熱中症の病態と分類
熱中症は,高体温症候群を構成する疾患群の重要な病態の一つである。
発症には環境因子(労作環境)だけでなく、薬物(または毒素)誘発や遺伝的素因の影響を受けることが知られている。熱中症は「暑熱環境下にお ける身体の適応障害によって生じる状態の総称」と定義される。主病態は,環境や筋肉運動による深部体温の上昇と、その熱を体内から放出するための生理的反応である。
発汗と不感蒸泄の増大による脱水の進行,さらに放熱のために皮膚表面の毛細血管が拡張し,循環
血液量の減少が相まって臓器虚血が進行した結果生じる,高体温による臓器障害である。
① 暑い環境下での古典的熱中症
② 暑熱環境での筋肉運動による労作性熱中症
に分類される。発生時の状況により鑑別しておくことは,治療の選択や予後予測に重要となる。
日本救急医学会「熱中症に関する委員会」の分類では,暑熱障害を「熱中症」と統一したうえで,重症度,対処法,予後などを I~Ⅲ度の 3 段階に分けている。

病態生理と臨床症状
中枢神経系
熱中症患者では,代謝障害,脳浮腫,虚血によりせん妄,けいれん,嗜眠,昏睡などの中枢神経症状を呈する。小脳はとくに高温環境に鋭敏に反応する中枢神経臓器である。神経学的合併症は,頭蓋内出血,脳梗塞,脳浮腫,中枢性橋髄鞘溶解や ギランバレー 症候群に代表される脱髄病態の報告がある。頭蓋内出血は,熱中症に伴う播種性血管内凝固に関連して急激に発症する。脳梗塞は,血液濃縮の血栓促進作用による脳血栓症から生じる。
循環器系
熱中症患者では循環血液量が不足している場合も多く容易に低血圧となる。体温上昇に伴って生成される一酸化窒素による血管拡張は,さらに低血圧を助長する。進行した場合は全身血管抵抗の上昇,心拍出量の低下,肺血管抵抗の変化により多彩な血行動態を呈する。
心電図では,洞性頻拍・上室性頻拍・心房細動などのリズム障害や,右脚ブロック,心室内伝道障害などの伝導障害も観察される。QT 延長は低マグネシウム血症・低カルシウム血症・低カリウム血症の結果発生し,心筋虚血を意味するST 変化は頻脈や酸素需要の増大の結果として生じる。
呼吸器系
熱中症では,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による二次的呼吸不全を引き起こす可能性がある。ARDS 合併熱中症では,PaO2 /FiO2 比の低い低酸素血症が生じる。古典的な熱中症の場合は呼吸性アルカローシス,労作性熱中症の場合は代謝性アシドーシスが観察される。
熱中症の病態と予防・治療
熱中症は水分と塩分の喪失により直接的に循環血液量減少をきたすとともに,高サイトカイン血症も惹起されることで血管透過性が充進して循環血1液量減少を引き起こしたり,血管内皮障害によりDICを引き起こしうる2)。したがって治療として冷却とともに,DICの治療や輸液を含めた呼吸循環管理が必要となってくる。輸液については経口もしくは輸液での細胞外液の補充が非常に重要である。熱中症の予防や治療として,まず水分と塩分を適切に含まれたものを経口摂取することが推奨されている。具体的には市販の経口補水液などが挙げられる。そして重症な症例では大量の輸液を要することもある。他にはDICに対する治療や呼吸循環管理が行われることになる。
熱中症は暑熱環境に曝露されることで発症するため,暑熱環境を避けられれば,熱中症は予防可能である.熱中症のリスク は湿度にも影響される.なぜなら人間の生理学的冷却システムである発汗は,汗が蒸発することで体の体温を下げるが,高湿度下では汗が蒸 発せず体が十分に冷却できないからである. また輻射熱も体温の上昇に関わっており,単純 に気温だけでは熱中症のリスクを評価することはできない.そのため,気温・湿度・輻射熱を同時に評価した暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature: WBGT) が熱中症リスクの指標 として広く使用されている.WBGTは1954年 に提唱され,黒玉・湿玉・乾玉の3つの温度を 測定し,「WBGT=(0.7×湿球温度)+(0.2×黒球 温度)+(0.1×乾球温度)」の計算式で求められ る.「熱中症診療ガイドライン2024」では熱中 症のリスク判定にWBGTを用いることを推奨 しており,例えばWBGTを基に日本生気象学 会,日本スポーツ協会がそれぞれ日常生活や運 動の基準を提唱しており,WBGTが28以上は 熱中症のリスクが高いため激しい運動を控え, 31以上は原則として運動を控えることが推奨 されている。 各地のWBGTは現在スマートフォンの天気 アプリなどで比較的容易に知ることができる. また環境省・気象庁が合同でWBGTを基にした熱中症警戒アラートを発令しており,真夏の 運動や屋外活動における熱中症リスク評価として利用可能である.

熱中症の輸液管理
病態が細胞外液の喪失であることから,基本的に細胞外液の補充が必要であり,輸液製剤としては細胞外液製剤もしくは生理食塩水を投与する。重症例では大量輸液が必要となり,さらに体温を下げるためにも冷却した輸液を投与する。一方で運動や労働により発生する労作性の熱中症よりも,高齢者や基礎疾患のあるような体温調節機能が低下した方が高温多湿の屋内で重症化するようなケースも少なくないと思われ,このようなケースではベースの心機能や腎機能の問題等も懸念され,過剰とならないよう適切な輸液量が重要である。そして重症なケースでは熱中症により急性腎障害をきたすケースもあり,輸液量については尿量だけではなく,総合的に体液量を評価しながら決定していく必要がある。また熱中症では水分とともにNa等の電解質も喪失しているため,水分の補給に加えて適切な電解質の補給が重要である。電解質異常については日本救急医学会の熱中症に関する委員会が行った過去の報告では,血中Naの異常を示す例は525例中6%に認められ,2%が高Na血1症(日常生活中の高齢者),4%が低Na血症(中壮年の肉体労働者)であった3)。他には発汗過多や腎機能障害により,血清Kの異常やアシドーシスも起こり得ると思われる。このような電解質異常の状態に応じて適切な内容の輸液を選択する必要があるが,基本的には主に水とNaが不足しているはずで,細胞外液の補充が
基本である。一般的に生理食塩水の方が細胞外液製剤よりも輸液中のNa濃度は高く,生理食塩水はKフリーだが細胞外液製剤はKを含有しており,また生理食塩水は大量投与で希釈性アシドーシスを起こす可能性がある点等には留意が必要である。
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熱中症の鑑別診断
体温上昇を来す疾患全てが鑑別疾患となる. 最も重要な鑑別疾患は感染症・敗血症である. 感染症以外には意識障害を呈する病態,例えば 脳卒中なども鑑別に上がる.これらの病態は熱中症と合併していることも多く,鑑別困難なことも少なくない.また覚醒薬や危険度ドラッ グなどのある種の薬物は摂取により高体温となる. 熱中症には特異的なバイオマーカーや画像検 査がなく,診断するには暑熱環境曝露の病歴が 最も重要である.そのため,そのような病歴が 明らかでない場合は熱中症と診断することが難しいケースも少なくない.しかし重症熱中症で は診断を待っていては治療が手遅れになること もあり,確実な診断よりも熱中症と疑った場合 は速やかな治療=冷却を開始することが重要である.
治療法
熱中症における治療で最も重要なのは冷却である.臨床的に用いられている冷却方法にはさまざまなものがあるが,「熱中症診療ガイドライ ン2024」では冷却輸液やクーラーの効いた部屋 で休むことは「Passive Cooling」と定義されて いて軽症患者(I・II度)には広く用いられる。一方重症患者に対しては有効性を示すエビ デンスは存在していない。重症患者あるいは重症と思われる患者に対 しては深部体温の測定とActive Cooling(熱中症に対する積極的な身体の冷却)が必要 である.熱中症患者では体表温(腋窩温)は発 汗や冷却の影響で正しい数値を示さないことが多々あり,深部体温(直腸温・膀胱温・血管温 など)を測定することが重要である.Active Cooling で臨床的に用いられるのは,蒸散冷却法,冷水による胃・膀胱洗浄,冷水浸漬(cold water immersion: CWI),血管内カテーテルや 体表冷却パッドなどの特殊なデバイスを用いた 冷却方法などさまざまな冷却方法が存在する.例えば蒸散冷却法は微温湯で体表を濡ら し,送風により水を気化させ,気化熱で体温を 奪うことにより体温を冷却させる方法である. 安全で簡便な方法であり,救急現場において広 く用いられている.一方,冷水浸漬は冷却ス ピードでいえば最も速いことが各種の論文で 示されている

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