ご存じ怪盗猫娘外伝 その男ユーゴ | 高須力弥のブログ「ローレンシウム荘事件」

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 ご存じ怪盗猫娘外伝 その男ユーゴ



 プロローグ

 暗い殺風景な部屋の中に海賊のような服装の男がいた。
部屋の床には人骨が散らばっていた。
部屋の奥には鉄格子があり、その向こうから獣の低い唸り声が聞こえてきた。
鉄格子が音を立てて独りでに開いた。

 鉄格子の奥から巨大な白い虎が姿を現した。
白い虎は男に近づくと唸り声を挙げながらその鋭い爪で男の腕を切り裂いた。
身を守ろうとした男の腕から真っ赤な血しぶきが飛び散った。

 さらに白い虎は男の喉笛に喰らいつこうと牙を剝き出して飛び掛かった。


 1

 西暦2980年、ユーゴが怪盗猫娘と出会う3ヶ月前。
ユーゴたち盗賊4兄弟は盗賊として名を上げつつあった。

 イコマイヤーの船内で、マナブがユーゴに報告した。
「兄さん!カケルが今夜名古屋港でダイモンシンジケートがヘロインの取引をするという情報を掴んで来ました!」

「そうか!ここはひとつ取引現場に乗り込んで、現金をいただいてやろうじゃねえか!フトシ!すぐに準備を始めろ!」
ユーゴが叫んだ。

 その夜、ユーゴとフトシは名古屋港へ出向き、現金の入ったトランクの受け渡し現場を襲撃した。
ユーゴとフトシはダイモンシンジケートの手下たちを蹴散らし、トランクを奪って逃げ去った。



 幕間1

 男は素早い動きで隠し持っていた鋼鉄製のトランプのカードを取り出し、虎の眉間に投げつけた。
眉間にカードが突き刺さった虎の目から光が失われ、虎は動きを止めて倒れていった。
男は鉄格子の奥に進んで行った。

 そこには生まれて間もないと思われる虎の赤ん坊が眠っていた。
その男、盗賊団「ブラックジャック」のリーダーのトウマはその赤ん坊を抱き上げた。



 2

 ユーゴは現金の詰まったトランクを持ってフトシとイコマイヤーに向かっていた。

 ユーゴとフトシの前方に上半身裸の長髪の逞しい男が立ち塞がっていた。

その男はフトシと同じ位の背丈で、全身の筋肉が異様に盛り上がり、まるで岩の塊のようであった。
男は両腕に力を込めた。すると上半身の筋肉が一斉に動いて不気味な音を立てた。

 男は ニヤリと笑いながら指で二人を挑発した。

 ユーゴとフトシは男に向かって行き、同時に蹴りを入れた。
しかし、男によってあっさりはじき返されてしまった。

 「兄貴!こいつは俺に任せるんだな!」
フトシは男と四つに組み合い、男の胴を締め上げた。
男はまったく苦しむ事無く、逆にフトシの胴を締め上げた。
フトシの背骨がごきりと音を立てた。

 フトシが呻き声をあげ、男が力を緩めるとフトシは地面に崩れ落ちた。

「フトシ!しっかりしろ!」
ユーゴはフトシに駆け寄った。

 男はユーゴの胸に鋭い突きを入れた。
ユーゴはその場に倒れた。

 男は倒れたままのユーゴとフトシを残し、トランクを手にその場を去って行った。

 しばらくして意識を取り戻したユーゴは胸から何かを取り出した。
それは古い懐中時計だった。
その懐中時計は粉々に砕けていた。



 幕間2

 トウマは拾った虎の赤ん坊を育てていた。
赤ん坊は「シーザー」と名付けられ、4兄弟の遊び相手になっていた。

 ユーゴが口笛を吹くとシーザーが駆け寄ってきた。

 ある時ユーゴはシーザーと野原で遊んでいた。
ユーゴは突然現れた野犬に襲われた。
シーザーはユーゴを守って右眼に傷を負った。

「シーザー!」
ユーゴは叫んだ。

 シーザーは野犬ともつれ合いながら崖から落ちて行った。

 それがユーゴとシーザーの別れだった。



 3

 ユーゴは重傷を負ったフトシをイコマイヤーに運んでマナブに預けた。

「フトシはしばらくの間安静が必要ですね……。」
マナブがユーゴに言った。

「マナブ。フトシをよろしく頼む。俺は行かなくちゃならない所があるんだ。」
ユーゴはそう言ってイコマイヤーを出て行った。


 ユーゴはある古びた教会を訪ねた。
玄関には中学生ぐらいの少女がいた。

「この教会に何の御用ですか?」
少女はユーゴに尋ねた。
「鷲崎神父はいるか?」
ユーゴは少女に尋ね返した。
「お父さん…鷲崎なら今礼拝堂にいますが…。」
ユーゴはその答えを聞くやいなや礼拝堂に入って行った。

 礼拝堂には神父の服装の年老いた男がいた。
「父さん!」
ユーゴが叫んだ。
「ユーゴか?」
男が叫んだ。
 
 この鷲崎神父は親を失った4兄弟を自分の子供のように育ててくれた恩人であった。
4兄弟は鷲崎神父を「父さん」と呼び、「おやじ」と呼んでいたトウマとは呼び分けていた。

 ユーゴは鷲崎神父と再会の喜びを分かち合った。

「この子はエリナ。お前たち兄弟が私の元を去ってから私が育てている子だ。」
「はじめまして。ユーゴさん。あなたたち兄弟の事は以前からお父さんから聞いていました。」

ユーゴは鷲崎神父からもらった懐中時計のおかげで助かったことを伝えた。

「そんな事があったのか……。ユーゴ。 そんな危ない目にあってもまだ盗賊稼業を続けるのか?」
鷲崎神父はユーゴに尋ねた。

「父さんには悪いけど、俺はおやじの後を継いで、世界一の大泥棒になるんだ!父さん。また来るぜ!」
そう言うとユーゴは教会を出て行った。



 幕間3

 古びた洋館の一室でユーゴたちを倒した男がダイモンシンジケートの幹部に報告していた。
「ヘロインの取引現場に乗り込んで金を強奪した者達を始末して、盗まれた金を回収しました。」

「その男はまだ生きている……。」
幹部が威厳ある声で答えた。

「何ですと!」
男が叫んだ。

「あの男はこの私が責任を持って始末する。ヤン。お前はあの男をこの館におびき寄せるのだ。」
幹部が力強く言った。



 4

 数日後、ユーゴは再び教会を訪れた。

 ユーゴにエリナが
「ユーゴさん!お、お父さんが悪い奴らに誘拐されました!」
とあわただしく告げた。

礼拝堂に残されていた手紙に洋館の場所と「神父を助けたくばここまで来い」との言葉が書かれていた。




 ユーゴはダイモンシンジケートの基地である古びた洋館に潜入した。
洋館の中には人の居る気配は無かった。

 ユーゴは廊下を進んで行った。
突然、ユーゴの足元の床が開き、ユーゴは真下に落ちていった。
そして床は即座に閉じた。

 ユーゴが落ちた先は暗い部屋の中であった。

 檻の奥から巨大な白い虎が姿を現した。
その右眼には古い大きな傷があった。

 虎の右眼の傷を見たユーゴは
「お……お前……シーザーなのか?」
と叫んだ。

  虎はユーゴに敵意を露わに襲い掛かろうとしていた。

「俺だよ!ユーゴだよ!忘れたのか!?」
ユーゴは口笛を吹いた。

 シーザーは急に大人しくなって懐かしそうにユーゴにじゃれかかった。
「シーザー!思い出してくれたんだな!!」
ユーゴはシーザーの頭を撫でた。

 ユーゴはシーザーと一緒に部屋を脱出した。

 ユーゴたちに武器を手にした手下たちが襲い掛かって来た。

 シーザーは立ちはだかった手下たちを次々となぎ倒していった。



 5

 館の2階に進んで行くと、広間があり、シーザーは突然上から落ちてきた網に捕えられた。
「シーザー!」
ユーゴは叫んだ。

ユーゴの前にユーゴたちを倒した男が現れた。
「俺の名はヤン!今度こそ俺の空手でお前をあの世に送ってやるぞ!」

「俺は盗賊4兄弟の長男、スペードのユーゴだ!お前たちがさらった俺の父さんを返せ!」

 ヤンはふてぶてしく笑ってユーゴに攻撃を開始した。
ヤンの凄まじい攻撃に対してユーゴは防戦一方であった。
ユーゴはヤンに持ち上げられ、壁際に投げ飛ばされた。
ふらつきながら立ち上がったユーゴにヤンが猛突進した。

 絶体絶命のその時、シーザーがユーゴに声を上げた。
その声を聴いたユーゴはヤンの猛突進を危うくかわした。

ヤンは凄まじい勢いで頭から壁に激突し、壁にめり込んだ。
壁から抜け出し、振り向いたヤンの顔は額から流れる真っ赤な血に染まっていた。

ユーゴはその機を逃さず、ヤンに渾身の飛び蹴りを食らわせた。
ヤンは床の上に倒れ伏し、動かなくなった。

「シーザー!よくやってくれた!お前の助けが無かったらあいつには勝てなかったぜ……。シーザー。ここから先は俺一人で行く。すまないがここで待っていてくれ。」
ユーゴはシーザーに言い残して部屋の先にある3階への階段を上って行った。



 6

 ユーゴが幹部の部屋に入った。
部屋の中で男が椅子に腰掛けて後ろの壁側を向いていた。

「お前がダイモンシンジケートのボスか!」
ユーゴが叫んだ。

「よくぞここまで来た。…………ユーゴよ。……」
男は椅子を回転させてユーゴの方を向いた。

「父さん!」
その男は鷲崎神父であった。



 鷲崎神父はユーゴに語りかけた。
「私はお前たち兄弟を育てる以前からダイモンシンジケートの幹部だった。だが、お前たちを愛する気持ちには嘘偽りは無い……」

「ユーゴ、私の右腕となって組織のために働いてくれ。」

「父さん……俺たち兄弟はワルだけど、弱い者を踏みにじるような奴らとは絶対に手を組まねえ!」

「…………そう言うだろうと思っていた。ユーゴ。私と戦う覚悟は出来ているな。」

 鷲崎神父は右手に金属製の爪を装着し、ユーゴに襲い掛かった。

ユーゴは鷲崎神父の攻撃をよけ続けていたが、鷲崎神父を攻撃する事は出来なかった。

 鷲崎神父はユーゴの首に爪を突き刺そうとした。

だが、ユーゴの背後から手下の一人が銃口をユーゴに向けていた。

 それに気付いた鷲崎神父は咄嗟にユーゴと手下の間に立ち塞がり、ユーゴをかばって撃たれた。

 鷲崎神父は撃たれながらも手下に向かって金属製の爪を発射した。
爪は手下の胸に突き刺さり、手下は倒れた。
鷲崎神父はその場に倒れ伏した。

 ユーゴは鷲崎神父を抱き上げた。
「父さん!何で!」

「ふっ、やはり私には愛する息子を殺す事は出来なかった……。」

「父さん!しっかりしてくれ!」

「ユーゴ……お前も……愛する者を……守れ……」

「父さあああああん!!」

 鷲崎神父は目を閉じて動かなくなった。






 エピローグ

 ユーゴはイコマイヤーにシーザーを連れて帰った。
弟たちはシーザーとの再会に喜びの声をあげた。

「シーザー。これからは俺の相棒としてよろしく頼むぜ!」
シーザーは声をあげてうなづいた。

 ユーゴは叫んだ。
「次のターゲットはアレマ神殿の黄金の女神像だ!」



 To be continued in ご存じ怪盗猫娘