残すところ5ヶ月となりました博士課程。

 

題にあるとおり、Ph.Dの取り方について思うことがあるので留めておきます。

 

ここイギリスでは工学系の最高学位が実は三つほど存在しています。

 

DSc > Ph.D, Eng.D

 

です。このDscってやつは博士号の有無に関わらず科学技術に多大なる貢献をしたとされる人を勝手に博士号をあげちゃおうという物です。コレがあると、名前の前はDrとなります。

私のお師匠さんは学部卒でしたが、DScを持っています。彼の父も数学でDScだったと思います。恐らくDr of Sienceだと思います。

 

日本では論文博士というのがあると思いますが、それと似た制度ですが日本の論博はちょっと怪しいというか、よー分からん人でも取っているのと比べると、制度は似ていますが格が全然違います。教授クラスでもナカナカDScはいないですね。本当に優秀かどうか?が問われる学位です。

 

それでEng.Dですがコレは4年間のコースで、実際の産業に巻き込まれながら学位を取得をするというモノで、日本語だと「工学博士」に相当するのだと思います。

 

ぶっちゃけ Ph.DとEng.Dの差は殆どないと思いますが、Ph.Dの方が少しアカデミックかなぁと言う感じです(お金にならないかなぁと言う感じ)。

 

最後に私のやっているPh.Dですがこれは自然科学に対して哲学をしたということでいただけます。工学という分野を通して哲学をしたという解釈です。もちろん自然を数式で表現することが自然科学の哲学ですから、私も例外では無いと思います。

 

「だったらちゃっちゃとPh.Dを取ったらいいじゃないか?」という意見も有るかと思いますが、Ph.Dのコンセプトは研究者の育成なので特定の分野にフォーカスして研究をするということからすると少しずれています。面白いのは修士までと全然違う分野で学位取得を目指す人がかなり多いです。

 

つまり汎用的研究者育成と言うことです。この制度によって様々なジャンルの人間がクロスする機会が与えられ、研究の幅がグッと広がります。この点は日本には無く、大変優れていると思います。一方で、深くトコトンやるという観点からはちょっと弱いですね。

 

Eng.Dはプロジェクトベースなので、明確なターゲットがありそこに向かって努力をします。途中でテーマ変更などは許されません。Ph.Dなら研究の途中で生まれてくる結果によって方向性を色々変えられる可能性は有ります。

 

 

当初、コチラに来た歳に先生から「ラボワークメインの研究」を強く勧められました。多分そうなるのだろうなぁと思ってはいましたが、三年間はしっかりと基礎を作りたいと思っていたので余り乗り気じゃなかったんですね。

 

ラボワークは取り掛かりが簡単です。手を動かしてじゃんじゃんサンプル作って評価すればいいので。一方で作業以外の能力がつきにくいです。つまり大切な三年間を「装置の使い方をマスターする」ことに捧げてしまう可能性が有ります。

 

このような科学分野もあるかと思いますが、私としてはこういう作業ベースの思いつきベースの研究は誰でもできると思ってしまう節があるので、最高峰の学位でやるべきでは無いと思っています。まぁ論文読めば直ぐに「理解の浅さ」が露呈します。従って実験結果をひたすら並べて、回帰分析やって「相関あります」みたいな論文になりがちです。

 

もう少しスマートにやりたい(基礎学力あっての実験ないしはモデル作成)と思っていたので、この二年半の1/3くらいはひたすら理論取得&本を読んで知識を蓄えることに費やしました。

 

多分入学してから1000時間くらいは勉強しました。流石に1000時間も勉強すると公認会計士試験も合格できるレベルなので、色々と物の見え方が変わってきました。基礎ができたので「やりたい」と思うことに対して道筋が立てられるようになったのが良かったです。(数学的困難さが取り除かれた)

 

 

先生方はPhDを取らせたいので、本人のレベルを見ながら確実なほうをやらせます(つまり、理論とかそういうのが無理な学生は実験ベースになる)。そういう感じが悔しかったので、勝手に色々やっていたら

 

「この半年間は君が理論的な事をやるのに耐えられるだけの能力があるのか見させてもらった」

 

と半年後に言われて、晴れて理論的な事に取り組むことを許された訳でした。

危なかったです。ラボワーク(実験労働者)で3年間費やすとこでした(汗

 

もっとも同僚の殆どがラボでひたすらサンプル作っている人の仲にも優秀・ダメの差が明確に見えてくるので、こういった基礎研究はバカにはしてはいけません。優秀な人は実験屋にもいます。

 

イメージですが…

実験屋の優秀な確率が20%だとすると理論屋は90%みたいな雰囲気です。つまり、あんまり優秀じゃなくても実験屋としてなら何らかのテーマを見つけて何らかの新規発見があるのでPhD取れます(笑)

 

理論屋として博士号取得するのはゼロイチの部分があって、イチあれば非常にレベル高く持っていけるんですが、ゼロの危険性もはらんでいるという感じです。なので自分は理論と実験をミックスしてやりました(できるだけ実験に時間をかけないように)。結局最終的に理論的なブレークスルーが出来たので良かったのですが、理論一本でやるのは危険ですね…

 

という事で、私の思うPh.D取得のまとめは

 

・実力付けたい---> 理論・モデル

・学位欲しい---> 実験屋

 

だと思います。

特に、Ph.Dではないので全く同じと言うわけでは有りませんが、日本の場合だと博士の学生の就職事情が厳しいので、学位よりも実力をつけたほうがいいと思います。