博士はよく嘘をつく。
クリーニングに出してくれと渡されたスラックスが、とても綺麗な水色のチェック柄で、思わず綺麗ですねと褒めたとき、
「それは、イタリアで作ったんや!同じのを2本作らせた。」
ニコニコ顔で答える。
タグを見るとメイドインジャパンでmizunoと書いてある・・・。
私は何も言わずにクリーニングに出した。
ジャッキー・チェンが九州に来た時、近所のスナックのお姉さん達にこう吹いた。
「香港でいた時からの友達なんや(^▽^)。東京に移動する前に、お忍びで僕に会いに来るから、この店に連れてきてもいいよ。」
お姉さん達も、博士の愛人も、その日が来るのをドキドキして待っていたのに。
ジャッキーは九州からまっすぐ東京に行った。
博士も愛人も、ジャッキーの話をしなくなり、お姉さん達のスナックへは、ちっとも行かなくなった。
やはり詐欺師なのだろうか。
燃焼テスト実験はトリックなど考えられないのに。
たびたび遅配する給料に困りながらも、うさん臭い博士の人間性に首をかしげながらも、すべてを見極めるまで辞めない決心は私の中で固まっていた。
辞めないから土日だけ他でバイトをしてもいいかと博士に聞くと、
「悲しいことを言ってくれるな。何とかするから待っててくれんか。」
と、心底悲しそうな顔で言う。
昼食はいつも階下の中華料理店から、中華丼か冷麺に餃子と卵スープをとってくれていたが、
「先月分、まだいただいてないんですが・・・」と、申し訳なさそうだった中華屋店員に、
「これ以上ツケでの配達はできません」と露骨に嫌な顔をされるようになるまで、そう時間はかからなかった。
電気代が払えなくなり、何度も集金に足を運ぶ電力会社職員が来るたび、
「預かってないから払えないんです」と言う時の情なさ。
思わず「立て替えて払います」と言った私に、
「それはしない方がいい」と止めた職員の哀れむような眼差し。
『私は何をやっているんだろう。きっと私も博士の愛人だと思われているんだろうな・・・』と、穴があったら入りたい気持ちだった。