぼうよ」と
ベタベタくっついてきていたのに......。
可愛らしい5歳児が、
落ち着き払った態度で大人を罵る様子に私は息を呑んだ。
30代前半の男性職員がこう教えてくれた。
「『死ね』というのは、
あの子が親から言われ、責められてきた言葉です。
ここの子どもたちは、大人が一番嫌だと感じる言葉を言って、
どこまでなら受け入れてもらえるかと大人を試します。
あの子たちなりにSOSを発しているんです」