祈りの声が届く時
「なぜ、なぜあんな真似を!」
血反吐を撒き散らすかのごとくに悲痛な叫びが喉を裂いてあふれ出す。
ようやくだった。
ようやく、切れかけた細い糸を手繰り寄せるようにして辿り着いた犯人。
警察官を続けながら、必死に探り続け、追い求めてきた復讐相手を前に、胸が引き絞られる程に痛い。
信じたくなかった、信じていた、神に祈った己を呪いたくなる。
なぜ、なぜだ、なぜお前がそこにいるんだと、あの日の惨劇の場ーー朽ちた神社で佇む犯人へ、声をかぎりに糾弾する。
「なぜ、と?」
けれど、対するヤツはーーかつての同僚であり、相棒であり、いまや一部に神と崇められるようになった男は、心底不思議そうに首を傾げ、そしてどこまでも無垢な瞳で言葉を返す。
「君がそれを聞くのかい? 生きる意味が欲しいと僕に願ったのは君でしょう?」
「は?」
生きがいが欲しい、生きる意味が欲しい、と、願ったのは君だと彼は告げる。
「それが」
確かに言った。
妻に出会う前の、仕事に、日常に、すべてに膿んでいた頃に俺は確かに愚痴めいたものをこぼした。
この境内で、この社の前で、何気なくポケットに入っていた大福もちを置いて、愚痴を吐いた。
でも、それがなんだというのかーー
「君は願ったでしょう?」
「……あ、ああ、まさか……まさか、おまえ」
愕然とするこちらへさらなる声が届く。
俺は、何に願った?
何を願った?
まるで天からの啓示のように、あるいは運命のように、教え諭すように、慈悲すら滲ませて微笑み、ヤツは紡ぐ。
「だから、叶えたんですよ」
目に見えない透明な無数の矢に全身を射抜かれていくような錯覚。
「久方ぶりに供物を捧げてくれた、他ならぬ君の願いだ。一生を懸けるに値する『復讐』という名の『生きる意味』を与えたんだよ」
脳裏に蘇るのは、木々に囲まれた境内で、おびただしい量の暗赤色に塗れて横たわる妻と幼い子供の変わり果てた姿だった。
それが、その記憶が、奴の微笑みに上書きされながら俺の視界を絶望に塗りつぶしていく。
「生きる意味を得で、その目的を果たさんとしている君はさて、次に何を僕に願うんだい?」
心から嬉しそうに、愛しげに、ヤツは両手を広げて俺に問いかける。
願うな、祈るな、考えるな、と、その代償の大きさと計り知れなさに理性が叫ぶが、でも、もうわからない。
『人ならざるもの価値観』を、『神に願う業』を、なぜ捉え誤ったのか。
俺は、次に何をーー
「その願い、聞き届けた」
刹那。
世界がひび割れる音がした。
了