統合失調症とボク

あの頃はまだ若かったんだ
 
一人の女性を愛した、初めて告白して付き合った彼女だ
 
彼女には子供がいた
 
あなたみたいな人
ボクを見下すように言い放った中学生の少年にボクは臆した
 
親としては見てもらえない
 
そんなことよりもうすでに悟られてる
ボクが人との付き合い方を間違えてる事
 
夜遅くまで彼女を連れまわし、ホテルに泊まらせたりした
 
アニメイトに行きたいと少年が言ったこと
いいじゃん一緒に行こうと答えたこと
 
3人で出かけるのが初めてだった
 
そのときの高速道路のトイレ休憩で二人きりになり言われたことで鼻っ柱をへし折られた
 
いじめられたことのある人間にはそういうニオイみたいなものが漂っているのかもしれない
 
見下されていると感じた時点でもう少年と付き合っていく自信をなくし
彼女への気持ちとの間で板挟みになった
 
大好きな人の子供に見下されている自分
どうにもできないもどかしい気持ちが溢れて弾けた
 
仕事中、ほかの人の契約の流れの中で自分の契約を取っていたボクは、初めて本当に自分からコンサルティングをして獲得できた案件があった
 
黒いガンツの球がボクにこうしたらうまくいくと教えてくれた
 
契約できた
達成感で高揚し、テンションは上がり、やってやったぞと初めて言える契約だった
 
そのテンションのまま煙草を吸いに行くとふと死んだ母親が天から微笑みかけてくれている、そう感じた。
涙が溢れてきた。
 
次に思い浮かんだのは彼女の事
嫌な予感がして電話を掛けた
彼女は仕事が早く終わり街中を車で走っていた
交通事故でケガをしたと妄想が出た
 
救急車まで呼び、近くのコンビニまで車で向かった
彼女は無事でどこもケガなんかしていなかった
車もきれいなものだ
 
でもボクは頭を打っているかもしれないと救急車に乗るように迫った
 
救急隊員はあなた友達はいるのかと尋ねてきた
そんなことより彼女を病院に連れて行ってほしいとお願いした
病院の方角を示してなにもない彼方を指さしていた
 
彼女がボクをなだめ救急車を帰し彼女の車で話をすることとなった
 
話は正直覚えていない、とにかく語気が荒く、声を張り上げ訴えたいことを連ねていった。頭の中は話の記憶をする余裕もないくらい回転して躁鬱を繰り返し何重にも張られた天使や神の序列の階層が浮かび、カッターか包丁か、刃物を持った彼女が自分の首を掻っ切る映像、汗が噴き出て手が付けられない統合失調症の症状が出ていた
 
彼女はボクの家族に連絡し、父と妹に迎えに来てもらう手はずを整えボクの相手をしてくれていた
 
どれだけの時間がたったかわからないが父と妹が迎えに来てくれた
父の顔を見ると不思議と暴走は止んで普通に話せるくらいに我に返った
 
妹にはボクの車を運転してもらい、父の車の助手席に乗り帰路につく
 
だが妄想はそのまま収まりはしなかった
 
父の車で帰っている途中、帰ったら父に殺される妄想が出た
 
恐怖し裏山で野たれ死ぬ映像が浮かんだ
父に殺され裏山に捨てられる、そう思ったボクは逃げ出した
 
走っている車の助手席のドアをあけ飛び出した
ゴロゴロと地面を転がり回転が止まったとたんに車の進行方向とは逆に走り出した
 
平屋の建物に助けを求めようとして戸を叩く
 
誰も出てこない
 
マンションから飛び降りようと考え近くのマンションに入ろうとしたがドアがあり入れない
 
追われる男となっていたボクは団地の1階のベランダの下に身を隠す
ヤクザの下っ端を経験したことがあるという勤務先の知人が銃をもって追ってきて
隠れているボクを見つけてこめかみに銃をあてる
ボクは死を覚悟して目を瞑ってその時を待った
 
引き金がひかれることはなく目を開けたボクはベランダから抜け出し走った
 
時間は8時手前位だろうか、真っ暗な竹藪に飛び込んだ
一段目、高さは2.5メートルほどだろうか
かかとをついて着地した
眼鏡も外れた
まだいける
 
もう一つ崖を飛び降りた
 
川に着水したボクは11月の寒さで流れる川で冷やされた
飛び降りた解放感からか川に冷やされたからか気分は落ち着いた
崖から飛び降りてしまった
這い上がるしかない
頭の中で曲が流れだした
当時放送されていた任侠ヘルパーに使われていた曲がいい感じにボクを盛り上げる
這い上がってはずり落ちて、ずり落ちては這い上がる、竹の枝を掴み這い上がる
登り切ったときには自分は人生も這い上がるのだと、この国を変えてやるんだと妄想していた
 
水に濡れいい気分で道路を歩いているとお迎えが来た
黒いセダンで未来の総理大臣を迎えに来た車の運転手は父、駆け寄る妹、兄もいる
黒いセダンと総理大臣はボクの妄想だ
車はほんとうはカローラフィールダー
 
彼女も駆けつけてきてくれた
この国を変えてやると思ったボクにはなんの政策もない
ただの妄想だから
 
道路で車のドアに隠れながら濡れた服を脱ぎパンツ一枚で車に乗った
妹には精神科に連れてってほしいと言った
父にはお父さんに殺されるかと思ったと告げた
父は殺さないよと言ってくれた
 
帰って10数年ぶりに兄と妹と川の字になってリビングで寝た
 
誰も傷つけないで良かった
自分は飛び降りたときにかかとから着地したせいで痛めたところはあった
 
でも無事だ、近所の幼馴染のおばさんには、母がまだ来ないようにしてくれたと言った
契約、母の死、彼女への想い、その息子との関係性、いろいろなことが頭の中で処理しきれないと何かが溢れ出てしまう
 
そういう病気が統合失調症
10年くらい経つが今も投薬を続け生活している
 
当時の彼女とは今は連絡を取っていない
 
別れたのはこの少しあとボクが職場を移して距離が離れてしまったせいもあるんだろう
 
他人から死ねと言われている妄想が昔はあった
今は薬でそんなことを考えることはない
皆に感謝してボクはまだ生きていたい