1
翌朝マオは動かなくなったピコを抱いて博士のジャンク屋を訪ねた。
「おお、おはようマオ。こんな朝早くからいったい何の用じゃね?」
博士はマオに言った。
「博士に診てもらいたいものがあるの!このピコが突然動かなくなったの!お願い博士!ピコを直して!」
マオは博士に頼み込んだ。
「んー?このロボットは以前わしの店にあったやつに似とるな……。どれどれ……。」
博士はマオからピコを受け取り、作業台の上に乗せ蓋を開けた。
しばらく無言でピコの内部を調べていた博士が口を開いた。
「これは……。なんと高度なロボットじゃ……。こんなロボットを造れる者がわしの他にも居たとは……。」
そしてマオの方を向いて呟いた。
「そうか……そういうことか……。」
「ねえ。博士はロボット工学の第一人者だったんだって?それがなんでこんな小さなジャンク屋……失礼。に引きこもっているの?」
マオは博士に尋ねた。
山野田博士は深く息を吐いて言った。
「紅茶でもいれよう……。そこで待っていてくれ……。」
博士は応接室の扉を示した。
2
しばらくして博士は2人分の紅茶とクッキーを持って応接室に入って来た。
「マオは「大災厄」についてどれくらい知っておるかな?」
博士はマオの向かい側のソファーに腰掛け、マオに尋ねた。
「私が生まれる前に起きた大きな災害って事ぐらい……。学校でもなにも教えてくれないし……。」
マオは答えた。
「そうじゃろうな……。じゃあしばらくわしの話につきあってくれ……。」
博士は大きなため息をついて話し始めた。
3
20年前に突然東海地方全域を襲った「大災厄」によって名古屋は壊滅的なダメージを受け、多くの人命が失われた。
だが、その記録は時の政府によってほとんど封印されて、その全貌を知る者はほんどいなかった。
博士は「大災厄」の時に妻と息子夫婦、まだ幼かった孫を失い、絶望して生きる望みを無くしていた。
海上都市シン・ナゴヤはその後に大改造された。
4
博士は話し終わるとマオに尋ねた。
「わしからもマオに質問がある。マオはわしに隠している事はないかね?」
「博士。聞いたら驚くと思うんだけど……。」
マオは覚悟を決めて博士からピコを貰ってからこれまでに起こった事をすべて打ち明けた。
マオから話を聞いた博士はしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「事情はわかった。ピコはこのわしが直してやろう。ただし!二つ条件がある!」
「一つ目は例え自分の身が危なくなろうとも絶対に人の命を奪わない事!」
「わ、わかりました!ふ、二つ目は?」
博士が間をおいて言った。
「わしをお前さんがたの仲間に加えてくれ!」
博士は笑った。
「はい!大歓迎です!」
マオはにこやかに答えた。
それから博士は作業場に籠っていた。
そして3日後、博士が作業場から出て来た。
「ピコが直ったぞ!マオ!」
5
マオは猫娘に変身して、直ったピコと一緒に博士をイコマイヤーに連れて行った。
「すでに猫娘から聞いておるじゃろうが、今度君たちのお仲間に加えてもらう事になったロボット学者の山野田工作じゃ!以後よろしく頼む。」
博士はクロネコブラザーズに向かって頭を下げた。
「イコマイヤーにようこそいらっしゃいました!おれは猫娘姐さんの一の子分。クロネコブラザーズの長男スペードのユーゴと申します!」
「山野田博士!はじめまして!ぼくはダイヤのマナブと申します。博士のご高名はかねがね……」
「お、おれはクラブのフトシなんだな。よろしくなんだな。」
「おいらはハートのカケル!博士よろしく頼むぜ!」
兄弟たちは順番に博士に挨拶した。
「ガオン!」
シーザーも博士に向かって返事をした。
猫娘の正体が野々原マオである事をクロネコブラザーズに知られないように、博士はマオから念を押されていた。
その後、博士は一人で甲板に出て夜風に吹かれていた。
「何という運命のいたずらか……。トウマ、スミレさん。これで良かったんじゃよな……。」
博士は誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
6
暗い部屋でルシファーがグレイに話しかけた。
「グレイ。あなたにやってもらいたい事があります。」
「はっ。何なりとお申し付けください。」
グレイが答えた。
ルシファーがグレイに命令の内容を告げた。
「了解いたしました。ご命令を必ず完了してまいります。」
グレイは顔色も変えずに答えた。