『Sailing my life』
平原綾香さんと藤澤ノリマサさんの「sailing my life」が発売された。いつものように、発売日前日に入手。
とても素敵な仕上がりになった。
まず、なんといってもベートーヴェンのメロディの良さは鉄板だ。この「悲愴 第二楽章」のメロディは。200年も前に書かれたメロディだというのになぜ、こんなにも洗練されていてモダンなのか。多くの人々が演奏してみたくなったり、自作に取り入れてみたくなるのもむべなるかな。一見、隙間だらけに見えるほど最小限の音数がここぞという位置に配置されているからか。モノトーンのようにシンプルで奥が深い。
さて、今回の「sailing my life」、いくつかの点で、とてもユニークな音づくりだと感じた。
イントロはちょっとADIEMUSというか、まさに海洋映画の主題曲という始まりかたなんだけど、歌がはじまると、その音は奥へ引っ込んで、原曲に近いテイストのピアノが代わりに前に出てきて、伴奏になる。その移り変わりかたが、通常の変奏というよりは、異なる曲をクロスフェードでつなぐようなイメージになっている。
あーやがはじめに歌って、その後同フレーズを転調、藤澤ノリマサさんが歌うのだが、歌唱法の違いもあって、これがまた違う曲のように聴こえる。
言ってみれば、ヒーリング系のイントロ、あーやのボーカル、藤澤さんのボーカルが三者それぞれ別の曲として並行している感じだ。
で、そのまま最後まで行くと、バラバラなイメージの曲でしたねで終わっちゃうんだけど、後半のリズムが三連になるところで見事に統合される。
主題歌を依頼されたときって、たぶん「どんなアプローチをしよう?」って結構悩むんだろうと推察するけど、今回これは、音楽で”もうひとつの映画”を作ろうとしたのかなぁ…
そして、もう一曲の「AIR」。これはなんとバッハの「G線上のアリア」。
なんとあなた、今回初めて知ったけど、アリアのことを「Air」というんですってよ。面白いなぁ。形式が"Air"であるとともに、詞の内容は"空気"にリンクしていて。
これも、「悲愴」に負けず劣らずポップス系のひとにも多大な影響を与えていて、有名すぎる名曲。たぶんどんなに音楽を聴かないひとでも一回や二回は聴いたことあるんじゃないだろうか。
一聴してまず感じるのはふたりのボーカルの定位が、あたかも実際に眼前で歌っているように中心から左右に離れていること。デュエット曲とはいえ、ふつうはだいたい、少なくともどっちかひとりだけが歌っているときは、歌を真ん中に定位すると思うんだけど、このCDでは両曲ともにそうはなっていない。
なので、あたかも現実のステージが展開しているかのようなイメージ。とくに「AIR」のほうはアレンジともあいまって、オペラチックに聴こえる。
原曲のメロディに、別のカウンターメロディを別の歌詞で歌って、ひとつの曲になっている。音色はヴァイオリンのあーやとヴィオラの藤澤さんという感じだ。間奏ではそれが弦楽に引き継がれていくよう。オケは、ピアノ五重奏状態。
今まで聴いたデュエット曲の中で、いちばん品の良いデュエット曲のような気がする(笑)。
最後に言葉についてひとつ。”終わりを恐れないで 苦しいときほど 信じることさ”と、今言ってもらえてうれしい。
若いときは漠然と、30、40歳にもなったら悩みなんてなくなるんだろうなぁと、根拠もなく思っていたのだが、全然そんなことなかった。今も相変わらず、あっちへ右往、こっちへ左往、のたうちまわる毎日なのだった。そんなときはどうするかっていうと、結局のところ、こんなふうに届けて貰った、ふところに入れたカイロのような言葉をぎゅっと握って、また冷たい水に飛び込んでいくのですよ、人生っていうのは、ねえ?(笑)