最近、コンピューターゲームのチェスを時々やっているが、

レベルをめちゃめちゃ下げないと、ちっとも勝てない。

コンピューターはバカみたいな失敗をしてくれないし、『待った』もきかない。



高校生の頃、学校帰りに友達とたまに行く喫茶店のマスターに

ある日チェスの練習相手を無理やり紹介され、時々勝負していた事がある。

私たちのヘタなチェスの中に、上級者では考えつかない斬新な一手があるらしく、

非常に面白いんだそうだ。

私がお茶を飲みに行くと、マスターが電話で彼を呼ぶ。

いつも間もなくやってくるが、たまに仕事で来れない日もあるようだった。

30がらみの一見爽やかなその男性が、何の仕事をしてるのか特に聞かなかったが、

シャツの胸のボタンを常に必要以上に開けていて、

細マッチョな胸に金の喜平ネックレスが光っていたのを思い出す。

知らない方がいいような、何か秘密のにおいがした。

私は好奇心旺盛だが、ヤボなことはしない。

どちらもプライベートな話は全く無しで、

真剣にチェスを3局くらい打つだけの、思えば不思議な関係だった。

週一くらいのペースでも、すぐに「めくらチェス」までできるようになって、

今では信じられない記憶力だが、当時3回に2回は私が勝った。



3カ月も過ぎた頃、偶然車道の反対側を中年女性と歩いている彼を見たが、

なぜか声をかけない方がいいと感じ、お互い知らん顔で通り過ぎた。



後日、お茶を飲みながらマスターにその話をすると、

あいつはジゴロなんだと、こともなげに言った。

だからいつ呼んでも来られるわけだと思ったが、

まだ若かった私は、ジゴロの意味をちゃんと知っていたのだろうか。



それ以来、彼は来なくなった。

同レベルの相手がいないと面白くない。

私も次第にチェスをやらなくなった。





今はスイッチを入れたら対局相手が探せる。

便利だが、顔が見えないと何か寂しい。

対面で相手のことを推理しながら勝負するのはスリリングで楽しい。

知っている人とでも、意外な素顔を見られたりする。

でも、チェスやってる人、あんまりいないから

組み込まれたシステムを相手に腕を磨くとしましょう。