第3話 サザンクロスの猟犬
1
猫娘に忠誠を誓った盗賊四兄弟改め「クロネコブラザーズ」は、ユニフォームとして黒い猫耳帽子を被っていた。
彼らは猫娘の指示があるまでイコマイヤーの中で待機しているように命じられていた。
「兄さん!父さんたちの事件の新たな情報が入りました!」
マナブが叫んだ。
「何っ!」
ユーゴが叫んだ。
「どうやら10年前のあの事件にはダイモンシンジケートが関わっていたらしいんです!」
「ダイモンシンジケート」とは、日本の裏の世界を牛耳っていると囁かれている巨大な秘密犯罪組織であった。
多くの下部組織を持ち、警察でもその全貌を把握できてはいなかった。
「この場所にダイモンシンジケートの下部組織があります!潜入して詳しく情報を得ましょう!」
マナブがパソコン画面上の地図を見ながら言った。
「前回の事もあるし、カケル1人じゃ危ない。俺は姐さんの指示があるまでここを動けないから今度の潜入調査はカケルとフトシとシーザーに行ってもらう。くれぐれもこの事は姐さんには秘密だぞ。」
ユーゴが言った。
2
晴れた日曜日、マオ、想一、未央奈の3人は連れ立って街を歩いていた。
未央奈の母への誕生日プレゼントを選ぶためだった。
マオが、走って来たアロハシャツにサングラスの男にぶつかった。
「おい!お前たち!この辺りで財布をひろわなかったか?嘘をつくとためにならねえぞ!」
サングラスの男が叫んだ。
「きゃっ!ヤクザ!?」
未央奈が叫んだ。
「ぼ、僕たちは何も拾っていませんよ!」
想一が叫んだ。
もう一人ポロシャツの男がこちらに走って来た。
「先ぱーい!」
ポロシャツの男が叫んだ。
「君たちすまなかったね。僕はシン・ナゴヤ署の刑事で松池。あの人は僕の先輩刑事で八木沢というんだ。今日は非番で久しぶりに映画でも観ようと思ったんだが先輩が財布を落としてしまってね……。」
松池と名乗った男が言った。
「いや!しっかり者の俺が財布を落とすはずがない!きっと猫娘のやつが俺の財布を盗んだに違いない!」
八木沢が言った。
猫娘の名前を聞いてマオはギクッとした。
「刑事さん。猫娘は悪い奴からしか盗みませんよ。あはは……。」
「んー?お嬢ちゃんやけに猫娘の肩を持つな……。ちょっと署まで来て話を聞かせてもらおうか……。」
「先輩!いい加減にしてください!今日は僕が払いますから後で交番に報告しましょう!」
「おっ、お前がおごってくれるのか?」
「僕のおごりじゃないですよ!給料が入ったらちゃんと返してもらいますからね!」
「ちぇっ!甘くねえな。お嬢ちゃんたち、疑ってすまなかったな。じゃあな。」
そう言って二人の刑事は去って行った。
3
ある夜猫娘、ピコ、ユーゴは悪徳政治家から奪った財宝を持ってイコマイヤーに向かって走っていた。
人気のない廃工場の裏に差し掛かった時、突然廃工場のシャッターが破れ、中から巨大な人影が飛び出した。
「なんだあれは!?」
ユーゴが叫んだ。
それは全身が黒い大きな人型ロボットであった。
胸に金色の十字型の浮き彫りがあった。
犬の様な顔をしており、その目は赤く輝いていた。
ロボットはいきなり両手を突き出して猫娘に掴みかかって来た。
猫娘は素早く後ろに跳んでロボットの攻撃を逃れた。
猫娘はロボットの大腿部にスタンロッドを叩き付けた。
しかしロボットには全く効果が無かった。
他の部分にも何度も叩き付けてみたが、結果は同じだった。
ロボットの両手が猫娘の両肩を掴み、持ち上げた。
猫娘はスタンロッドを取り落とした。
「くそっ!こんな時にフトシが居りゃああの怪力であのデカブツを叩きのめしてくれたかもしれないのに……。」
ユーゴが呟いた。
「あの十字型の部分は他の部分と違う素材で出来ています!あそこならスタンロッドが効くはずです!」
ピコが猫娘に叫んだ。
「姐さん!」
ユーゴが猫娘に向かってスタンロッドを放り投げた。
猫娘は投げられたスタンロッドを掴んだ。
猫娘はロボットの十字型の部分にスタンロッドを突き刺した。
急にロボットの目から光が消え、猫娘を掴んでいた手を離した。
ロボットは両膝をつき、動きを停止した。
彼女たちの戦いの一部始終を、離れた場所からマントを羽織った少年「ルシファー」が密かに見ていた。
「とんだ邪魔が入ったな。まあいい……。"サザンクロス”以外にも「あれ」を取り戻す手段はいくらでもある……。」