博士には、時々に協力者がいたが、どれも一攫千金をねらうハイエナのような出資者達が多かった。

協力者の中に、京都の土産物屋の30半ばのお兄さんがいた。

彼は私と同じく、博士の嘘つきな人間性に愛想をつかしながらも、博士の研究について真実を知りたくて取り巻きの一人として協力しつつも苦悩していた。

ある日曜日の朝、人の良さそうなそのお兄さんに喫茶店に呼び出された。

どうしても話したいことがあるから、来てくれないかと言う。

「昨日、博士が出張で、あの部屋にひとりで泊まったんやけど・・・」

「信じないかもしれないけど・・・」

「あそこ、若い男の霊がいる。気の弱そうなメガネかけたやつで、名前聞いたら鈴木って言った。」

「彼女に振られて、ショックのあまりベランダから飛び降りたって言うんや。博士の前の住人らしい。」

そんなことは知っていた。

階下の中華料理屋の店の前に上から落ちてきた事も。

博士の部屋は7階にあり、そのマンションは飛び降り自殺で有名なマンションだった。

他にもマンションはたくさんあるのに、なぜか皆ここにやってくるらしい。

しかも博士の部屋は直近の事故物件で、他の部屋に比べ破格に家賃が安かったから借りたんだと博士が言っていた。

博士は、霊などただの隣人くらいにしか思っていない。

博士の愛人兼運転手には女子高生の娘がおり、ときおりマンションに遊びに来ては、霊視をしてくれた。

「お姉さんの横に若い男の霊がいる。

あっ|゚Д゚))) 見ないほうがいいと思う・・・ 今、目が合ってるし・・・」

エレベーターを4階で止めては、

「この階、うようよ居る。三つ目のドア開けてこっち見てるし、階段の踊り場にも上半身乗り出して手を振ってる。廊下の端や消火器の横にも、うずくまって、ほら、はっきり見えるわー!怖い・・・もう行こう!」などと説明してくれる。

理由は知りたくないが、4階だけ、エレベーターすぐ横のひと部屋以外、誰も入居していない。空き部屋ばかりの階である。

彼女の家の階段の踊り場にはフランス人形が置いてあり、友達が遊びに来ると部屋を覗きに来るという。ドアの隙間から見ている人形と目が合うそうだ。どんなにドアをきちんと締めても、いつもなぜか少し開いているという。

目があうのが怖いから、なるべく見ないようにしているし、祟られそうで人形を捨てる事も出来ないそうだ。

彼女は霊感女子高生なのである。

私も博士のマンションでは、風もないのに棚の上の飾りが落ちたり

耳元で若い男のささやき声を聞いたことはあったが、それ以上に、生身の博士の方がずっと不思議で、悪さをするでもないおとなしい霊の存在など、とるに足りないものだった。

ある日、口から血を流した白装束の片目のおじさんがやってきた。四国88ヶ所の巡礼を100回以上まわって神通力を得たというのだが・・・。

博士との出会いは、1年前。喧嘩で怪我をしていたところを助けてもらった縁で、以来、怪我をすると博士に治してもらいにやって来るそうだ。全治数週間の傷が博士の手かざしで一日や二日で治るからと。

神通力で、誰が治してくれるかがわかるのだそうだ。自分では治せないんだろうか。

喧嘩早い性分は巡礼で治らないのかと聞くと、昔よりずいぶん減ったと、歯の抜けた口でにたっと笑い、口の中の傷がよくなったといって終わりのない巡礼に旅立っていった。

博士のまわりには、不思議な人たちが集まってくる。

そして秋の気配の9月終わりに、ひとりで留守番をする幽霊マンションに、あの東大生から電話があった。