本日もまた長文です☟




のび太は、学校の前で気がついた。

「扉をくぐる前」と「扉をくぐった後」……
変わったのは、景色だけであり、のび太は相変わらず『のび太』だった。

心配してドキドキしながらドアをくぐりぬけたことも、
ドラえもんと会話したことも、はっきりと覚えている。

●「な~んだ。ボクはやっぱり『このボク』じゃないか。
 心配して損したよ~」

のび太は、元気に教室へ向かって歩き出した。

――――――――――――――――――――――――――――


その同時刻……。

のび太は、暗闇の中で気がついた。

●「あれ?ここは何処だろう?
 ――あ、そうか。
 ボクは 『どこでもドア』 の中にいるのか」

四角い狭い空間だった。あたりは壁で何もない。

することもない、のび太は、しかたなく、
向こうの『のび太』に思いをはせる。

●「………きっと、ボクの肉体の情報が、スキャンされて
 学校にある『どこでもドア』の方では、ボクと同じ肉体の『のび太』が
 再現されているんだろうなぁー。
 でも、あれ?
 なんでボクはまだ意識を持っているんだろう?
 それに……もしも、こうしている間に、向こうの『のび太』が
 すでに再現されていたとしたら――」

のび太が、ふとそんな疑問を持ったそのとき、
どこからともなく『シュー』という音が聞こえてきた。

けむり?

何気なく、手を見ると、

――どろり

指が溶けていた。

●「え?」

カラダが溶けて……いる?

そう気がついた瞬間、

のび太は、『痛み』を感じた。


●「ぎゃアアアアああぁあぁっぁああ
 アアああぁぁああぁっぁああぁ!!!!!!」

カラダ中の皮膚が、ぐつぐつと煮え立ち、ドロドロに溶けはじめていた。

阿鼻叫喚、筆舌に尽くしがたい激痛がのび太に襲いかかる。

●「ドラえもぉぉぉ~~~~ん!
 助けてぇ!助けてよぉ!!」

のび太は、半狂乱であたりの壁を叩きまくったが、
周囲は完全に閉じられており、助けが来そうにもなかった。

(どうして!?
 分子破壊光線で、痛みを感じる間もなく、
 一瞬でコナゴナになるんじゃなかったの!?)

――――――――――――――――――――――――――――


●「おはよー、しずかちゃん!」

●「あら、のび太さん、おはようー」

●「今日はね、どこでもドアで 学校に来たんだ。
 いやあ、最初、怖くてさー」

●「うんうん、わかるわかる。アタシも最初、とっても怖かったわ。
 でも、使ってみるとゼンゼン問題なかったわよね」

●「そうなんだよー。なんであんなに怖かったんだろ。
 それにしても、便利な世の中になったもんだよねえ」

●「ええ、本当に。
 朝、ゆっくりシャワーが浴びれて、とても嬉しいわ」

――――――――――――――――――――――――――――


のび太の生き地獄は、まだまだ終わらない。

肉を飛び散らせながら、体中を掻きむしり、
激痛にのた打ち回っていた。

このどこでもドアが、
「その使用者にあらん限りの苦痛と惨めさを与えてからコロス」
ように作られていることに疑いはなかった。
どこでもドアを作った人間の狂気じみた悪意を感じた。

もはや、のび太に湧き上がってくる感情は、絶望と後悔だけだった。

 そうだよ!よくよく考えれば、わかりきったことじゃないか!
 自分のカラダが壊されるより前に、
 「すでに学校でのび太が再現されてしまっている状況」だって、
 充分、考えられたじゃないか!

 だとしたら、はっきりしている!
 学校の『のび太』は、絶対に「このボクと同一人物」なんかじゃない!

 だって!
 「この痛み」を感じているのは
 「このボク」だけじゃないか!

 逆に、向こうののび太が、怪我しようが死のうが、ボクにはわからない!
 何も感じることができない!
 ようするに、『他人』だってことだ!

 偉い学者たちは、物質的観点から、ふたりは同一人物だというかもしれない!
 友人たちは、どちらも同じ記憶を所有する「のび太」であり、
 会話しても区別できないのであれば、
 両方とも「のび太」だというかもしれない!

 そんなことを言うヤツラは、実際に、どこでもドアに入ってみればいい!

 自分とまったく同じ人間ができようがどうしようが、
 はっきりしていることは、

 この世界で、この痛みを感じているのは、
 このボクだけだ!

 という事実だ!!
 
 『この世界』の中で、
 実際に 『この痛み』や『この惨めさ』を感じているのは、
 『このボク』だけであり、『このボク』でしかありえないんだ!

――――――――――――――――――――――――――――


●「そうそう、のび太さん、
  今度みんなで、スネオさんの別荘に遊びにいく計画があるんだけど」

●「え?ほんとー?いくいく!絶対いくー!でも、別荘って遠いのかなあ?」

●「うん、少し遠いみたいだけど、どこでもドアがあるから、一瞬よ。
  うふふ、たのしみだわー」

――――――――――――――――――――――――――――


もはや痛みすら感じることもできない、もうろうとした意識のなかで
のび太は夢をみていた。

――世界中の人間が、楽しそうに笑いながら、
どこでもドアを出たり入ったりして、どんどんと発展していく社会の夢を。

たぶん、このコトは、社会的には絶対に表面化しないだろう。
おそらく、学校にいる『のび太』は、どこでもドアに対する恐怖心を無くし、
今後は、当たり前のように、どこでもドアを使い続けるはずだ。

そして、これからも社会や、国家や、家族は、なんの問題もなく、継続する。
むしろ、今まで以上に発展するだろう。

人々が楽しそうに生活している映像が見える。
平穏な日常、便利な世の中、豊かな社会、どこにもおかしなものはない。

それでものび太は呟く。『こののび太』 だけが呟く。

●「こんな世界・・・狂ってる・・・・」

だが、のび太はふいに気がつく。
そんなことは、どこでもドアが発明されるよりも前に、
最初から、この世界に内在していたことじゃないか。

――「死」という形式で。

もはや誰がみても、『のび太』とは識別できないであろう肉塊は、
最後にこう呟いた。

●「死にたくない、消えたくない、ボクは、のび太だ」


(続く)




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