少し昔のお話。
このあたりで、一人の女性が無残な死体の姿で発見された。
第一発見者は、その女性の娘。目が覚めたら、目の前に母親が転がっていたらしい。
犯人は、その女性の夫。証言によると、殺されそうになったから殺したとのこと。
お母さんが、泣きそうに笑いながら話していた物語。
女性は最初、寝ていた娘をナイフで刺そうとしていた。しかし、あと一歩のところで夫に見つかる。
女性は、娘に振り下ろそうとしていたナイフを持ち替え、夫のもとへ。そして、夫の右腿を刺した。
そのとき、夫の方が壊れてしまった。
夫は幼い頃のことを思い出したのだろう。
ナイフを握る父親、ぐちゃぐちゃになっていく母親の光景を。
そして皮肉にも、その父親と夫は同じ道へと踏み外してしまった。
右腿のナイフを自ら抜き取り、妻へと一気に振り下ろす。
妻の胸からお腹までが縦に裂ける。妻は即死だった。
しかし、夫は止まらなかった。
工具を引っ張り出してきた夫は、妻で遊び始めた。
遊びが終わり、顔は綺麗なままぐちゃぐちゃになった妻を放置して、夫はどこかへと消えていった。
しばらくして、起きた娘は死体を見て警察に通報した。
調べるまでもなく証拠は部屋中に散らばっていたため、すぐに夫は逮捕され死刑となった。
残された娘も、行方をくらました。
「これが、失われていた記憶の物語よ」
お母さんが私の頭を撫でる。その手はとても暖かくて、私は幸せだった。
「ねぇ、結花は幸せ?」
「うん!!」
私は、元気いっぱいに“不幸せな娘”だった“幸せな母親”に返事した。
