■六人の嘘つきな大学生
■作:朝倉秋成
莫大な人気を誇るSNSスピラを開発した会社が、満を辞して新卒総合職の採用を開始。
最終面接に残った大学生6人に与えられた最後の課題はグループディスカッションだった。
そうして迎える内定をかけたディスカッションの最中、「事件」は起きた。
就活を中心に置き、語り手が事件を振り返る形で綴られた6人の大学生たちの心理を巧みに描き出した作品。
読み終えて最初の感想は、「すごい」であり、「ひどく優しいな」でした。
ラストの余韻に希望といくばくかの痛みを添えて、「ああ、この構成でこれを読ませてくれるのか」と感嘆のため息をついた次第。
丁寧な心理描写、緻密な状況描写、仕込まれていく伏線、それらを一段上の読後感へ導くのが「視点」の妙で。
月の裏側の例えがとても印象的であり、それがテーマとなり、美しく昇華されて物語を『魅せる』ギミックとなる。
自分が見ているのは、相手のほんの一面に過ぎない。
でも、その一面は見方を変えた瞬間に相手への評価とした価値も変わる。
何をもって、人は人を評価するのか。
その立ち位置と共に負う責任についても考えてしまいます。
就活生である彼らにかつての自分を重ねていながら、事件を追ううちにいつしか評価する側に へ。
丁寧に紡がれ、緻密に積み上げられていく『面接試験』と、差し込まれる『証言』で変わっていく『相手への印象』の不確かさ。
登場人物の書き込みが巧みであるがゆえに自分の思考も揺れるという体験に唸ります。
ー-嘘つきは誰なのか。
就活というものが持つ奇妙な歪さや理不尽さ、不可解さを理解させられた上でなお、読了後に残るのは、心地よさ。
遠い日に置き忘れてきた『若さとも呼べる純粋さ』に指先で触れるような、何とも言いがたい感覚もまた愛おしみたくなるような。
ミステリーとしてもギミックが効いていて、ラストに向かうほどに読む手が止まらなくなりました。
私自身は何十何百のエントリーシートを出したり、内定を求めて数十社の就職試験に挑んだというリアルな経験はありません。
職種ゆえに氷河期世代でありながら過酷な就活も経験してもいません。
でも、確かに心の奥まで深く刺さりこむ読書体験となったのでした。
