近所の遠縁のおばさんは後期高齢者

 

私が 「50代と違って 60代の坂はきつい」と言うと

 

おばさん曰く

 

「あんたなんか若いやん。70代はもっとしんどいで。」

 

更年期の頃、55を過ぎると 楽になり

 

思う存分楽しむぞと思っていた

 

しかし 職責が重くなり、

 

貴重な月日を仕事オンリーで過ごしてしまった・・・

 

60になれば 引退し 趣味や旅行に勤しもうと思っていた

 

ずるずると 仕事に追われ 体力・知力はガクンと落ち

 

あれよ あれよと言っているうちに 現在に至る

 

1年が日を追うごとに早くなる・・・

 

 

アセアセ  えー?  笑い泣き  ぼけー  ガーン

 

5年ほど前 父の法事に私は隣町の駅に向かっていた

 

その日は風が強く 横なぐりの雨だった

 

駅のプラットホームまで 階段を昇り降りしなければならない

 

電車は 1時間に2本

 

電車の時間が迫っていたので 私は傘を前方斜めに道を急いだ

 

その時である

 

突然 左足が何かに当たり けつまずいた

 

あっと思うのと 地面に顔面から叩きつけられるのは同時だった

 

マンホールの周りの道路塗装が経年劣化で落ち込み 

 

マンホールが浮いていたところに爪先を引っ掛けたらしい

 

「お父さん あんたの法事に行くのに 何すんのよ!」

 

「痛い」とは思ったが 私は先を急いだ

 

 

電車は混んでいた

 

1時間ほど乗り 乗り換え駅で トイレに寄った

 

頬はズキズキしていた

 

トイレで手を洗い 鏡を見た時

 

私は驚愕した

 

左目頭から タラーンと血が流れ出ていた

 

充血は知っているが 目から血が出てくる体験は初めて

 

しかし・・・「行かねばならぬ」と

 

売店で眼帯と冷えピタを買い それを左目に当てて 

 

時々血を拭い

 

地下鉄に乗り 法事行きを強行した

 

田舎から出てくることは そんなにないので

 

帰りに銀行までより手続きまでして お土産買って帰ってきた

 

大事をとって入浴は清拭で済ませた

 

 

さて その翌日

 

視覚には異常が無かったので 出勤しようと鏡を見たところ

 

そこには 顔面左半分が紫色に腫れ上がった 

 

お岩さんがいた・・・

 

さすがに これは出勤できんわ・・・

 

連れ合いに電話し、会社から帰ってきてもらい

 

総合病院を受診した

 

耳鼻科(顔面は耳鼻科)で CTをとり

 

左眼窩底と頬骨の骨折がわかり

 

その後眼に異常がないか 眼科受診

 

眼科医曰く

 

「よくあるんですよ。マンホールでけつまずく人

 

あなたの前に 同じように転倒し 路肩の路側帯のコンクリートに

 

顔面を当てた人がいましたが、その人は失明でした。

 

不幸中の幸いでしたね。」

 

『不幸中の幸い』か・・・

 

医師からの指示は「鼻をかんではいけません」だった

 

眼窩底骨は薄い骨であるが 眼球を支えており

 

私の場合 全部崩落したので 

 

眼球が脂肪の中に ぷよぷよ 浮いている状態

 

鼻をかむと吸引力で 眼球が引っ張られ 沈む=奥眼になる

 

いわゆる 『片奥眼』

 

そうなると「手術」になる

 

主治医曰く

 

「鼻はかまずに 出しっぱなしにしてください。

 

出たら拭く程度にしてくださいね

 

全部崩落して 良かったですね。残っていると手術です。

 

不幸中の幸いでしたね。」

 

また『不幸中の幸い』か・・・

 

「頬骨骨折は細かい骨折がいくつもありますが、そのうち

 

カルシウムがくっついて再生するでしょう。

 

内出血と腫れは2週間ぐらいで引くでしょう。」

 

というわけで 何も処置なく 日にち薬となった・・・

 

あとには 「お岩顔」だけが残った・・・

 

翌日 私は 濃いサングラスをかけ 大きいマスクをし

 

誰かわからないぐらい変装して出勤した

 

花粉症の時期で マスクの中では 

 

今度は 鼻水がタラーンと出ていた

 

友 曰く

 

「かえって めだってるでぇ・・・

 

あんた 何やらかしても サービス精神旺盛やからなあ

 

どうもなくて 良かった  良かった

 

笑い取れるなんて  不幸中の幸いやんか・・・」

 

と笑われた

 

ちなみに この「眼窩底骨折」

 

ボクサーが目を打たれて よくなるアレである